サミュエル君と冒険者ギルド
次の日、フラワーコットンに行くとサミュエル君の元気のいい挨拶で迎えられた。
「いらっしゃいませ、ロゼッタ様!」
「こんにちは、サミュエル君。元気一杯ですね」
「ええ、新しい刺繍を考えていると、元気モリモリですよ!奥にどうぞ、バッグも用意しています」
いつもの奥の部屋に入るとサミュエル君はテーブルの上にポーションバッグを並べていった。
「確認をお願いします!」
「はい、あと、侍女さんの刺繍はランさんが聞いておくそうです。そちらの注文も入ればまた忙しくなりますね!」
「頑張ります!チェンさんに相談した所、王宮にお勤めの方には新しい柄は勧めない方がいいと言われましたので古典柄を中心に考えてみます!」
「宜しくお願いします。ポーションバッグも問題ありません。次の納品分もお願いしますね」
私がポーションバッグを確認しているとチェンさんが、お茶を持って来てくれた。
「いつも注文有難うございます。お急ぎでなければゆっくりして行って下さい。パーティーでは私まで招いて頂いて有難うございました。あのような素晴らしいパーティーは初めてでした」
「チェンさんも楽しんで頂けて良かったです。ゆっくりしたいのですが、この後、冒険者ギルドに行くのですよ。あ、宜しければこちらを試しに使って頂けませんか?試作品のハンドクリームです。手仕事をされている方の意見をお聞きしたいのです。女性と男性の違いも知りたいので、良ければ、チェンさんとサミュエル君、二人とも使って頂きたいのですが」
「ええ、喜んで。冒険者ギルドにもお薬を卸しているのですか?お忙しいですね」
「ええ、ポーションや傷薬も売りに行きますが、今日は携帯食料を売りに行きますよ。それと、個人的に武器を見に行きます」
「武器を?ジェーン様が使うのですか?」
チェンさんがお茶を置きながら驚いていた。
「ええ、武器を使う・・・みたいなものですかね・・・。武器をじっくり見て勉強です。私は杖しか知りませんから、武器の事を詳しくないのでとりあえず見てみようと思いまして」
「成程。魔女様の勉強の為と言う事ですね、勉強熱心でございます。どうでしょう、武器の事でしたらサミュエルをお連れになっては。役に立つと思いますよ、この子は武器屋の倅ですから」
「え?」
私がサミュエル君を見ると、もじもじと手を合わせながら頷いていた。
「実家は武器屋なんです。兄さんは武器屋を継いでいます。鍛冶職人を親から勧められたのですが、僕は刺繍や洋服が好きでこの道の方に進みました」
「サミュエル君をお借りしても良いのですか?私も携帯食料の話があるので、一時間後にギルドに来て頂ければ、助かりますが」
「ええ、問題ないですよ。ついでにお使いも頼みますから。サミュエルをしっかり使って下さい」
チェンさんは礼をすると部屋を出て行った。
「サミュエル君、お忙しい所申し訳ないですが、武器の事もお願いします。あと、リボンとクラバットの希望ですね。使う刺繍糸をお借りしたいのです。で、私の魔力を練り込みます。出来上がったリボンを私がまたちょちょいと錬金して守護を重ねてかけます。すると祝福のリボン、クラバットの完成!・・・のはずです」
「凄い!伝説のリボンですね!恰好良いです!あの、それなら僕が送る予定のリボンの刺繍糸にもお願いします。せっかくなので、伝説に仲間入りをしたいです」
「ふっふっふ。いいですよ、成功するかはわかりませんが。で、糸の色ですよね、黄色に合う色で、皆が使って可笑しくない色・・・。なんでしょう?」
うーん、とサミュエル君は耳をピコピコして考えた。
「目立つ感じがいいなら紫です。強い感じなら黒です。優しい感じなら白や茶色、自然な感じなら緑やオレンジですかね?」
「さすがサミュエル君。では糸は四色使って下さい。魔法使い様達は各名前の色にしましょう。白、茶、緑で刺繍を。リボンは白・・・いや銀色でお願いします」
「かしこまりました。どんな刺繍にしましょうか?」
「魔法使い様達には杖の刺繍と同じ色の宝石一粒縫って下さい。リボンにも一粒宝石を。色はお任せします。刺繍はツタで」
「では、図案を作っておきますね。刺繍糸を用意してお渡しします。魔力を込められましたらお持ち下さい。僕が伺ってもいいですよ?またウェル殿で知らせて下さい」
私は頷き、お茶を飲むと、刺繍糸を預かりフラワーコットンを出て、冒険者ギルドへとむかった。
冒険者ギルドはフラワーコットンからゆっくり歩いて十分程の所にあった。
少しドキドキしながらギルドに入ると、受付のお姉さんが挨拶をしてくれた。
「ようこそ冒険者ギルドへ」
「名無しの薬局です。携帯食料を持って来ました」
「今日は魔女様なんですね、副ギルド長を呼んできますのでお待ち下さい」
私はカウンターの近くの椅子を指さされたので、そこに座り辺りを眺めて副ギルド長を待った。ほどなくして、副ギルド長が来ると挨拶をかわし新しい味の携帯食料を勧めると沢山買ってくれた。
話しを終え、ギルドを見渡すと、ギルドの奥に武器が沢山並んでいるのを見付けたので、副ギルド長に聞いてみた。
「すみません、武器を色々見たいのですが、私が見ても宜しいですか?」
「ええ、修理を主にしていますが、販売もしていますよ。案内をしましょうか」
「いえ、知人を待って見せて頂きます。今後とも宜しくお願いします」
「いえいえ、こちらこそ。また何かありましたらいつでもどうぞ」
私が挨拶をし、椅子に座って辺りを観察していたが、冒険者ギルドは思ったよりも静かで落ち着いていた。うるさい酒場みたいなイメージだったのだけれど違うのね、と思っているとギルドの扉が開いてサミュエル君がやってきた。
「サミュエル君、こちらです」
「お待たせしましたか?奥の武器屋ですね?では、行きましょう」
私達が武器屋に入ると、大きな体の男の人がちらっと私達を見た。
「こんにちは」
「らっしゃい」
サミュエル君が声を掛けると男の人は頷いた。
「ロゼッタ様が見たい武器は何ですか?」
「鞭ですが、色々見たいと思っています」
「鞭ですか・・・お使いになる予定ですか?鞭は扱いが難しいですよ?種類も色々ありますが・・・。そうですね、ここにある、長い縄の様な物、あと、この棒のような物も鎖で繋がってまして、鞭に分類されたりもしますね・・・。どちらも使うのが難しいとされる武器ですね」
サミュエル君の言葉に私は頷く。成程。
「少し触ってみる事は出来ますかね?」
私達の話を聞いていたのか、大きな男の人が武器をカウンターに並べてくれた。
「副ギルド長から話は聞いてるよ。好きに見ていいよ。そっちのお連れさんが言うように、鞭は扱いが難しいな」
私は手に鞭を取り、触り心地や硬さを確かめてみた。使い魔達も武器に興味深々で、色々触っている。
「魔女様が振るのは止めときな。鞭で自分を攻撃してしまうだろうよ」
「わあ、それは大変ですね。こう、私でも使えそうな武器って何でしょうか?」
「うーん、ロゼッタ様ですか・・・。レイピアはどうでしょうか・・・」
「うーん、それでも、片手で持つのは難しいんじゃないか?ダガーはどうだ?」
二人が考えてしまった。
「とりあえず、気になる物を触ってみたらいい」
「そうですね、ロゼッタ様が好きな物が一番でしょう」
そして、考えを放棄させてしまった。
「なんだかすみません」
私は両手で持つ大きな剣から、槍、盾、弓、色々触らせて貰った。
「お好きな武器はありましたか?」
「はい、個人的に恰好良い武器はありました。使えるかどうかは別としてですが。武器っておいくらくらいですか?」
「高いのから安いのまでピンキリで色々だな。ちなみにどれが気になったので?」
「ダガーと、ハルバート、モーニングスターです」
「「・・・・・・」」
二人は黙ってしまった。だって恰好良いと思ったのだもの。
「ダガーは、手頃なのがこの辺だな。大体五本から十本位まとめて買う奴が多いな。ハルバートは売れないのでそこに二本あるだけだ。買ってくれるなら勉強はするよ。モーニングスターも何種類があるが、小さい物から大きい物まであるがね・・・どうしたもんかね・・・」
「では、ダガー十本と、そっちのハルバートと、そこのモーニングスターを下さい」
「・・・まいど・・・」
私は苦笑いした武器屋さんから、ほくほくして武器を受け取るとマジックバッグに収納した。