薬局の日常とホーキンス隊長
午後、カランとドアベルを鳴らし第二軍団のホーキンス隊長が綺麗に礼をし店に入ってきた。
「お変わりは無いですか?お呼びとの事でしたが」
お客さんが少ない時間を選んでくれたのか、ホーキンス隊長が店に入って来た時は入れ違いでお客さんが出て行った所だった。
「いらっしゃいませー。私は何もないですよー。変なお客さんも今のところは大丈夫ですよー。ロゼッタかなー、今、薬作ってるので、ちょっと待って下さいねー。第二の商品持って行って貰っても?何か注文ありますかー?」
「はい。携帯食料の新しい物を四種類ほど十ずつ購入出来ますか。以前いただいた物が美味かったですね。ひやかし等は大丈夫でしょうか?」
「大丈夫ですよー。見回りもして貰ってますしー、フォルちゃん達がいざとなったら叩きだしてますよー。携帯食料は新しい物ですか?四種類なら、バター、塩ナッツ、甘いナッツ、第六スペシャルにしましょうかねー。十ずつなら今渡せますよー、少々お待ち下さいねー」
「はい、ではそれで。使い魔殿がいらっしゃいますが、何かあればすぐにお呼び下さい」
私がハンドクリームを作っていると、ホーキンス隊長と目が合った。
「ホーキンス隊長、呼び出してすみません。王宮で話していたポーションバッグが出来上がりました。この薬が出来上がる迄、ちょっと待って下さい」
「ええ、慌てずにどうぞ」
私が魔力を注ぎ、錬金釜を混ぜているとホーキンス隊長は近くに来てじっと見ていた。ポワッと光り、薬が出来上がると私は息を吐き出した。
「よし。今、ハンドクリームを作ったのですけど、試しにちょっと塗って貰っても宜しいですか?試作品なんです」
「自分の手にですか?どうぞ」
ホーキンス隊長は手袋を外し私の前に手をだした。
「大きな手ですね。あ、薬で痒くなったりした事ないですか?傷はどうでしょうか?」
「はい、ないです。傷も手には今は無いですね」
「傷は無しですか。では、塗りますね。どうでしょうか?塗った感じは気持ち悪くないですか?」
「このまま剣を持つと滑りそうですね。手袋をするので問題はないですが、手袋に薬がつきませんか?普段、私が使うのは難しいようです」
私はハンカチを渡しながら、ホーキンス隊長の手をまじまじと見てみる。
手袋に薬をつけてしまったら手袋を駄目にしてしまうかしら。
「手が気持ち悪いならふき取って下さいね。もう少し馴染む感じにしないといけませんね。まだベタベタが強いのかな。油の種類を変えた方がいいのかな。足に使うのはどうかしら・・・」
「いや、自分は剣を振ったり、手袋を着けるのでそう思っただけかもしれません。女性が試したら違う事を言われるかもしれません」
「成程、とても参考になりました。では、ホーキンス隊長!ジャーン、ポーションバッグですよ。私が個人的にあげる人だけの守護付きの特別仕様です。効果は薄いかもしれませんがどうぞ受け取って下さい」
ホーキンス隊長は礼をすると胸を一度叩き、ポーションバッグを受け取ってくれた。
「有難く使わせて頂きます。我が隊の者も、ポーションバッグを使っていますよ。大変使い勝手がいいと、皆喜んでいます。衝撃に強い事がいいですね」
「喜んで頂けて嬉しいです。ホーキンス隊長、夏や冬の巡回であった方がいいな、と思う物があったら教えて下さい。作れそうなら作ってみますので」
「宜しいのですか?邪魔にならない防寒具があれば、冬の夜の巡回では有難いかと。夏は逆に暑さをやり過ごせる物が欲しいですかね」
「参考にして考えてみます」
私がノートに書きこんでいると、ランさんがカウンターに商品を置いた。
「ホーキンス隊長ー、携帯食料ここに置いておきますねー。サインもお願いしますー」
ランさんの声に頷き、ホーキンス隊長は商品を受け取るともう一度礼をした。
「とても良い物を頂きました。訓練も楽しみにしております」
「はい、頑張って訓練をしますよ。そういえば、ホーソンさんが結婚までにホーキンス隊長に勝ちたいって言ってましたよ」
ホーキンス隊長はちょっと目を大きくすると、クシャっと笑われて、「ホーソンには負けませんよ」と言って礼をして店を出て行った。
「ホーキンス隊長も嬉しそうだったわねー。ハンドクリームはもうすぐ出来そうね。王宮の侍女さん達と、水仕事のお客さんを中心に売り出してみようかなー。隊員さん達から注文入れば大口で良かったけどねー、剣を持つ時に違和感があったり、手袋駄目にしちゃう可能性があるなら勧められないわねー。ロゼッター、足に塗ったりも考えているの?」
「ランさん、ハンドクリームはもう少し薄めて作ろうと思います。伸ばす成分の油を変えて分量の計算をお願い出来ますか?ジョゼッペさんが、足がカサカサって言ってたんですよ。夜寝る前に足に塗って貰うのはどうですかね。夜寝る前なら少ししっとりでも良いのでは。それと、私、冒険者ギルドって中に入った事無いですけど、怖い感じですか?」
私が携帯食料の注文書を見ながら言うと、ランさんは頷いた。
「了解ー、冒険者ギルドは怖くないわよー。副ギルド長は女性だし、ロゼッタ行ってみるー?ジョゼッペさんにも試作品持って行ってみましょうかねー」
私は注文書をガサッと錬金釜の横に置くとランさんを見た。
「はい、明日でいいならサミュエル君の所の後に行きますね。少し話もしてきていいですかね。あ、サミュエル君にハンドクリームを試しに使って貰ってみます。手仕事をする人の感想を聞きたいですね」
「携帯食料沢山売ってきてねー。サミュエル君には新しい刺繍の話もお願いねー。侍女さん達が使うなら刺繍も華やかにして貰わないと駄目かしらー?」
「了解です。サミュエル君に伝えます。それと、武器も見て来ますから、帰りは少し遅くなります。急ぎの時は連絡下さい」
「了解ー、強いロゼッタ素敵よー」
私はサミュエル君に、明日、薬を試しで使って欲しい事、侍女さんの刺繍の事等をウェルちゃんに手紙持たせて送ると、ウェルちゃんが返事を持って帰ってきた。
「ロゼッタ様
刺繍の件、薬の件、承知致しました。侍女様達の刺繍は王宮の規則があるはずですので、事前に希望の花の種類等をお聞き下さい。出来上がっているポーションバッグも明日お確かめ下さい。冬祭りのリボンに刺繍や飾りを付けられますか?明日、教えて下さい。では。 サミュエル」
そうだ、冬祭りのリボンやクラバットもあった。私はノートを出すと、リボンの刺繍の希望や、色等を書き出していった。
「ランさん、サミュエル君から侍女さん達の花の刺繍は、花の希望を聞いて下さいとの事です。王宮規則があるはずだからですって。確かに、何か細かい規則があるかもしれませんね」
「分かったわー。早速手紙を出しましょうかねー、あ、新聞記者さんが新しい飴玉の味はないかって聞いてたわよー、ロゼッタ何か思いついてる?」
「ふっふっふ。のど飴を考えていましたよ。蜂蜜のど飴はありますよね?それにショウガたっぷり入れて辛いのど飴はどうでしょうか?凄い効き目で、辛くて眼が覚めます」
「成程ねー。子供向けに甘くするのは多いし、皆舐めやすくするために甘い物は増えてるから、逆に辛く攻めるのねー。大量に売れないけど、他の店にも迷惑掛けないしいいと思うわー」
ランさんは在庫をチェックして、早速材料をより分けてくれていた。
「ランさん、身体がポカポカしそうな飴も作りましょう。隊員の人達に売れますよ。少しだけ、唐辛子成分入れた甘い蜂蜜飴なら巡回中に舐めてもいいんじゃないですかね?それか、ジロウ隊長がくれたお菓子みたいに、すっと口で溶ける方がいいですかね?」
「いいわねー。アイデアてんこ盛りねー。色々配分考えてみるわー」
ランさんは、ふむふむ、と言いながら計算しつつ錬金釜の横に材料をドサドサと置いて、私は暫くは新しい薬の開発に頑張ろうと思った。