ハンドクリームとダイエット
二日毎の投稿となります。
ランさんは店を出て行くジロウ隊長を上機嫌で見送っていた。
「ご機嫌ですね、ランさん」
「うふふー、王宮から携帯食料の大口注文が届いたのー。王太子殿下が勧めたのかしらね?法務局や、侍女長からも注文がきたのよー。夜勤の侍女さん達が欲しがっているんですってー。ただ、ダイエットにいいと思われていたら困るから、食べすぎ注意は教えてあげましょうかねー、売り上げ上がるのは嬉しいけど、太ったって文句言われたくないしー」
私はびっくりしてランさんを見た。
「え!太るんですか?私、結構食べてますよ・・・」
「ロゼッター?よく考えてみてー?甘い物やナッツ、お菓子の材料を盛りだくさん入れて、ぎゅってした感じでしょー?健康的だけど、お菓子より太るかもよー?携・帯・食・料・よー?ご飯の代わりになる、栄養価が高い物なのよー?」
「そんな・・・」
「丸いロゼッタも可愛いと思うからいいけどねー」
うふふー、と笑うランさんに私は首をぶんぶんと振った。
「いやですよ、ローブがパンパンの魔女になってしまいます。最近、皆がお菓子くれるし、パーティーもあったし、太った気がするんですよね。お腹のお肉が摘まめるかな・・・。ちょっと訓練の為にも運動がんばろう・・・。ウィリデさんに乗らせて貰おうかな・・・。ダイエットでスレイプに乗りに行ったら怒られますよね・・・」
「いいんじゃなーい?魔女様だものー」
「ええ・・・」
がっかりとした私にアルちゃんが肩に乗って頬を寄せてくれた。ランさんは笑って、在庫の携帯食料をチェックしていた。
「太る話はいいとして、携帯食料の売り上げがいい感じよー。お土産目的でお店に来る人にも勧めやすいのよねー。腐りにくいし、珍しいし、持ち運びやすいでしょー?旅人や、冒険者が王都に増えたって聞いてから、この間冒険者ギルドに売りに行ったら面白いほどに売れたわー。寒い地方にも売りたいわよねー、辺境なんかに売れないかしらー。また明日はギルドに売りにいこうかしらね。記者さんにも試供品あげたら注文が届いたしー、ロゼッタ、第六の携帯食料も出来たんでしょー?」
「はい、ランさん。第六の隊長さん宛に三種類程試しに送ってたんですけど、先程、大口注文入りましたよ。一番色々入った豪華な物が注文入りました。第六スペシャルと名前付けましたよ。こうなったら皆も道連れで一杯食べさせようかな・・・。王太子殿下には教えた方がいいですかね・・・魔蝶飛ばそうかな・・・、隊員さんは食べても太らないかな・・・」
「宿屋に売りに行ったら冒険者の人が欲しがるだろうって、買ってくれたのよねー。石鹸も沢山売れたのよー。薬師協会にも、栄養価の高いお菓子として一回り小さい物を持って行ったら買ってくれたしー。来月の売り上げ計算が楽しみねー」
ランさんはドサドサと注文書を錬金釜の横に置いた。
「ロゼッタ、新しい薬も何か考えてねー。お肌ツルツル薬の次は何かないー?ロゼッタの話聞いたら、消臭剤も売れそうだしー、宿屋に持って勧めてみようかしらー。掃除にいいなら・・・学園も買ってくれそうねー」
「そうですね、いくつか新しい商品を考えているんですが、すぐに売れそうなのは、臭いの取れなくする薬があったじゃないですか、あれの応用ですね・・・」
「べとべとスライム薬?虫取りでもするのー?」
ランさんは棚から薬を出し私の前に置いて首を傾げた。
「いいえ、寒くなってきましたからね。今から手先が荒れる方が増えるでしょう?」
私は薬の蓋をあけ、スプーンでびよーんと少し出してかき混ぜてみる。それから薬皿の上に少し取って蓋を閉めて、練薬と植物油を出した。
「これ、スライムのびよーんっと伸びる部分使ってますから、傷薬の練薬とオイルに少し垂らしたら、手先のひび割れに使える薬になりませんかね?単純に混ぜるだけでは出来ませんが、少しいじれば新しい薬にならないかなと。ランさん、石鹸に使ってる良い匂いの練薬、あれも混ぜたら売れますよ。化粧品では良い匂いの物売ってますけど、手荒れ用の良い匂いの物は無いですからね」
「おお!!いい!!流石ロゼッタ!うーん、混ぜる為の油ね・・・。お花系の油?葉?実?蜂蜜がいいかしらー。成程ー、何種類か試してみようかなー。よーし、新しい薬はハンドクリームね!がっぽがっぽよー!私は配合とかを考えればいいのねー?任せてー!」
「はい、ランさん。頑張って稼ぎましょう!」
私達は色々試作品を作り、自分達で試したりして商品を開発しているとお昼休憩の時にランさんが手紙を渡してくれた。
「さっき、ロゼッタ宛に手紙が届いていたの忘れてたー。手紙が届くの少なくなって良かったわねー」
「ええ。それでも最近はお祝いの手紙が届くので、以前よりは多いですね」
私がランさんから受け取ると、マークさんと、学園の友人からと、ハワード隊長からだった。マークさんの手紙はコロン領の森周辺の近況報告と、お披露目の噂がコロン領迄届き、是非見たかったと、書いてあった。
友人からの手紙も同じような内容で、時間があれば遊びにおいでと書いてあった。ほいほい行ける距離ではないので、本当に早く転移を覚えたい。
ハワード隊長からは今度の休みに王都にあるメリア料理店に一緒に食事に行きませんか?良ければ都合のいい時間を魔蝶で知らせて欲しい、と書いてあった。
メリアの料理・・・。
ライラさんからもお祝いに添えてあった手紙で、メリア料理は少し変わっているけどとても美味しいわよ、って書いてあった。オレンジのソースが美味しい肉料理もあると書いてあった・・・。野菜の炒め料理に果物も入っていて、美味しいと手紙にあった・・・。また太っちゃうかしら・・・。
私はうーん、と考えたがしっかり運動を頑張る事にして、魔蝶で早速ハワード隊長に休みを伝えた。
運動・・・、運動をすれば大丈夫なはず・・・。
お昼休憩を終える頃に、クリスさんが薬局へ戻って来た。
「やあ、お嬢さん達はもうお昼は食べたのかな?」
「こんにちはクリスさん、お昼はもう食べましたよ。パンとスープがありますが食べますか?」
「ご馳走になろうかな。チーズと一緒にそれも食べよう。屋台のお菓子も買ってきたよ、可愛いお嬢さん達は食べるといい」
「お菓子・・・。クリスさん・・・頂きます。お茶を淹れましょう、ランさんも飲みますか?」
「貰うー」
ランさんはクリスさんのお菓子の袋から一つお菓子をつまむと口の中に入れてカウンターの方へ行った。
ランさんの方が私より食べているのに、ランさんはちっとも太ってない。
「クリスさんも忙しそうですね、今日も王宮でしたか?」
ポットにお湯を入れながら私が聞くと、クリスさんはお皿にお菓子を出しながら頷いた。
「ロゼッタさんも食べるといい。ああ、今日は王宮の廊下を中心に見て回ったよ。まずは、普段飾ってある物を見て回る事にしたんだ。歩いて見て回る方が楽しいからね」
「面白い物はありましたか?」
「うん、百年くらい前に絵の中にメッセージを残す事が流行ってね。そんな絵画を見つけてしまって楽しかったよ」
ランさんにお茶を持って行って、私も仕事の準備をしながらクリスさんの話を聞く。
「愛する恋人へのメッセージが隠れていたり、金持ちを皮肉った事が隠されていたりね。言葉で出せない事を隠して伝えたんだろう」
錬金釜の横で材料をより分けていると、クリスさんはお菓子を私に勧めた。
「ロゼッタさんは食べないのかな?パパのお菓子は嫌いだったかな?」
「う・・・。いえ、最近、お菓子を沢山食べてまして、太ったかなと・・・。少しお菓子を減らそうかと思ったばかりなんです」
「なんだ、もう少しふっくらした方が可愛いんじゃないかな。僕達は沢山魔力を使うから、お菓子は食べた方がいいと思う」
「え!食べていいですかね!」
「ああ、勿論。ベンとゼンと甘い物を食べに行くと聞いたよ。楽しく行っておいで」
「はい!クリスさん!」
私がウキウキしながら焼き菓子を頬張り、使い魔達にもお菓子をあげると皆も喜んで食べていた。
錬金釜に魔力をたっぷりと注いでいるとランさんが、「丸くなってもロゼッタは可愛いわよー」と言った。