薬屋の日常と観光名所
賑やかなパーティーも終わり、薬局には通常の毎日が戻って来た。
「ロゼッター、新しい注文書ここに置くわねー」
「はい、ランさん。急ぎのポーションは出来ましたよ」
お披露目が終わった後、名無しの薬局は魔女の店としてちょっとした有名店になった。
お客さんが増えた事は嬉しい事なんだけれど、「何かあってからじゃ遅いのよー」と、ランさんがタウンゼンド宰相に魔鳩を飛ばし、店の表に「ひやかしはお断り、王宮御用達の店、叩き出す許可有り」との看板を出した。
店の前をウロウロする観光客がいたり、店に入って来て私に会いたいって人もいたけど、ランさんがにこやかに断ってあまりにしつこい人はフォルちゃん達が叩きだしていた。
観光客の人は沢山商品を買ってくれて、常備薬やお土産用の傷薬か石鹸、ミント飴を買う人が多かった。少し高価になるがポーションもよく売れた。
「まあ、お披露目が終わったばかりだしねー、落ち着くまではロゼッタは店に出ない方がいいかもねー。無駄なトラブルは避けましょー」
「了解です。私は大体奥にいますが、おぼろげマントをカーテン代わりにしておきます。店から奥が見えないようにしましょう。皆も宜しくね」
三匹の使い魔もウェルちゃんが大体店の外を、フォルちゃんが店の中を、アルちゃんが私の側に付いていた。
第二軍団の隊員さんが店の周りをパトロールしたり、他の隊や騎士もお使いに来る事もあるのでひやかしはすぐに無くなるだろうとランさんは言っていた。
「ただねー、他の心配はあるのよねー」
「?」
私が首を傾げながらランさんの方を見ると、ランさんは窓の方を指さした。通りを挟んだ先には若い女の子達がキャーキャー言って薬局屋の方を見ながら、話しをしていた。
「おお!魔女って女の子に人気なんですかね!子供達から手を振られたり、お年寄りから有難がられましたが。憧れみたいな存在ですかね!」
私が錬金釜に魔力を貯めながらランさんに話し掛けると、ランさんは棚の商品を取りながら首を横に振った。
「ロゼッター残念ー。違うわよー。隊員や騎士目当てよー。薬局によくお使いに来てくれるでしょー。だから、この辺で待つとお知り合いになれるかもって待ち伏せしてるのよー」
「おお、獲物を待ち伏せする狩人のようですね・・・。言われてみれば皆さんお洒落をしていますね」
「第二は女性関係にはこりごりでしょうからー、ホーキンス隊長達が追い払ってくれてるみたいだけどねー。ハワード隊長とジロウ隊長目当てが多いみたいよー。王宮文官さんも来てくれたりするでしょー、この辺が出会いの場にされているのよー」
「おお、兄さん達はモテますね・・・」
「そうよー、意外とモテるのよー」
「ランさん、意外とは失礼なのでは?」
私達の話を常連客のお客さん達は笑って聞いていて、観光客のお客さんの中にはランさんにぽーっとなっている若い男の人達もいた。
ランさんは意外ではなくモテる。
そして、ぽーっとなっている男の人は大概ランさんに言われるまま、沢山買ってお店を出ていく。
私がランさんを見ながら薬を作っているとレオナルド王子から魔法属性のレポートが届いた。
「ロゼッター、特別魔鳩便で届いたわよー。凄い量ねー」
「ええ、レオナルド王子のレポートですよ。なになに・・・、良ければ意見が欲しいので、いつでもいいので返事が欲しい、あと、宜しければ錬金の材料にどうぞ、ですって。ランさん!レア毒キノコが届きましたよ!」
「良かったわねー、普通の贈り物じゃない所は評価出来るわねー。レア素材で高価な物はいいわねー」
レオナルド王子からだけではなく、ライラさんからメリア国の珍しい布やお菓子が魔女のお祝いとして届いたり、実家からも私が贈った御守りを玄関にぶら下げたと手紙が来たりした。
開店直後の忙しさが終わって、一段落した頃にジロウ隊長が挨拶をして店に入ってきた。
「ラン嬢、ジェーン嬢、元気ですか?商品の受け取りと、注文書とお菓子を持って来ましたよ」
「いらっしゃいませー。噂をすればジロウ隊長ねー。お菓子、頂きますねー。時間があるなら奥でお茶をどうぞー」
「ジロウ隊長、こんにちは。キッチンにどうぞ。カーテンの奥ですよ」
カーテンを捲り、ジロウ隊長がキッチンへと入ってきた。
ジロウ隊長が持って来てくれた砂糖菓子は花の形のとても可愛い物だった。
「噂って自分ですか?」
「えっと、ジロウ隊長と、ハワード隊長がモテモテで薬局の前が女の子達の狩り場になっているって話です」
「ああ・・・。挨拶はされますね。でも、隊服着てる時にそういう目的で話し掛けてくる非常識な人は少ないですよ」
「ジロウ隊長も大変ですね。あ、このお菓子美味しいですね」
新しいお茶を淹れながらジロウ隊長に話し掛けるとジロウ隊長も一つつまんで口に入れた。
「そりゃよかった。評判の菓子らしいですよ。日持ちする菓子なので、お土産に良いと勧めて貰ったんですよ。この間の砂糖菓子はどうでしたか?」
「ブールの砂糖菓子も美味しかったですよ。ウィリデさんは元気ですか?グラスを見に行く予定は明後日ですけど、大丈夫ですか?」
「ウィリデはジェーン嬢に会いたがってますよ。時間があったら会ってやって下さい。王宮門から少し行った所にスレイプはいますから。自分は大丈夫ですよ。グラスの店には午前中に行く事を伝えてますんで、十時に薬局に迎えに来ます」
私はもう一つお菓子を口に入れた。ホロっと優しく溶けて甘さが口に広がった。
「了解です、楽しみです。あと、遅くなりましたがプレゼントです。少し前に出来上がっていたんですが、守護を付けました。ポーションバッグです」
「あー、有難うございます。いやあ、ウィリデに見せますよ。バッグにウィリデがいますね。この透明な石が守護ですか?」
「ええ、パーティーの時の石に似ている感じですけどね。隊員のジロウ隊長には災いを避ける守護は難しいと思いまして、悪意や怪我を避けれるような守護にしました。うーん、気休め程度かもしれませんが」
「いえ、身に着けておきます。有難うございます。ポーションバッグ、評判いいですよ。まだ、待ってる隊員もいますがね」
「ふふふ、隊員の方達も喜んでくれているのなら、良かったです。スペシャルポーションバッグは王太子殿下とブルワー法務大臣にも今度持って行きます。ハワード隊長やホーキンス隊長はすぐに会えそうですけど、直接渡せない方はお手紙添えて贈る予定なんですよ、隊員の方達って国中走り回っているでしょう?あ、そういえば臭いスプレーの件はハヤシ大隊長から怒られました?」
「ええ、がっつり怒られました。まあ、始末書をすぐに出したので、大きい雷一つで済みましたよ。名無しの薬局から魔鳩飛ばした事も大きかったですかね。さっさと始末書送ったのが良かったですね」
「うわあ、雷、凄そうですね・・・」
「まあ、ホグマイヤー様に比べたらマシですね」
笑ってお茶を飲み、ジロウ隊長はお茶を二杯飲むと、では明後日、と言って、商品とポーションバッグを持って店を出て行った。