玉ねぎ屋パーティー 5
フォルちゃんを相手にハチャメチャに踊っているベンさんを見ていると、ジロウ隊長がテーブルに置いてあるリンゴを取って剥きだした。
「皆楽しそうですね。ふふ、ベンさんの踊り、面白いですよ。あの時もジロウ隊長、リンゴを剥いてくれましたよね、器用ですね」
「ジェーン嬢、私も剥けます」
ハワード隊長もリンゴを取り何処からかナイフを出して剥きだした。
「お二人とも器用ですね」
二人はお互いをチラリと見た後に頷いた。
「あー、また薔薇にしましょうか?綺麗に出来ますよ?」
「私は美しい鳥に致しましょう」
二人は黙ってお互いを見ると凄い勢いでリンゴを剥きだした。
隊長達がリンゴの皮むき大会って平和でいいわね。
私が二人を見ながらケーキを食べ終わると、奥の方からゴトンと音がした。振り向くとジョゼッペさんが椅子から落ちたまま寝ていて、イアンさんがマツさんから毛布を借りていた。
「あらら、ジョゼッペさんはお昼から飲んでるから。向こうに行って来ますね。あ、リンゴは残しておいて下さい、後で食べますから」
私がそう言うと二人は頷きリンゴを持ったまま、またお互いを見ていた。
「師匠、飲みすぎじゃないですか?」
私が師匠に声を掛けると、師匠はケラケラ笑ってパンを食べていた。
「よー、ロゼッター。お前もこっち来て飲めよ、面白そうな事をしていたなア。今度デカい水晶を見つけたら持って来てやろう。おい、イアン、ほらロゼッタに注げ」
「すみません、親父が寝てしまいまして。よっぽど嬉しかったんですかね、グラスはこれでいいですか?」
「あ、すみません、イアンさんもどうぞ」
私がワインを注ぐと、イアンさんも嬉しそうに礼をしてゴクリと飲んでいた。
「はー、これ、凄い良いワインですよね。昔、俺の成人の祝いで親父が買ってきた銘柄ですよ」
私はイアンさんに顔を寄せ、こっそりと話す。
「・・・ランさんが仕入れてくれましたよ。でも、師匠の前にはもう普段のワインに代わっているはずです・・・」
「ははっ、そうですね、大体、こんな風に飲むような物じゃないですよ」
「イアンさん、飾り石とアクセサリー有難うございました。師匠に付けて貰いました」
杖を出し、飾り石をイアンさんに見せるとイアンさんは嬉しそうに頷いた。
「我ながら良い物が作れました」
私達が話をしていると、師匠はワインをがばがば飲みながら杖を振っていた。
「お前の可愛い男は獣人か。成程な、見かけよりは強いだろうなア」
「師匠、サミュエル君に意地悪はしないで下さいね。リボンのお願いもしているんですから」
師匠は杖を振り、光をサミュエル君の上に降らした。驚いたサミュエル君がこちらを見て礼をすると、ニヤリと師匠は笑ってサミュエル君を手招きした。
自分を指さし、辺りを見てもう一度自分を指さしたサミュエル君は、師匠の前におずおずとやってきた。
「よー、ロゼッタが世話になってるんだってなア。ロゼッタの師匠だ」
「初めまして大魔女様。名無しの薬局様に刺繍の注文を頂いています、サミュエル・クランベリーと申します」
帽子を取ってサミュエル君は礼をした。師匠に挨拶しているのをハラハラした気持ちで見てしまう。
サミュエル君の耳がへにょんとなっている。
そりゃ、師匠に急に呼ばれては怖いわよね。
師匠の顔が裏通りの人になってるもの。
サミュエル君が雨の日に震える子猫に見えてしまうわ。
師匠は煙草を取り出し、火を点けながらサミュエル君に訊ねる。
「で、お前は服の職人で猫の獣人なのか?」
「はい。フラワーコットンという被服店で職人をしています。父が猫獣人ですので半獣人です」
ふーん、と師匠は言うと煙草を咥え、杖を持ち直すとトンっと床を突き、いきなりサミュエル君に向けて杖を振り下ろした。
「鎌風」
サミュエル君はぴょんと後ろに飛び、師匠がその場所にスプーンを投げると、助走もつけずに食堂の梁まで高くジャンプして続けざまに投げられたフォークを掴むとくるりと一回転し、足をゆっくり曲げて着地をした。
凄い!!
私はおおー!!と拍手したくなるのを我慢して、二人を黙って見ていた。
「ふーん、成程な。猫なア、良いだろう。お前、ロゼッタの仲良しなのか?」
ふーっと煙を吐き出しながら師匠が訊ねるとサミュエル君の頬が赤くなったが、顔を上げた時には耳はピンっと立っていた。
「はい」
「ふん、で?」
「ロゼッタ様に追いつけるように、頑張ります」
「ふん、そうか、まだまだだな。まあ、いい、サミュエルか・・・。お前、親父と祖父の名前は?」
「父はクロム、祖父はクーガロンゾです」
「成程な」
師匠は煙草を咥えると、自分の手元の空いたグラスにワインを注ぎサミュエル君に差し出し、手を振ってサミュエル君との話を終えた。
サミュエル君は礼をしてグラスを受け取り元の席に戻っていった。
「師匠、いきなり風魔法はいけないと思いますよ、危ないです」
「避けたじゃねえか、問題ねえよ」
私達が話しているとハワード隊長が私の目の前に立った。
「あの、リンゴは剥きましたが、ジェーン嬢、私とも踊って頂けないでしょうか。お疲れでないならば、ですが・・・」
ハワード隊長は軽くお辞儀をした。
「いいですよ、ただ、足を踏んだらごめんなさい。上手く避けて下さいね」
「いえ、いくら踏んでもかまいませんし、私の足の上にのせて踊って頂けても大丈夫です。初めから踏んでいれば問題はありません」
「それは駄目でしょう」
私が手を差し出すとゆっくりと私の手を取り、ハワード隊長はふわっと花が開いたように微笑んだ。
くっ。美人の微笑みは凄いわね。
「おい、アル。お前は私の相手をしてろ、ジルとギルと遊んで私に酒を注げ」
私の肩に乗っていたアルちゃんを師匠は杖を向け呼ぶと、アルちゃんはしぶしぶと言う感じで私を見た後に師匠の方へ行き、ジルちゃんとギルちゃんの側に座った。
「アルちゃん、師匠をお願いね」
私がアルちゃんに言うと、アルちゃんはパチリとウインクしてハワード隊長の方を向いて、プイっと横を向いた。
ハワード隊長は師匠にも一度礼をして、横を向いているアルちゃんにも礼をすると皆が踊っている方へと足を向けた。
曲調がまた変わり、少しゆっくりな優しい曲に変わった。好きなように踊っている人たちには、曲が変わろうが関係ないようだった。
リズムを合わせ、ゆっくりと踊り出し、私は一、二、三、とリズムを取りながらステップを踏んだ。
足を踏まないように注意をしていると、ジェーン嬢、と声を掛けられ私の腕を少し高く上げられた後、くるりと回された。
「ジェーン嬢、次の二のすぐ、三の時にぽんっと上にジャンプが出来ますか?」
「ええ?ええ・・・」
私が言われた通りにジャンプをすると、すっと腰を持たれて抱き寄せられて足が浮き、くるりと大きく回った。
背の高いハワード隊長に抱えられて回り、私は驚いて目を丸くして、ぎゅっと強く手を握ってハワード隊長を見つめた。
拍手が聞こえたが、私はドキドキしてそれどころではない。
密着度が凄い。
あばばばば。
「・・・・・・うわあぁ。・・・ハワード隊長・・・片手で・・・・力持ちですね」
ゆっくりと降ろされ、何事もなかったかの様にダンスは続いた。
「軍団隊員ですし、ジェーン嬢は羽のように軽いので何度でも出来ます。私が持ち上げていれば、足を気にしなくて宜しいかと思いました。ジェーン嬢であれば、いくら足を踏まれても良いのですが」
「いやいや、沢山踏んだら隊長でも痛いでしょう?足を引きずるハワード隊長なんて嫌ですよ・・・」
「いいえ、大丈夫です。それに私には優秀なポーションが常にポケットに入っています」
「っぷ。ポーション飲みながらのダンスなんて嫌です。血みどろの足になりますよ?」
話していると少し落ち着いて、可笑しくなって顔を上げて笑うと、ハワード隊長もふわっと笑った。
「やっと笑って頂けました。ダンスの時は私を見て下さい。足はいくら踏まれてもいい、顔を上げたジェーン嬢の顔を見たい」
「!!!」
固まりそうになっていると、「次もジャンプで」と言われもう一度くるりと回された。
美人の破壊力・・・。
心臓が持たない。
あばばばば。
ようやくダンスが終わる頃には凄く疲れていたけど、嫌な疲れではなかった。
「素晴らしいひと時でした」
そう言われ優しく手を離された後、休む間もなく私は色々な人と踊った。
ダンスの後は火花だけでなく水も撒いている師匠を怒りながら、バラと鳥のリンゴを食べ、夜は更けていった。
ランさんが音楽団の太鼓をドンっとまた叩いた。
「みなさーん、今日はロゼッタのお祝いパーティーに参加してくれて有難うございましたー。師匠はもう寝ちゃったので、ロゼッタから最後にご挨拶ですよー」
「皆さん、今日は有難うございました」
私は杖を振り、床を鳴らし魔法陣を出す。食堂を暗くし、魔法陣を天井近くに浮かせると光を降らせた。
「今日が明日に繋がるように、明日が今日よりも良い日になるように、皆さんに祝福を。気をつけて帰って下さいね、これからも宜しくお願いします」
私が杖を振り魔法陣を消すと皆がお礼を言い、パーティーは終わった。
次の投稿は土曜日です。