玉ねぎ屋パーティー 2
私はランさんにリードされゆっくりと踊る。やっぱりなんでも出来るランさんは凄い。
「ロゼッタ、魔女、おめでとー。プレゼントも嬉しかったー。早速使わせて貰うわねー。家宝にするわー」
「ランさん、有難うございます、これからも頑張りますね!」
ランさんは御守りをエプロンの端に結んでくれていた。私をくるりと回し、ゆっくりとステップを踏む。
「パーティー代も気にしないで大丈夫よー。国王陛下から、王子様達の飲食代って言って中身がずっしりの祝い袋が送られてきたのー、遠慮なく貰ったわー。ハヤシ大隊長も隊員達が世話になるって、いい重さの袋を送って来てくれたし、太っ腹よー、大隊長は結婚してたわよね?残念ねー。クリスさん達も暫く世話になるって言って、いつもお小遣いくれるのよー。ニコニコ現金払いが一番よねー!懐が温かいと心もホカホカよー」
「おお、流石ランさんですね・・・、なんだか安心しましたよ。私もお釣りはいらないわ、オホホ、みたいな台詞で買い物をしたいですね・・・。ああ、大隊長訓練、思い出してしまいました・・・。トホホです・・・」
「ハヤシ大隊長とブルワー法務大臣と訓練するんでしょう?ロゼッタをお借りしたいって書いてあったから、ちゃんと、いいですよーって返事出しといたわよー?ロゼッタって凄いわよねー。師匠に連れられてきた時がちょっと前だと思うのにー。大隊長達が訓練をお願いするんだものー」
私がくるりと回ると、私達の上に花弁が舞った。ベンさんが肉を片手に杖を振っているのが見える。
「お祝い金、ランさん陥落の為の賄賂じゃないですよね?ジロウ隊長とハワード隊長、それにホーキンス隊長も参加するみたいですよ。フォルちゃん達もやる気十分なので、頑張って皆をやっつけてきますね」
「ふふふー。大隊長を討伐するみたいねー。ロゼッタ頑張ってー!」
「ええ、頑張ります。卑怯な手を使っていいですかね?なんでもありの魔法攻撃しないと負けちゃいますね、勝つ為には手段は選びませんよ!ふははは!!」
私が作戦を考えていると、ランさんは「ジルちゃん!」と言い、私の体をふわっと浮かせくるりと回した。周囲から歓声が沸き、私は驚いて目が丸くなってしまった。
「ランさん!いきなりは驚きました!」
「ごめーん。ふふふ、そうそう、店は私が守るから。ロゼッタは自分の好きな事をしてね?錬金が出来ればどこでも薬を作れるしー。新しい小さな釜を買いましょうかねー」
「・・・私も薬局を守りますよ?」
「うん。でも、ロゼッタは好きな事を頑張って!さあ!誰か、ロゼッタと踊りたい人はいるー?ロゼッタに申し込んでいいわよー」
音楽のタイミングが変わる所でランさんは大きな声で皆に呼びかけた。皆がわっとダンスを始め、私はチェルシーさんから元気よく手を上げられ踊り出した。
私は私の出来る事を。
私が考えながら踊っていると師匠が杖を振り、防御膜を解き店のドアを開けた。
「ほら、これで全員だ、もう、店は閉めるぞ。ジョージ、レオ、遅かったなア」
皆が踊りを一瞬止め、扉を見た。
「やあ、こんばんは、良い夜だね。ああ、気にせず踊ってくれ。音楽も止めなくていいよ」
ジョージ王太子は皆に手を振ると、音楽団に指示を出し、フランツさんが頷き音楽を再開した。王太子と第一王子が登場しても皆は動じなかった。
まあ、師匠がいるし、魔法使いは三人もいるし、隊長は二人もいるし、驚くのも疲れるわよね。
私は踊りを抜け、ジョージ王太子とレオナルド王子に挨拶をしようとすると、先に二人から礼をされた。
「ジェーン様、良い夜ですね、今夜はパーティーへの御招待有難う。父上が、帰るのは遅くなって良いからと言うので諸々の雑務を終わらせていたら少し遅くなってしまいました。隊長もいるからと言ったのですが、王宮からここまでの護衛の為、騎士が必要で外にも二名程待機させています」
「お越し頂けて嬉しいです。護衛は必要ですよね、帰りはフォルを王宮までつけますね。騎士の方達もここでは護衛は必要ないでしょう。良ければ皆さんも楽しんで下さいね。師匠、もう鍵閉めました?ドアを一度開けて下さい、護衛の方がまだ外にいるそうなので中に入って貰いましょう」
私が師匠に言うと、師匠は杖を振りドアを開け、外に立っていた護衛の騎士達をふわっと浮かせて店の中に入れるとドアを閉めた。
「師匠が手荒な真似をしてすみません、第一騎士の方達ですね?何度かお会いした方もいらっしゃいますよね?皆さんも楽しんで下さいね」
私が騎士達に言うと、皆は私の方に向き直り礼をして王太子と王子の方に向き直った。王太子が私の言葉に頷いた。
「そういう事なら、君達もパーティーに参加してくれ。魔女様のパーティーで護衛なんてしたら失礼だな、これは命令だ、隊長達に挨拶に行ってきてはどうかな、隊員達と交流を持つのも良い事だ」
「師匠や、魔法使いの方が防御膜を張っています。この中にいる間は国中のどこよりも安全ですよ。飲み物、食べ物も御自由にどうぞ」
六人の騎士達は私の方を向き、もう一度礼をすると王太子殿下は手を振られ、騎士達はジロウ隊長やハワード隊長の方へと向かった。
「父上も母上も、せっかくホグマイヤー様や魔法使い様に誘われたなら行ってこい、と言われていました。外交は代わりはいるけど玉ねぎ屋パーティーはどんな外交よりも価値があるからと。私の仕事を引き受けてくれたルーカス兄上からは羨ましがられましたが。ルーカス兄上とはまだジェーン様は話をされていませんかね?」
「ええ、ルーカス王子様とはお話はしたことが無いですね」
「今度お会いしたいと言ってましたよ、名無しの薬局にお使いに来るかもしれません、兄上が伺う時が分かれば事前に私が魔鳩を飛ばしましょう」
私が頷き答えると、レオナルド王子と目が合った。
「ジェーン様、パーティーのお誘いをありがとう、第一王子のレオナルド・ケイ・オースティンだ。先の討伐、また虫退治では薬が大変世話になった。魔術局の者が大勢無礼を働き申し訳なかった」
「レオナルド王子様、宵闇の魔女、ロゼッタ・ジェーンです。今日は楽しんで下さい。こちらこそ名無しの薬局を宜しくお願いします」
「パーティーの場でこの話をしてすまん。ああ、にぎやかで素敵なパーティーだ。昔、窓からだが街に降りて祭りを眺めた事があったが、王都の祭りに雰囲気が似ている。ダンスは私も踊れそうだな、ワルツか」
「さっきまでは街の踊りだったんですよ」
「ジェーン様、一曲踊って頂けるだろうか?」
私の方にレオナルド王子が手を差し出し、礼をした。
「すごい、王子様みたい。あ、王子様でした。ええ、喜んで。でも下手ですので足はご注意下さい」
私が手を取ると、師匠が杖を振り、魔法で光を散らし火花を出した。私は急いで杖を振り、火花を消す。本当に師匠は懲りない。
「師匠!火気厳禁です!お酒を取り上げますよ!」
ヒヒヒ、と笑う声だけが聞こえた。
レオナルド王子がジョージ王太子を見られると、ジョージ王太子は頷かれた。
「兄上、疲れたらすぐにお休みになって下さいね」
「ああ。大丈夫だ」
私達が踊り出すと、少し離れて皆も踊り出した。
パーティーは続きます。