玉ねぎ屋パーティー 1
第五章始まりました。丁度百話目です。
玉ねぎ屋のパーティーは賑やかに始まった。
いや、始まったのが師匠が飲みだした時を始まりとするなら、お披露目の後すぐに始まり、夕方頃にずるずると人が集まりだし、皆好き勝手に飲みだした。
私が玉ねぎ屋に入ると、もう来ている(飲んでいる)人からは拍手され、マツさんの知り合いの音楽団の人から挨拶とお祝いを貰った。
「宵闇の魔女様、本日はおめでとうございます。フランツと申します」
「有難うございます、今日は宜しくお願いします。あ、ボンジョウさんもお久しぶりです。今日は受付有難うごさいます」
頷いてくれたボンジョウさんと、音楽団のリーダーのフランツさんが皆を紹介してくれ、私は挨拶を返しながら皆の挨拶を受けた。
「いや、マツさんから魔女様のパーティーの演奏をお願いされた時は、マジか、と、驚きましたが、まさか、大魔女様や魔法使い様迄いらっしゃるとは思いませんでした」
「すみません、師匠はいつも予定が組めない人なので。人数が増えましたが音楽は皆楽しみにしていました、宜しくお願いします」
「いえいえ、光栄って事です。謝って貰う事ではないです、魔女様達に楽しんで貰えるのなら嬉しい限りですよ」
ほんと、ほんと、と言いながら音楽団の人達も軽やかな音楽を奏でながら頷いてくれた。
「久しぶりのパーティーで、すごく楽しみにしていました」
「魔女様は何か好きな曲はありますか?」
「うーーん、お祭りで踊るような曲や、明るい曲ですかね・・・」
「分かりました。お祝いの曲を沢山弾かせて貰いますよ」
「有難うございます。あ、それと、ジョージ王太子殿下とレオナルド王子様も来るかもってもう聞きました?今日、王宮から帰る時にお二人もお誘いしたので来られるかもしれません。お仕事が忙しいのなら無理かもしれませんが」
「・・・・・マジか・・、驚く事はもうないですか?いつも通りの演奏を頑張りますよ・・・」
音楽団の皆も引きつった顔をし、一人が笛をピーっと鳴らしてからフランツさんも音楽に加わった。
熱気と皆の笑い声で空気の色まで変わりそうになると、ランさんが太鼓をボンっと叩き、皆を注目させた。
「はーい!みなさーん!今日はロゼッタの魔女のお祝いパーティーですよー!!食べて、飲んで、踊って、楽しんで下さいねー!!師匠ー!!ロゼッター!何か喋りますー?」
「祝いの席でチンタラ喋んの好きじゃねえなア」
師匠はそう言うとワインを飲み、杖から魔力を溢れさせながら床を杖でトンっと叩き、天井一杯に花を咲かせた。
うわあ!!と歓声が上がり、クリスさんは水を飛ばし、店の中は光と水でキラキラと美しく光った。
「皆さん、今日は来て頂いて、嬉しいです。楽しんで下さいね、楽しいパーティーにしましょう!」
私が魔法陣を出し、杖を振り師匠の花を光の玉で優しく包み、皆の所まで一人ずつに飛ばしていった。
「祝福を!」
私が杖を振ると皆の所で光の玉は弾け、蜂蜜色の粒子が店一杯に優しく降り注いだ。
わあ!!という歓声と手を叩いて喜ぶ声の中、ランさんがもう一度太鼓をボンっと叩いた音が響いた。
「だ、そーですよー!皆さん楽しんで下さいねー!今後も名無しの薬局を御贔屓に!」
ランさんの声に合わせて、音楽がにぎやかに流れ始めた。
軽やかな音楽、皆の笑い声と喋り声、お酒と食事の匂いで店内は溢れた。
私が名前を知らない小さな笛や大きな笛、弦楽器、打楽器もあり、にぎやかな音楽に合わせ私達は楽しく踊った。音に合わせて師匠は杖で床を鳴らし、魔力を飛ばしていた。
街のダンスは輪になって踊る。ハワード隊長はチェルシーさんから手招きされて輪に入れられ驚いていたが、輪に入ると皆の真似をして踊っていた。男女が交互に並び手を繋ぎ、男性の右隣の女性とパートナーになり曲に合わせて向かい合って踊るのが一般的でお互いが動きながらパートナーを交換していく。ただし今日はお構いなしに男女が混じり皆が好き好きの場所で踊っている。
「ほら、ロゼッタさんイアンさんも来て!」
チェルシーさんに引っ張られ、私達が輪に入ると師匠が火花を飛ばした。私が杖を振り火花を消すと、ケラケラ笑う師匠の声が聞こえた。
「師匠!火気厳禁です!」
「ヒヒヒ。大丈夫だ、クリスが水を用意してる。ロゼッタ、なかなか火花消すの上手いな。ほら、踊れ踊れ!」
クリスさんが絵を描きながらひらひらと杖を振る。水の形をした鳥が天井をウェルちゃんと一緒に飛び回っていた。チェルシーさんと手を繋ぎ、私はくるりと周り、踊りの輪に入った。
王都の夏祭りで踊られる有名な「夏の恋」のダンス。このダンスはとにかく大勢で踊るのが楽しい。軍団員の人も皆踊っていて、リーさん家族も楽しそうに踊っていた。
夏の恋のダンスは燃え上がるような恋をして、そしてあっという間に別れてしまう恋を表すダンス、でもいつも別れの後に出会いは訪れ、泣いて笑って恋を楽しもうと皆で踊る。
王都の祭りは季節に合わせて四つのダンスがある。
春の出会い、夏の恋、秋の別れ、冬の愛。
それぞれ、踊り方が全く違うので一年を通して楽しめる。
私が輪に入り、すぐに私の手を取ったのはベンさんだった。優しく大きな柔らかい手に私の手はすっぽり包まれた。
「ロゼッタちゃん!楽しいね!」
「はい、ベンさん。チョコケーキは美味しかったですか?」
「ああ。四つも買ってきたよ、後で一つあげるね。タルトの店も楽しみだよ!ゼンも甘い物が好きなんだ!」
私はベンさんにくるりと回されると次の人と手を合わせた。
「ジェーン嬢、お披露目の魔法は大変綺麗でした。チェリアも喜んでましたよ」
「ホーソンさん、今日の服装も素敵です。隊服も恰好良いですが、ロングスカートのホーソンさんは新鮮ですね。綺麗です」
「有難う、慣れない恰好で少し恥ずかしいですが、今日のパーティーを婚約者に話したらスカートを贈られました。喜んで頂けて良かった」
「ふふふ、ラブラブですね。ホーキンス隊長がホーソンさんの花嫁姿を楽しみにしているって言われてましたよ」
「おや。結婚前に一度は勝ちたいですね」
「ふっふっふ、私が先に勝つかもしれませんよ?」
笑顔の中に目をキラリと光らせたホーソンさんからくるりと回されると、次に手を取ったのはジロウ隊長だった。
「ジロウ隊長も踊れるんですね。お披露目のエスコートも有難うございました」
「いいえ、こちらこそ光栄でした。ダンスは、まあそれなりに。ホグマイヤー様達の一角、大丈夫ですかね。始まったばかりでぐでんぐでんですよ」
「師匠達はお披露目終わってからずっと飲んでますから。三時間以上は飲んでますよ。ふふ。皆が楽しんでくれて嬉しいです」
「あー、自分も楽しいです。ジェーン嬢、今度、一緒に出掛けましょう、お兄さんは奢りますよ」
「いいですね、珍しいグラスを探しているので良ければ付き合って下さい」
「喜んで」
「でも、奢らなくていいですよ。ジロウ隊長、悪い女に騙されそうですね」
次々手を取り、踊って行く。フードを被ったままのゼンさんが私の手を取った。
「・・・ロゼッタ・・・」
「ゼンさん。目はすっかり覚めました?」
「・・・・・・・」
こくりと頷くゼンさんはフードから少し顔が見えた。
「疲れてないですか?」
「・・・・・・・」
ゆっくりと頷くゼンさんは繋いだ手を少し強く握ったのでなんとなく、伝えたい事が分かった。
「ゼンさん、今度、ベンさんとタルトを食べに行きましょうね。ベンさん、チョコケーキを四つも買って来たそうですよ。フードは暑くないですか?」
「・・・行く・・・・薬局では顔は出す・・・」
私はくるりくるりと周り、ランさんに手を取られると、ランさんが二人で輪の中心に踊り出した。
「音楽団さーん!王宮で踊るような曲弾けるー?ロゼッター!!踊りましょ!!大丈夫!私がリードしてあげるわー!」
「ランさん・・踊れる自信が凄いです・・。でもランさんだし、出来るんでしょうね・・・」
「ロゼッタのファーストダンスは貰ったわー!!」
「ランさん・・・その宣言は要りません・・・踊りますけど・・・」
音楽団さんが曲調を変え、ランさんが私の腰に手を添えると、一度ゆっくりと足を止め、二人でリズムに合わせて踊り出した。
パーティーは続きます。
次の投稿は金曜日です。