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転生裁判

 私には公選弁護人が付いた。

 気の良さそうな年老いた弁護士のライムさん。

 短期間で私が裁判で有利になる証拠も集めてくれた。

「アンヌさん安心してください。電子レンジは存在します。あなたは知らないうちに、それを何かで見て、あの魔法を思いついたんです」

 電子レンジが存在したならば、トレントの推理が崩れる。とても心強い味方が現れた。


*  *  *


 私の異世界転生者裁判が始まる。

 法廷には5人の裁判官が並び、検察側にはトレントと助手のクーリエが、こちら被告席は私と公選弁護人。


 早速ライムさんは古い資料を調べ上げ、この世界にも100年前に電子レンジがあったことを証明した。マイクロ波を使った前世と全く同じ仕組みの電子レンジの図面が登場して、法廷をどよめかせた。もっとも前世のものとは違い、電気で動くわけではなく、箱にしかけられた魔法札が発動して動く仕組みだった。

 トレントの理論は崩れた。


 しかしすぐにトレントが異議を申し立てを行う。


「まず、みなさん、電子レンジが、どういうものかをご覧ください」


 法廷にライムさんが図面で見せた電子レンジが実物で登場した。その黒い箱には100年前のものと同じく電子レンジ魔法札が使用されていた。トレントは電子レンジが存在したことをすでに知っていた――。

 それだけではなく、食材も持ち込まれた。冷たくなったコロッケが12個。

「では、ここにある冷めたコロッケを電子レンジ魔法で温めて直して、公選弁護人のライムさんに試食いただきましょう」

 魔法使いによる電子レンジを使いコロッケを温める実演が行われた。1分ほどで電子レンジを開くと、湯気の上げたコロッケが姿を現し、法廷をおいしそうな匂いで充満させた。それだけでなく魔法使いはこの異世界でポピュラーに使われる料理魔法で別のコロッケを温めた。

「片方が電子レンジ魔法で温め直したもの。もう片方は料理魔法で温め直したもの。2つをシャフルいたします。どうかみなさんは透視魔法など使わずにご覧ください」

 助手のクーリエが黒い布でコロッケを隠して、トレントが皿を交換した。

「さあライム弁護士、どちらが電子レンジで温め直した方か試食して、当ててください」


 ライム弁護士は慎重な面持ちでコロッケを1つづつ試食した。


「不味いこっちが料理魔法で、サクッと美味しかったこっちが電子レンジ魔法だと思います」

「ありがとうライム弁護士、見事に不正解です」


 法廷がざわついた。


「電子レンジ魔法で温め直されたのは、不味いとおっしゃった、こちらの衣がふにゃっとしたコロッケです」


 そう説明すると、裁判官たちにも2つのコロッケが提出され、試食が行われた。


「約100年前の文献にも残されています。《偉大な発明とされてた電子レンジだったが、一部の食材では圧倒的に炎系の料理魔法に劣る。この味の違いにより電子レンジはほぼ売れることはなかった》翌年にはどの書物にも登場してきません」


 裁判官たちも味の違いを理解した。


 私は心の中で叫んだ。茶番だ! そんなことはない! 電子レンジは便利な家電なのに、よりによって揚げ物で比較するなんて酷すぎる。大半の料理は美味しく温めることができるんだ! 簡単に温野菜が作れるし、冷凍食品を解凍するのにだって役立つんだ。なのにどうして!

 反論したい気持ちは山々だけれど、前世で得た知識をひけらかすことになるから何も言えない。


「この電子レンジのことが書かれた書物は魔法ネットのアーカイブに保存されています。いつでもだれでも見ることができる状態にあります。だかしかし、ベネットさんが生まれてからこの約20年間の閲覧記録を調べたところ、ただの1つもありませんでした。1つも。これ以外に電子レンジについて書かれた書物は存在しない。また、同じくこの電子レンジが発明される元になったマイクロ波についての記述された文献についても、閲覧記録を調査しました。こちらは国の最高学府である魔法科学大学からアクセスがあった記録がありました。しかし被告アンヌ・ャ・ベケットさんが在学された記録はございません。果たしていったいどこでこのマイクロ波についてを学ばれたのでしょうか?」


 ライム弁護士は何も言い返せないまま、トレントはまくし立てる。


「魔法大学の名誉教授にも話を伺いましたが《マイクロ波をゼロから発見することは不可能である》との見解をいただきました。参考文献を読んで理解しなければマイクロ波を扱うことはできない。ド級の天才でない限り無理。まさに高度な科学技術なのです。大学にも行っていない20歳そこそこの娘が扱えるものではないのです」


 裁判官たちも納得の様子で話を聞いていた。


「一つ可能性があるとすれば、それは、彼女が転生者であると言うことです。記憶詮索魔法の使用許可をここに申請いたします」


 裁判官たちが集まって小声で議論を始めた。

「記憶詮索魔法装置は何年も使われていない」

「あれはプライバシーを侵す危険がある」

「今回は十分使うに値する」

「電子レンジ魔法はドラゴンをも倒した脅威だ」

「検察官の集めた証拠も納得できる」

 しばらくすると議論が終り、裁判官たちは席についた。


「記憶詮索魔法装置の使用を許可する」


「ありがとうございます」

 トレントは右手を胸に当て、左手を優雅に横に広げて、紳士的なお辞儀を裁判官にして見せた。そしてゆっくり顔を上げるとニヤリとした。

「さあ、アンヌ・ャ・ベネットさんの記憶を覗きましょう」

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