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冒険者ギルド

 異世界転生ものの主人公は必ず生まれた土地を離れて冒険に出る。


 そして私もそれに紛ごうことなく冒険に乗り出してしまっている。


 異世界に来たからには冒険をしないといけないのか? 転生者は冒険に執着している。




 飛空艇が飛んでいる世界だけあって、この異世界の文化はまるで未来都市だった。

 サグラダ・ファミリアのようなファンタジックな高層建築物が立ち並び、空飛ぶ車が航空渋滞を引き起こしている。その中でも巨大な建物のてっぺんに飛空艇は降り立った。

 街のそこら中に動く歩道があり。人々は歩かずに立っているだけで進んでいく。動く魔法広告たちが押し寄せて、物を売りつけようとしてくる。しかし都会人はスルースキルが強くて、魔法広告や路上で寝ている酔っ払いに見向きもせず、自分の目的にただ向かっていく。

 前世の大学のオープンキャンパスで、初めて東京の街に訪れたときの感覚に似ていた。


 大都会にやってきてしまった。


 前世の世界よりも文明の進み具合が数段上だった。そりゃ、記憶を覗く魔法が存在するぐらいなのだから、何でもあるだろう。そこら中すべて魔法だらけ。どんな看板でもだいたいは宙に浮いていて、ホログラムのアニメキャラクターが面白い動きをして、子供たちがそれを笑っている。どこを見ても賑やかで楽しい街。


 でも私は家出状態で無一文。

 ひとまず求人広告を探して、仕事をしてみることにした。

 水商売……。ガールズバー、そんな仕事前世から根暗な自分に務まるはずがない。

 この異世界での家業はパン屋だし、無難に飲食店のキッチンのバイトでも探そう。


 求人募集の広告で見つけた都会のベーカリー。何とも甘くて美味しそうなパンの匂いが漂っている。しかしその隣の建物に目を奪われた。


 【冒険者ギルド】


 異世界に転生したものは、冒険に執着している。そして必ず冒険者ギルドに入る。


 いや、冷静になろう、お見合いが嫌で逃げてきたプチ家出だ。そんなどっぷり異世界を堪能してどうする……。

 とは言え、どんなところか気になるじゃないか。ちょっと入ってみるだけ。

 うーん、うーん、と悩んだ末。

 やはりここは、冒険者ギルドに入るべきだろう。と、冒険者ギルドの門をくぐった。


 冒険者ギルドは、受付と商談スペース、仕事の案内スペースがあるだけの簡素な造りだった。

 商談スペースには「店内での飲酒・喫煙は禁止」と張り紙があった。訪れる人はビジネスマンと言う感じで都会の雰囲気がしていた。

 仕事の案内スペースには、すべてがホログラムで最新の依頼内容が表示されていた。さすが都会の冒険者ギルド、どことなくスタイリッシュだ。


 いま思うと、この世界の学校の教科書に”冒険者”と言う職業が出てきていた。

 転生者ミカサルが魔王を倒し自らが次の魔王になったように、魔王をいくら倒しても新しい魔王が登場する。魔族たちの魔王争いもあるらしい。そんなわけでこの世界では常に魔王の率いる魔族と争いが起こっている。

 村や街は平和だが、魔族の領地との国境沿いではそうはいかない。さらに人が少ない地域では魔族の残党が存在することもある。

 科学や魔法がいくら進んでいても、この世界にはそれを上回る強力な魔族が存在する。

 こちらの魔法が進歩すれば、魔族の魔法も進歩する状況が何千年も続いている。そのため、いつになっても平和は訪れず、冒険者は世界を旅して魔族と戦い、時には勝利し時には敗れを繰り返している。

 冒険者とは世界のためになる誇り高い職業なのだ。


 ひとまず受付に向かった。

 この受付のお姉さんはギャルっぽい軽いノリだった。

「冒険者ギルドは初めて?」

「はい」

「魔法は使える?」

「はい」

「あ~そうそう、誰か魔法の師匠はいる?」

「独学です」

「フーン、独自魔法は」

「え?」

「ん~たぶん初めて聞いたって顔してるから教えてあげる。冒険者ギルドで稼ごうと思ったら、一つの魔法を極めて、独自魔法にまで作り上げるといいよ」

「独自魔法……」

「冒険者ギルドっていうのはキャリア志向があって、炎魔法一筋でうん十年とか何かキャッチコピーみたいなものがあるヤツの方が依頼が来やすいんだ。《なんでもできます》は、何も極められていない凡人だと思われる。だから、冒険者ギルドに来る奴は独自魔法を編み出して、それで食っていく感じ」


 私はお姉さんの説明をただただ聞いて頷いていた。前世のフリーランスの仕事って感じだな~。と、ぼんやりと理解していた。

 私も何か考えよう。


「とりあえず最初はこの依頼をやってみるのはどうかな」


 駆け出し冒険者には、誰でもできる仕事が割り振られる。冒険者ギルドと言っても、下っ端仕事はつまらないものだった。


―――――――――

【工場で袋詰め作業のお手伝い】

労働時間:8時間休憩1時間あり

※給料はその日に手渡しになります。

―――――――――


 日雇いのバイトじゃないか。と、心の中でツッコミを入れた。

 しかも給料もその日払いかよ。ますます日雇い労働者感。

 しかし、魔法も満足に使えないんだから仕方ないと言えばその通り。

 とは言え、冒険者ランクは少しあがる。冒険者はキャリアの積み重ねなのだ。


 やるしかない。


*  *  *


 完全に前世の日雇い労働者だった。工場でずっと同じ作業。ただただ肩が凝った。でも、しっかり給料がもらえた。

 そんなひと仕事を終えて、寝床を探して街を歩いていると、最先端の魔法を目の当たりにした。


 《創造プリンター》


 なんでも頭で創造したものが3Dプリンターの要領で出てくるらしい。

 なんて世界だ! オタクならコスプレ衣装が簡単に作れるじゃないか!

 ・生き物禁止

 ・エッチなもの禁止

「ここはダメだ、禁止って書いてある」

 女体のフィギュアを持った男どもが、店を後にした。

 キモっと思ったが、オタク気質の仲間としては、少しだけなるほどっと思ってしまった。


 食べ物も作ることができると書いてある。

 小腹が空いていることもあり、試しに、タピオカミルクティーを創造してみることにした。

 料金は創造したものの材料費を換算して請求される。

 タピオカミルクティーなら安かろう。


 ヘッドセットを被って、うーんとタピオカミルクティーを想像した。

 プリンターのメーターが想像するたびに上がっていく。複数の視点から、様々な情報を与えるとメーターが良く上がるようだった。

 メーターが100%になりプリンターが作動した。

 前世に合った3Dプリンターとは違い、神々しい魔法の光が放たれ一瞬でタピオカミルクティーが登場した。


 うむ、割りとおいしい。頭の中で想像したものと言うのは若干実物とは違ったタピオカの粒が少し大きかった。そのためストローの中でタピオカが何度も詰まった。


 魔法のある世界はすばらしい。

 まずは食べるられるだけの金を稼いで、魔法技術を磨こう。そして独自魔法を考えるんだ。


 タピオカミルクティーを飲みながら思いをふけらせるとおのずと答えが現れた。


 決めた、私にはこの魔法しかない。


 その日から昼は日雇い冒険者ギルドと夜は魔法の修行をする日が続いた。


*  *  *


 そしてときは流れて、1年がたったころ、私は独自魔法を完成させる。

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