8話 模擬戦闘試験①
「広っ、いですね」
「そうだろそうだろ! わざわざ装備品やアイテムを切り売りしてなんとか資金を捻出しただけある!」
地下に降りると姉さんが鍛錬場の広さに驚いてみせた。
大きな戦闘用の舞台が2つ用意されていて、隅の辺りには遠距離攻撃の鍛錬で使うであろう人型の的がずらっと並べられている。
ルトラさんは姉さんのリアクションが気に入ったのか満足に胸を張った。。
「ルトラ、説明」
「ああ、すまんクロ。これより2つ目の試験内容を説明する。2つ目は冒険者として一番重要な戦闘力を測る試験。模擬戦闘試験だ」
模擬戦闘試験はどこのギルドでも行われているオーソドックスな試験。
ギルドによってはこれだけで合否を決める事もある。
参加者が少ない場合は既存のギルドメンバーとの一対一。参加者が多い場合は参加者同士のトーナメントになる事が多い。
「試験は3対1で行う。まずは私と……。そうだな、お前とお前とお前。一応名前だけ教えてもらってもいいか?」
ルトラさんはリーベルトと魔石玉を黄色に灯した男性、ザ格闘家といった風貌の男性を指差した。
「俺はザドエラ・ビド」
「僕はマーティスト・サーディ」
「デロファー・リーベルトです。以後お見知りおきを」
「ビド、サーディ、リーベルトか。よし、では早速舞台に上がってくれ」
ルトラさんを含めた4人は舞台に上がった。
試験でこの構図は初めて見る。
試験の対象者が完全な新米冒険者だけならこれでもいいのだろうけど、今回はそんな縛りは一切ない。
いくら戦場の英雄姫だと言っても、玄人冒険者がいるかもしれないという状況で3対1は厳しくないだろうか。
戦闘力を測るとかそれ以前にルトラさんが心配でしょうがない。
「いつでもかかってこい、坊や達!」
俺の心配とは裏腹にルトラさんは試験参加者を煽った。
「坊や? 子供扱いは流石に舐めすぎじゃあねぇか?」
ビドさんはルトラさんの煽りに苛立ちを見せると、額に青筋を浮かばせながら全身に力を込め出した。
すると、ビドさんの大腿部は弾けそうなほど膨張、肥大化し、血管を浮かび上がらせた。
「ほう……」
「俺は生まれながら筋肉を自在に強化出来る体質を持っている。魔法も使えんことはないが、やはり単純な力こそ正義!」
ビドさんは、その強化された足で地面を蹴ると、勢いよくルトラさんに襲いかかった。
「ふふ、なかなか速いな」
ビドさんは勢いを活かしたままルトラさんの胴体目掛けて蹴りを放った。
だが、ルトラさんは身体を屈める事でそれを簡単に避けてみせた。
「ふんっ!」
ビドさんは避けられることは想定済みだったのか、その事に驚くことなくそのまま次の攻撃に移行した。
強化された脚から繰り出される踵落とし。風を切る轟音からその威力が窺える。
「当たらない、当たらな――ん?」
ルトラさんの周りに稲光に似た何かが瞬いた。
するとルトラさんの体は一瞬だが硬直し、ビドさんの踵落としが見事に決まった。
……はずだった。
「ぐああぁああああああ!!! 俺の、俺の脚があああああ!!」
「ああ、すまんすまん。私の頭は少しばかり石頭なんだよ」
何故か叫び声を上げたのはビドさんだった。
ビドさんは脚を抱えたまま、地面をのたうち回る。
「見かけ騙し強化だが……15点はくれてやってもいいかな。それと……」
ルトラさんはビドさんには目もくれず、サーディさんに手を向けた。
すると、サーディスさんの周りにはっきりと放電現象が起き始めた。
「麻痺狙いの電撃魔法。悪くはないが、麻痺させるのなら最低でも30秒は動きを止められないとな。30点」
「ぐ、ぁぁああぁ!」
サーディスさんは体に電撃が走り、受け身も取れないまま地面に落ちていった。
「さ、流石ですね」
「次はお前だな。高得点期待しているぞ、リーベルト」