6話 魔石玉
「よし、全員行き渡ったな」
クロさんとガディさんによって水晶らしきものが試験参加者全員に手渡された。
水晶らしきものはつるつるとしていて、凹凸やざらつきは一切ない。
油断してると落としそう。これいくら位すんのかな?
「すげぇ、めっちゃ綺麗。つるつるてして気持――」
参加者の一人が水晶らしきものを手から滑らした。
水晶らしきものは床に向かって一直線に落ちてゆく。
「たぁっ!」
ルトラさんは一瞬でその参加者との間合いを詰めると、落ちていく水晶らしきものを必死に受け止めた。
相当なスピードが出ていたのはルトランが元々立っていたところと今いる場所までの軌跡が黒い痕になって床に描かれていることからも分かる。
「ふぅ、危なかった」
「す、すみません」
「頼むから割らないでくれよ。これは借り物で1個で金貨500枚もするんだからな」
「これで金貨500枚っ!?」
俺達を含めた試験参加者達が一気にどよめく。
片手で簡単そうに持っていたリーベルトですら、慌てて両手を使いだした。
もしこれを割って弁償なんてことになったら一体どれだけのスライムを倒せば返済出来るのだろう。
うーん、考えたくもない。
「ああ。これは魔石を研磨して作った魔石玉で、今日は国王の宝物庫から特別に借りているんだ」
「借りてる、こっそり持ち出してる」
「しーっ! クロっ! 余計な事言うなって! それに今日の夜には絶対に返すから問題ないって」
そのやり取りで余計に割ってはいけない代物だという事を思い知らされると、参加者の殆どが汗をにじませた。
「おっほん。それではこの魔石玉をそのまま両手で持ち続けてくれ、一つ目の試験でみんながやる事はそれだけだ」
「それってどういう――わっ! い、色が変わった」
その時さっき九死に一生を得た参加者の魔石玉に色が灯った。
「うーん黄色か……。魔力の保有量はあんまり多くないみたいだな。マイナス10点。気を落とさなくても試験は全部受けれるから気にするな」
「はぁ」
ルトラさんは黄色に灯った魔石玉を回収すると木箱に戻した。
魔力の保有量? マイナス10点?
「一つ目の試験は魔力の保有量を測る魔石玉試験だ。魔石玉は触れている対象の魔力保有量を色で表すことの出来るアイテム。魔力量の多いものほど暗い色になるから黄色だとマイナス10点。ただここが悪くても試験の合計の点数が私達の定めたボーダーを超えたら試験合格だからまだ諦める必要はないぞ」
「なるほど……じゃあ俺の場合だと何点になりますか?」
ルトラさんの説明が終わるとリーベルトは自分の魔石玉を掲げてみせた。
色は黄色よりもずっと暗めの黒に近い灰色。
「これは……。君、大分魔力保有量が多いな。魔法使いか?」
「俺は金属を自在に変化させることの出来る金属造形師ですからこの位は当然かと」
「それならば納得だ。プラス50点」
「よっしゃ、見たか豚野郎! これが俺とお前の差だ!」
リーベルトは俺の前で誇らしげに魔石玉をちらつかせた。
見返してやりたいと思う気持ちが募るが、俺の魔石玉はなかなか色を灯さない。
「次私のも見てもらえますか?」
「おおっ! 紫紺か!」
焦りを感じていると今度は姉さんの魔石玉に色が灯り、大人の雰囲気に満ちた紫紺色が映し出されたのだった。