5話 紹介
「それって姉さんが目標って言ってた……」
「なんだ? 私の顔に何かついてるか?」
「いえ、別にそんな事は無いんですけど」
「……もし冷やかしで来たのならさっさと帰っくれ。迷惑だ。とりわけ敵情視察なんていうしょうもない奴らは」
集まっていた人の中の1人が返答すると戦場の英雄姫エーデル・ルトラウトは辺りを一瞥した。
そして図星を突かれた人達はゆっくりと後退し始め、いつの間にか数十人いた試験参加予定者は10人まで減っていた。
「えーっ。まさかこんなにいなくなるなんて……。本当に今の冒険者はろくでもないのが多いな。はぁ、しょうがない。とにかく今いる奴らは私について来い」
俺はその言葉通りに後をついて行こうとした。
「戦場の英雄姫のギルド……」
姉さんもぽつりと呟くと俺と同じように一歩また一歩とギルドに向かう。
戦場の英雄姫は俺達がまだ小さい頃に名を上げた存在で、姉さんにとっては憧れの存在。
冒険者になったのもその影響が殆ど。
ちなみに俺が冒険者になった理由はまた別で、正直なところそこまで戦場の英雄姫についてはそこまで想いれがあるわけではない。
そもそも顔も知らなかったわけだし。
「えー。皆、今日はよく集まってくれた。改めて、私はこのギルドはぐれ兎のギルドマスター、エーデル・ルトラウトだ。私のことはルトラさんでいいぞ」
ギルドのフロントと思われる場所で俺達は整列させられた。
というか、ルトラさんの迫力の所為で勝手にこうなってしまっているだけなんだが。
「おいファリド、ルトラさんって、俺そんな友達みたいな呼び方出来ねぇよ」
「……」
ルトラさんに感動するのはしょうがない。
だとしてもお前がここにいるのはおかしくないか、リーベルト。
「それじゃあ次はギルドの受付とこの既にいるギルドメンバーを紹介する。おーい! 全員中に入れたぞ! 降りてこーい!」
ルトラさんが階段下で声を張り上げると1人の女性と女性のように化粧をした男性が2階から降りてきた。
「もーう。ルトラちゃんも手伝って頂戴よ。私これも非力何だから」
「ガディバード、嘘つき」
2人の手には大きな木箱をドスンと床に下ろした。音から察するに相当な重量がありそうだ。
ただ男性の方はタンクトップから盛り上がった筋肉の所為で全く重そうに見えなかったけど。
それよりも、いた。あの女性だ。
「まずこっちのデカいのが受付のヴィレグバル・ガディバード」
「ガディって呼んで頂戴。よろしくねぇ。……あらいい男がいるじゃない」
じゅるり。
ガディさんはリーベルトを見つめると舌舐めずりをして見せた。
するとリーベルトはぶるりと肩を震わせた。
ふふ、こんなリーベルトが見れるなんて思ってもみなかった。
「そんでこっちのフードがリーザ・クロイツァー。クロって呼んでやってくれ」
「……あ」
俺はクロさんと目が合った。クロさんは少し目を見開くと恥ずかしそうに微笑む。
「どうしたクロ?」
「な、なんでもない」
「そうか。お前ももう先輩になるんだからあんまり挙動不審にならないよう気を付けた方がいいぞ。まったく、見た目はお姉さんキャラなのに……」
「見た目は、関係ない。それより、これ」
クロさんは木箱の中から丸い物体を取り出し、ルトラさんに手渡した。
あれは水晶か何かだろうか?
「おう。サンキュー」
「っていうか、折角これだけ用意したのに集まったのがこれだけって……。ルトラちゃんなんかしたんじゃないの?」
「別に何もしてないって。ただ、勝手に帰り始めた奴らがいたってだけで……」
「「……」」
クロさんとガディさんはじとーっとルトラさんを見つめる。
「そ、それでは早速皆に試験内容を伝えるさせてもらう! 一つ目の試験はこれを使うぞ!」
ルトラさんは受け取った水晶のようなものを頭上高く持ち上げてみせた。
「誤魔化した」
「誤魔化したわね」
「うっさい! し、試験始めるぞ!」
……。こんなに緊張感のない試験は初めてだ。
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