4話 はぐれ兎
「ここか……」
「『はぐれ兎』。ギルドなのにチーム感の無いギルド名ね」
俺は朝の日課を終わらせ、家で時間を潰した後、昨日のチラシを頼りにあの女性のギルドまで来ていた。
久しぶりの試験だが蟒蛇の肝臓採用以前は毎日2回、3回当たり前にこなしていたのだ。
ギルドの試験も、不採用も慣れっこ……。
そんなわけがない。
何回やっても試験は緊張するし、不採用だと悔しくてつらい。
今だって吐きそうなくらい緊張してるし、最悪の未来が待ってるんじゃないかって、怖い。
だけどそれ以上に俺が気掛かりな事が……。
「なんで姉さんまで来てるんだよ」
「――だってぇ、あのチラシ見たら今のギルドより良さそうなんだもん。今日は丁度休みにしようと思ってたし、なんていうか、転職活動? みたいな」
「ギルドの人が知ったらどう思うのかね?」
「別に今日は下見だから見られても敵情視察、とか言い訳はいくらでもあるわよ。それにほら」
姉さんが指を差した先、ギルドの入り口には俺達の他に数十人の冒険者がたむろしていた。
中には俺でも知ってる顔がちらほら。
姉さんは言い訳に使うみたいだが、本格的に敵情視察をしに来ているようだ。
もしかしたら本当の意味で試験を受けに来たのはそこまで多くはないのかも。
「おっ! なんだなんだ、昨日うちから出ていった豚さんじゃないか」
「!? リーベルト、なんでここに」
背後から聞こえた声に反応し振り返ると、そこには蟒蛇の肝臓の稼ぎ頭であり幼馴染のリーベルトがにんまりと笑いながら立っていた。
「もしかしてここを養豚場と間違えて来ちゃったのか? あはははは!」
「リーベルト君、久しぶりね」
「え? ミナさんまでなんでここに? ……ファリド、お前いくらなんでもシスコンが過ぎないか? わざわざお姉さんに送ってもらうなんて……」
「違う。姉さんは姉さんで用があってここに来たんだ。俺とは関係ない」
とんだ勘違いだ。
シスコンどころか毎日罵倒されまくって、最近じゃちょっと近づいただけで嫌な顔されるんだぞ。
「ふーん。それじゃあミナさんも俺と同じ、敵情視察ってことですか? 気が合いますね」
「……ええそうね」
姉さんはリーベルトに合わせるように和やかに笑ってみせた。
あんな顔家では微塵も見せないくせに。
ガラっ!
「えー。試験開始前に当ギルドの説明、挨拶等々をする。一度中に入ってくれ」
ギルドの入り口が開くと、そこにはスーツ姿の女性が立っていた。
ネクタイはゆるゆる。ズボンは長さがあっていないのか地面に擦れて汚れている。
折角の銀髪もぼさぼさで、なんというか清潔感がない。
「なんだかだらしない人だな。ねぇ姉さん。姉さん?」
姉さんはぽかんと口を開け、ギルドから出てきた女性を見つめ続け、俺の問いかけにも答えない。
あのだらしない女性がどうしたっていうんだ?
「ギルドの立ち上げと視察にわざわざ俺をあてがうなんておかしいと思ったが、そういうことかよ」
「リーベルト? なんなんだよ。誰か教えてくれよ」
「お前マジで知らないのか? 元王族で今のギルドの仕組みを提案した人、エーデルト・ルトラウト。戦場の英雄姫っていえばお前でもわかるだろ」
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