3話 フード
「はっはっはっはっ……きっつ」
「……」
一夜明け俺は何事もなかったかのように日課のランニングの為に外に出ていた。
走るコース、街並み、上がり切っていない日。
それらは俺がギルドを追い出される前と全く変わっていなかった。
そして変わらないものがもう一つ。
「は、は、はぁ、ふぅ、お、おはようございます」
「……。お、おはよ」
いつもランニング中のこの時間にすれ違う女性。
お互いにランニング中で乱している息をこの瞬間は必死に整えようとする。
女性には高めの背丈。フードを深くかぶっている所為で顔があんまり見えない。
それでもちらりと見える直毛の黒髪と真っ白な肌の綺麗さにいつも目を奪われる。
「今日もいい天気ですね。は、はは」
「そう、だね」
「そ、それじゃ」
これが俺の精一杯。
初めて声を掛けた時も同じ文言だった。
それでも女性は立ち止まって返事をくれるのだから、何度だって声を掛けてしまう。
俺は女性の返事を聞き、いつもの様に走り出そうとする。
そう、変わらない。今日も同じ。世界は全く変わっていない。
ギルドを追い出された、そんなちっぽけな事でがらりと景色が変わる事はない。
またこうして日課をこなし、所属させてくれるギルドを探す生活に戻る。それだけだ。
「まって」
「えっ?」
俺を引き留めるぶっきら棒な声。
「昨日渡した、あれ……見た?」
女性は照れるような素振りを見せた。
あれ、あれ、あれ?
俺は咄嗟に頭を働かせた。
昨日はギルドを追い出されて……。そういえば、あの時紙を渡した女性、この人に似ていたような。
「もしかして昨日の女性って」
「うん。あのギルド、私の、私たちのギルド」
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