寒い夏
ご覧いただきありがとうございます!
本当の気持ちに気付いたらどうしたらいいですか?
夏休みの昼下がり。
俺は1人夏休みの課題と受験勉強をしていた。
(あ〜やる気でねぇ)
夏休みに入ってからというもの、渚とは会っていない。
(春休みまでは勝手に人の部屋まで入ってきてたくせに。…なんなんだよ)
外を見ると浴衣姿の人が歩いている。
(そういえば今日は花火大会だったな。去年の花火大会は渚が浴衣着たいって騒いでしょうがないから一緒に花火大会行ったんだっけ)
外を見ながらぼーっと去年の事を思い出していると渚が浴衣姿で外に出てきた。
「…渚っ!」
「こうちゃん?!」
気付いた時には名前を叫んでいた。
「こうちゃん。そっち行っていい?」
「おう」
俺の部屋に渚がいる。
春休み以来だろうか。
ー…。
ー…。
2人ともなんとなく気まずくて話しかけられない。
最初に口を開けたのは俺だった。
「今日、花火大会行くのか?」
「あ、…うん。…小西…くんと。」
「…?!…そっ…か」
想定外の答えが返ってきて頭の中が真っ白になり思わず俯いた。
今までだったら『こうちゃん、一緒に行こー!』と言ってきた。
だから今回もそんな事だろうと思っていた。
「気をつけて行ってこいよ」
俯きながらそんな言葉しかかけられなかった。
「うん。ありがとう」
「……ねぇ、こうちゃん。行くなって言って欲しかったなぁ…俺と行こうって言って欲しかった…」
びっくりして顔を上げると、渚が涙目でこちらを見つめていた。
「私ね、前に小西くんから告白されたの。好きな人がいるからってその時は断ったんだけど、それから友達になって、小西くんはすごく優しくて。好きな人の相談とかも乗ってくれて。」
「うん」
「私の好きな人はね、私の事をいつまでも異性として見てくれなくて。そうしたら小西くんが『花火大会まで待つから。花火大会まで何もなかったら俺と付き合ってくれ』って」
「うん」
「それで今日が小西くんにお返事する日なの。…私、小西くんと付き合ってみようと思う。いつまでも立ち止まってちゃダメだよね。」
「……。」
頭が真っ白だ。
言葉が全く出てこない。
「こうちゃん、大好きだったよ…!」
「…っ!?」
「もう一緒にいられないけど、こうちゃんも幸せになってね、応援してる!…じゃあねっ!」
「ま…!」
待てと言いたかった。
言う前に部屋の扉が閉まった。
……っ
胸が苦しい。
思わず床に座り込んだ。
ーーーーー
(あいつが俺を好き…?いつからだ?)
全然気がつかなかった。
おれは…?
…そうか。近くにいすぎて気がつかなかった。
俺にとってあいつは大事な存在なんだ。
…好きなんだ。
ちくん。
あいつと小西が一緒にいる姿を想像しただけで胸が痛い。苦しい。
(花火大会、返事、まだ間に合うか…?)
俺は花火大会の会場に向かって走り出した。
ーーーーー
はぁ…!はぁ…!
いくら走っても見つからない。
汗は流れ、膝に手をつき肩で息をしていた。
(くそ…!どこだ?早くしないと…!)
もう辺りは真っ暗だ。
また走り出そうとしたその時、渚と小西が歩いているのを見つけた。
そこには優しく微笑みかける小西と1番見たかった渚の笑顔があった。
「…なぎさ…っ」
声にならなかった。叫ぶ事ができなかった。
呼び止めることができなかった。
俺のせいで辛い思いをしてきた渚を笑顔にできる小西。
俺は今まで何をしていたんだろう。
俺は今まで何を見てきたんだろう。
渚のやつ、あんなに可愛く笑うんだな。
…隣にいる資格、俺にはない…
暑くて暑くてしかたないはずなのに
俺はとても寒かった。