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ご覧いただきありがとうございます!
いつまでも止まってはいられない。
どんな事があっても前へ。
(渚…気付いてやれなくてごめん。鈍感でごめん。今日は逃げない。)
自然と早足になる。
今まで何度も渚から逃げてきた。
俺が毎回逃げて渚はどんな気持ちだっただろうか。
呆れられているだろうか。
嫌われただろうか。
きっとショックは受けている。
俺の気持ち、まだ受け入れてくれるだろうか。
考えているうちに渚の家に着いた。
渚の部屋にだけ明かりが付いている。
両親はまだ帰ってきていないようだが、渚は確実にいる。
(いてよかった)
焦る気持ちを抑え、俺は渚の家のインターホンを押す。
「…はい!」
「渚、俺だけど」
「こうちゃん?今開けるね!」
ガチャッ
「どうした…っきゃっ!」
俺は渚を抱きしめた。
「あ、あの、こうちゃん…?」
腕の中で渚が俯いたまま固まっている。
「ごめん、渚。」
心臓がうるさくて言いたい言葉が出てこない。
頑張れ、俺。
逃げるな。
「…好き、だ。」
「…え?」
「渚が好きだ。」
渚が震えている。
「こう…っちゃん…私なんか、だめだよ…」
渚は泣いている。
「なんで?」
「私、こうちゃんに酷いことした」
俺は体を離し、渚の両肩に手を置いて覗き込んだ。
「俺も悪いんだ。だから、少し話さないか?前に渚も話があるって言ってただろ?」
「…うん。」
リビング。
俺たちは向かい合わせに座った。
「…俺から話していいか?」
「ううん。私から話したい。」
「わかった」
「私、花火大会の日にこうちゃんの事試したの。こうちゃんの気持ちが分からなくて。」
「他の男の子と2人で花火大会に行く、それで告白の返事をするって言ったら引き止めてくれるかなぁって。」
「でもこうちゃんは引き止めてくれなかった。だから、私の事はただの幼馴染でそれ以外の感情は無いんだ、だから私に彼氏ができても興味がないんだって思ったの。」
「…奏太くんにこうちゃんが私に彼氏ができてショックを受けてるって聞いた時、びっくりした。その時に初めてこうちゃんを傷つけてしまった事に気付いたの。だから謝りたくて。」
「…でも、タイミングが無いままここまで来ちゃった。」
「本当にごめんなさい。」
「…さっき好きだって言ってくれて嬉しかった。だけど、こうちゃんの事傷つけてばっかりの私はこうちゃんの隣にいちゃいけないの」
「「…。」」
「…俺の話、していいか?」
「…うん」
「俺は正直、花火大会の日までは渚の事は幼馴染としか思っていなかった。だけど、渚が他のやつの隣にいる事を考えたら急に胸が苦しくなったんだ。」
「渚に好きだったと言われて、自分の気持ちに初めて気付いたんだ。情けないよな。」
「花火大会の日、渚の事を追いかけたんだ。だけど、渚が小西といるところを見て、勝手に諦めた。」
「それからずっと自分の気持ちから逃げてた。渚からも逃げてた。…ごめんな」
「俺は渚の隣にいるだけで力が出る。元気になれる。今まで近くにいすぎて気が付かなかった。…渚と離れて初めて気付いたんだ。」
「…もし、俺の事をまだ好きでいてくれるなら。付き合ってほしい。」
「私、きっとまたこうちゃんの事傷つける。もう嫌なの。こうちゃんには幸せになってほしい」
「…お前、馬鹿だなぁ。」
「…え?」
「お前に振り回されるのなんか慣れてるよ。15年も一緒にいるんだから。」
「…でもっ!」
「俺は渚に振り回されるより、渚が他のやつの隣にいる方が嫌なんだよ。…まっ、お前が付き合いたくないんだったらしょうがないよ。俺は諦めるよ。」
「…。本当に…?本当に私が隣にいてもいいの…?」
「あぁ。」
「後悔しない?」
「するわけないだろ」
「…こうちゃん、ありがとう…」
渚はまた泣き始めた。
泣き顔までもかわいいと思ってしまう俺はかなり重症なのだろう。
「…もう、試すなよ?」
「うんっ、もうしない。絶対。」
俺たちは微笑み合った。
「…あっ!もう一つ言わないといけない事があるの!」
「え、まだあんの?」
「パパとママ、転勤になったの!」
「…え?どこに?」
「アメリカ。遠いよねぇ〜」
「じゃ、じゃあ渚も…?」
「私は行かない予定だったの。半年だけだし、こうちゃんのママが『うちが面倒みるわよ〜』って言ってくれて。…でも私達が付き合ってても面倒見てくれるのかなぁ?」
「…一応聞いてみるか。それに俺、渚の父さんと母さんに言わないとな。」
「なんか恥ずかしいねっ」
「お、おう。で、今日は何時頃帰ってくるんだ?」
「うーん、わかんないなぁ。あっ!今度の土曜日は2人ともおうちにいるって言ってたよ!」
「じゃあ、土曜日の午前中にここ来るわ」
「わかった!伝えておくね」
「…じゃあ、俺帰るな、おやすみ」
「うんっ!おやすみ」
俺の心はやっと晴れた。
幸せだ。
ーーーーー
土曜日の朝。
「…あれ?母さん、今日休み?」
「ん?そうよ?」
「父さんは?」
「父さんは仕事。」
「そっか。まぁいいや。ちょっと午前中付き合ってくれない?一緒に渚の家に行ってほしいんだ。」
「??いいけど?」
ピンポーン。
「はい」
「光太です。母さんもいます」
「どうぞ入って〜」
「「お邪魔します」」
リビングに通された。
俺と渚は隣に座り、親達はその向かいに座った。
母さんと渚の母さんは察しが付いたのかニヤニヤとこちらを見ている。
(…言いづらい。)
「あのっ!俺たち…」
「そんなの許さないぞー!」
「「…え、、」」
渚の父さんに遮られた。
…涙ぐんでいるように見える。
「まぁまぁ、話を聞きましょ、パパ。光太くん、話して?」
「…はい。俺たち、付き合う事になりました。」
「まぁ!良かったわね!」
母さん達は喜んでいる。
渚の父さんは俺を睨みつけた。
「光太くん。渚の事を幸せにできるのかい?」
「はい、幸せにします」
「もう、パパも光太くんも、結婚の挨拶じゃないんだから!」
「そ、そうですね。」
「でも、心配じゃないか!これから渚と離れ離れの生活になるって言うのに!」
「あらそう?私は光太くんが彼氏ならなんの心配もないわよ?」
「あ、あのっ!その事なんだけど!私、予定通りこっちに残って良いのかな?」
「父さんはこの状態なら反対だけど。」
「…私が責任持つわ。」
母さんが言った。
「光太が渚ちゃんを泣かせないように、私がしっかり見てます。」
「…。」
「パパ、私達を信じて…?」
「お願いします」
俺達は頭を下げた。
「わかった。渚をよろしくお願いします」
「パパ、ありがとう!」
「ありがとうございます!」
「もう、パパ。今さらダメって言ってもどうせ手続きが間に合わないわよ」
「それはそうなんだけどさ、、」
「えーと、話がまとまったところで、私からも一言いいかな?」
母さんから話があるらしい。
「光太、渚ちゃん。本当におめでとう。母さんはとっても嬉しいわ!でもね、あなた達は受験生で、今とっても大事な時期だと思うの。その事は忘れないでね。」
「わかった。」
「わかりました。」
俺達は頷いた。
「そういえば、渚、どこ受けるんだ?」
「〇〇高校だよ?」
「なんだ、一緒か。」
「頑張って同じ高校合格してね!母さん応援してるから」
「頑張るよ。…じゃあそろそろ帰ります。今日はありがとうございました!」
こうして俺達はやっと一緒に前を向いて進めるようになった。




