お守り
ご覧いただきありがとうございます。
花火大会の日の真相がやっと明らかに…?
光太と渚の思いは通じるのか?
花火大会の日…?
思い出したくない記憶が蘇ってくる。
あの日、俺は生まれて初めて失恋をした。
渚が俺ではなく他の男へ見せたあの笑顔。
俺はあの時、悔しさと苦しさで動けなかった。
「…っ」
「こうちゃん?」
「嘘って…?」
「こうちゃん、ちゃんと話したいの。だから私の家、入って?」
「分かった。」
何が嘘だったのか。
俺に好きだと言ったことか?
小西に返事をすると言ったことか?
ならあの笑顔はなんだったんだ…?
考え出したらキリがない。
俺は案内されるがままリビングの椅子に座った。
「飲み物、紅茶でいい?」
「あぁ」
どうぞと紅茶が入ったティーカップをテーブルに置いて渚は向かいの椅子に座る。
「「…。」」
「…あのね、花火大会の日に言ったこと、なんだけど、あれ」
ピンポーン
渚の言葉を遮るようにインターホンが鳴った。
「…ごめんね、出てくる」
「はい」
「渚さんの同級生の小西です。渚さんいますか?」
「…え。…はい、今行きます…」
渚は走って玄関へ向かった。
(俺は結局お邪魔かよ)
きっと俺の事が好きだと言ったのが嘘なんだろう。
小西は俺が渚の近くにいるのが気に食わないのだろう。
…渚も俺が迷惑だったんだ。
(帰ろう。邪魔になるだけだし。)
紅茶を飲み干し、俺は玄関へ向かった。
玄関に着くと渚は小西との用事が終わり、ドアを閉めたところだった。
「俺、帰るわ。じゃあな」
俺は渚の方を見ないように急いで靴を履き、ドアを開けた。
「え、待って!まだ話してない!」
「俺が邪魔なんだろ?」
俺は今どんな顔をしているのだろうか。
渚の顔が青ざめている。
「小西とせっかく二人っきりになれるところだったのに、悪かったな。」
「ちが…っ!小西くんはお守りを届けてくれただけ!」
「そっか。良かったな。」
そういうと俺は玄関を出た。
俺はまだ雪が降っている空を見上げた。
(俺、何やってるんだろうな。)
…寒い。
マフラーを渚の家に忘れてきた。
(もう使わないし、いいか。)
自宅へ帰るのも嫌だった。
行き先もなく俺は歩き出した。
ーーーーー
商店街に着いた。
お正月の商店街は賑わっていた。
俺はとりあえず喫茶店に入った。
ここは俺の両親のお気に入りで、俺も小さい頃からよく連れてきてもらっている。
「いらっしゃいませ〜、あれ?今日は1人?」
「はい。ブラック1つお願いします」
そういうと窓際の席へ座った。
「ブラック飲めないんじゃなかったっけ?」
「いいんです。今日はそういう気分なんです。」
「ふ〜ん。ま、もし飲めなかったら他のに交換してあげるよ」
「ありがとうございます、マスター」
ここの雰囲気は好きだ。
落ち着く。
「はい、おまたせ。1人って事はご両親、仕事なんだろ?大変だなぁ〜。ゆっくりしていってね。」
「ありがとうございます」
マスターも仕事してるじゃないかと思ったが何も言わなかった。
(…いただきます)
淹れたてのコーヒーを啜る。
(…にがっ)
俺にはやはり早すぎたようだ。
「はぁ〜」
カップを置いて、外を見る。
福袋を持って楽しそうな女子たち。
家族で出かけて楽しそうな人たち。
正月からゲームのカードを集めて喜んでる男子たち。
(みんな、笑ってるな)
そんな景色をぼーっと眺めていると、いきなり窓にドアップの顔が現れた。
「わっ!」
俺は思わず仰け反る。
正体は奏太だった。
奏太は家族に手を振り別れると喫茶店に入ってきた。
「いらっしゃいませ〜」
「あ、俺あいつの連れです」
そういうと俺の所へやってきて向かいに座った。
「…俺、1人でいたかったんだけど」
「まぁまぁそういう事言うなよ、光太。いかにも『寂しいです』って顔でぼーっとしてる方が悪いんだろ〜?全然気付いてくれないし、心配で来ちゃったよ!あははっ」
「…。」
こういう時の奏太はすごい。
俺の事がよく分かっている。
「さんきゅーな。でも家族と出かけてたんだろ?」
「ん?あー、いいのいいの!帰るところだったからさっ!…あ、これ、母ちゃんがお小遣いくれたからなんか頼もうぜ!」
「いいのか?」
「いいのいいの!俺何にしようかな〜」
奏太はカフェラテとチーズケーキを注文すると、最近の出来事を聞いてもいないのにベラベラ喋り出した。
俺は聞いているフリをしながら外を見ていた。
ふと、小さな男の子と女の子を見つけた。
手を繋いでいる。
女の子は賑わう商店街が楽しくてしょうがないようだが、男の子は必死な表情だ。
まるで姫を守る騎士のようだ。
「なんだかあの子達、昔のお前と渚ちゃんみたいだな」
「はぁ?」
「無意識だったのかもしれないけどさ、『俺が渚を守る』って感じでいつも歩いててさ。懐かしいな〜」
「それ、奏太の勘違いじゃないのか?」
「そんな事ないぞ?うちの親も言ってたし!」
「じゃあお前の家族の勘違いだ」
「そんな事ないって!あ、そういえば結局秋山さんと渚ちゃんの事聞けたのか?」
「聞けてない」
「あれから何ヶ月経ってるんだよ〜!」
「そうだな」
「光太が聞けないってことはよっぽどの事なのかな?」
「さぁ?秋山に聞いても答えてくれなかったしな」
「渚ちゃんには?」
「…タイミングが悪くて聞けてない」
「?そうなのか?」
他愛もない話をしている間にすっかり外が暗くなってしまった。
「そろそろ帰るか」
「そうだな〜。あ、これ。やる」
「?お守り?」
「そう!合格守り!」
「…さんきゅ。でもなんで俺に?」
「お前知らないの?友達にお守りあげるの流行ってるんだぜ!」
「へぇ〜知らなかった。でも、俺、何も持ってないわ」
「俺のはいいの!お返しなんて期待してないから!」
「悪いな。」
そう言って店を出るとお互いの帰路についた。




