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【サマポケ二次創作】次の夏休みにもまた

作者: 漆畑公望

-次の夏休みにもまた-

                  


「まもなく鳥白町漁港に到着します」

フェリーのアナウンスが聞こえた。

このアナウンスを聞くのも、もう何度目かのことになる。

夜は大分涼しくなってきているものの、まだ日の登っている内は少し暑かった。海風が気持ち良い。

あの夏休み以来、俺は週末になると決まって鳥白島を訪れている。

平日はバイトをして交通費やらをコツコツ稼ぐ生活は、夏休み前に比べたら忙しくなった。だけどその目的があることもあってか、その毎日は充実している。

「あんた、また来てたのかい」

 後ろからおばーちゃんに話しかけられた。あのへじゃぷのおばーちゃんだ。

「こんにちは」

「あんたも好きだねぇ」

「……そうですね」

確かに、俺はこの島が好きなんだろうな。

「そういや、傷ついた翼は癒えたのかい?」

うっ……、今でもやっぱり恥ずかしかった。まだ呼ばれてるのかな。ルシファー。

「えぇ……まぁ……お陰様ですっかり」

「そんなら良かった」

おばーちゃんの優しさが心にしみる。

「ま、ゆっくりしてき」

おばーちゃんはひょこひょことフェリーの中に戻っていった。

もうすぐ、鳥白島に着く。


夏休みが終わって地元に帰って、まず俺は部活のみんなに謝った。そして、正式に退部したいと、そう申し出た。

 驚いたのは、みんなから部に戻ってくるように勧められたことだ。

 とてもうれしかった、だけど俺はそれを断った。

 もっとやりたいことをみつけたから……と。

 俺はずっと紬の近くにいてやりたかった。あの、紬と静久と夏休みを過ごした灯台に、いたかった。だから。


 フェリーを降りて、灯台までの道を歩く。やっぱり少し熱かったけど、蝉の大合唱はもう聞こえなくなっていた。

灯台に着く。そこにはもう先客がいた。

「あら、パイリ君」

「よう。もう来てたんだな」

静久もあの夏休み以来、週末にはよく灯台に来ている。だから週末は灯台で静久と色々と話すことが多い。他には、丁度灯台の前を通った良平や天善とバカをやったりもする。

「夜は涼しいけど、まだやっぱ熱いな」

「そうね。でも、ここは風が吹いてるから、気持ちいいわ」

「確かに」

 そんな風に話してから、少しだけ辺りにゴミが流れついていたから、今日は二人でゴミ拾いをすることにした。ゴミを入れる袋を用意して、早速ゴミ拾いに取り掛かる。


ゴミ拾いをしていると、いろんなものが出てきた。

空き缶や長靴の他にも、メッセージボトルなんて小洒落たものも拾った。後で静久と一緒に見てみよう。

 ゴミ拾いを続ける。すると……

「……これは……」

 水に濡れてシールのはがれたミニ四駆、糸の無いヨーヨー。

「良一のやつだ……」

 秘密基地で使ったらどこかに行ってしまった、思い出一号と二号。今度良一に渡しておいてやろう。思い出を失くすと、悲しいもんな。

 次に、ワカメを見つけた。丸々一本流れ着いていた。

「天善が頭にかぶってたな……」

 でもさすがに真似をする気にはならなかった。だからワカメは海に返しておいた。

 そして極めつけは……

「……これ……」

次に見つけたのはエロ本だった。巨乳ものだ。

俺はそのエロ本をそっと水に濡れないところに隠しておく。こういう隠されしエロ本を偶然見つけて、男の子は成長するんだ。

……多分。

「立派な大人になるんだぞ」

 まだ見ぬ男の子に向けて、そんなエールを送った。

「……あ」

 そんな中で、パリングルスの空き容器を見つけた。

 俺はそれを、ゴミとは別の、面白い漂着物があった時用の袋に入れた。ミニ四駆やメッセージボトルと一緒に、容器の底の部分が、太陽の光を反射させて光った。


 しばらくゴミ拾いをした後、俺と静久は合流して、ゴミの分別をする。基本は燃えるゴミと燃えないゴミで、不思議だったり、面白かったりする漂着物は別によけておいた。

「あら、メッセージボトル?」

「そうみたい。読んでみる?」

「ええ。そうしましょう。読むための手紙ですもの」

 俺はメッセージボトルの栓を開け、中の手紙を取り出した。

「どれどれ……」

 手紙を読み始める。

『複数人のチンピラに囲まれてしまった時の必殺技ってありますか?あったら教えてください』

「…………」

「…………」

 返答に窮した。

「これ、住所とか、何も書いてないな」

「困ったわね。これじゃぁお返事もできないわ」

 捨てるのも申し訳ないからと、このメッセージボトルはひとまず静久が持って帰ることになった。

静久の拾ったものの中には、未開封の缶コーヒーがあった。だけどあの時のコーヒーとは違った。

「今度どんなメーカーさんのコーヒーなのか調べてみるわ」

「ああ。よろしく」

 そして、良一の思い出一号と二号を見せた。こうなった経緯を静久に話すと、少し驚いていた。

「ミニ四駆ってそんなに走るのね」

「いや、普通はこうじゃないんだけど、天善が改造するとこうなるみたいなんだ」

「まぁ、すごいわね。天善君」

 そうしていると、静久の方には犬のぬいぐるみが、俺の方にはパリングルスの空き容器が残った。

 この二つを見て思い出すのは、やっぱり紬のことだ。

「紬に、会いたいわね……」

「俺も……」

 紬に会いたい。

 俺と静久の、心からの願いだった。

 でも……、

「きっと夏に、ね」

「ああ。そうだな」

 きっと紬は、次の夏に戻ってくる。

 だから、それまでは。

 最終的に、パリングルスの容器はちゃんと分解して分別をした。ぬいぐるみにはベッキーという名前をつけて、灯台に置いておくことにした。


 ゴミを分別し、ちゃんとしたところに捨てて、灯台に戻ってくる頃には、もう日が傾いていた。

「もう日が沈んでる。早いな」

「『秋の日はつるべ落とし』って言うものね」

そして今日は帰ることになった。

「またね。紬」

「またな。紬」

そして、フェリーで本土についた後、俺と静久も別れた。

「またね。パイリ君」

「ああ。またな」

そんな風にして、俺の週末の一日が終わる。


それからも、この生活は続いた。学校が冬休みに入ると、京子さんのところにお世話になって、鳥白島で冬休みを過ごした。

バレンタインの日には雪が降って、静久、良一、天善、蒼、のみき、しろはと、みんなで雪合戦をした。

静久からバレンタインチョコももらった。良一と天善ももらえたみたいで、天善に限ってはそれからしばらくの間はかなりの上機嫌だった。

春が来て、お花見なんかもした。暑くなくても、暖かくなったら良一は裸を解放するみたいで、早速のみきの水鉄砲の餌食となっていた。


そして季節は巡る。

七月になって、蝉の声がうるさくなってきた。学校は夏休みを目前にして、どこか浮き足立った雰囲気だ。

学校からの帰り道、ふっと空を見上げるとそこには真っ青な空に、立派な入道雲がもこもこと出来上がっている。

「〜〜〜♪」

自然と鼻歌が漏れてしまう。

夏休みが、待ち遠しかった。


夏休みになった。俺は今回も京子さんのところにお世話になって、鳥白島で夏休みを過ごすことになっている。

一年前は現実から逃げてここに来た。

だけど、今年はそうじゃない。

夏休みを過ごすために、ここへ来たんだ。

「パイリ君」

「よう」

一足早く島に来ていた静久と、港で合流する。そして、

「む~むぎゅぎゅぎゅぎゅ~♪」

「む~むぎゅぎゅぎゅぎゅ~♪」

「「むぎゅぎゅむぎゅ~ぎゅ~ぎゅ~♪」」

 俺は静久と、あの唄を歌いながら、灯台に向かった。

 すると――

「おかえりなさい」

灯台の扉を勢いよく開けて、紬が飛び出してきた。

「「紬!」」

俺と静久の声が被る。今二人の目の前にいるのは、間違いなく紬だった。

そして俺は思わず、紬のことを抱きしめていた。

「会いたかった……!」

嬉しかった。とても嬉しかった。だけど、涙が止まらなかった。

「むぎゅ〜。ハイリさん、苦しいです」

「あ、ごめん」

我に帰って、抱きしめていた腕を解く。そして俺は目に溜まった涙を拭って、紬の目を見て、笑顔でこう言った。

「ただいま」

紬と静久と俺との三人の夏休みが、これからまた始まる。


(了)

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