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52プレイ 語部現は考える。


「チルド。もし、モンスターが出たらあんたが盾になりなさいよ」


「ん?もちろんじゃん」


『ふぅ...』


ここは薄暗いレンガ造りのダンジョンの地下3階。湿っぽい感じで、ところどころに気色の悪いキノコが生えていてつい崩したくなる。


『甘ぇ...砂糖の蜂蜜漬けよりも甘ぇ...』


今日はあの頭のおかしい爆裂娘ならぬ、頭の壊れた阿保娘である【ジン】はダンジョンに潜ることを労働基準法に基づき、断固拒否して日本の有給休暇消化率の向上に励んでいる。

ジンは僕がダンジョンに置き去りにして以来、ダンジョン恐怖症という世にも珍しい奇怪な病に罹ってしまったらしく、快復の目途はたっていないらしい。


よって、ここにいるのは先頭を歩いているこの僕、【語り部】。

僕の中学校の時からの友人で、先ほどから一切無言で僕の後をついてくる【サトウ】。

高校の友人で、ラブコメの主人公のような雰囲気と中身を併せ持つ、【チルド】。

そのチルドの中学校からの同級生で、なにやら想いを秘めるツンデレ系女の子、【ジャスト】。


という、コメディ世界線とラブコメ世界線の住人が出版社の都合で都合で無理やりコラボさせられてしまったかのような混沌たる雰囲気の流れる4人でダンジョンに来ている。



【チルド】もとい、僕の現在の同級生である長名大地は佐々木から好意を向けられているということに気づいているのだろうか?恐らくであるが、安っぽいラブコメ系ライトノベルの主人公のごとき鈍感さをもって佐々木からの好意をスルーしている。


「ふん!男なら女の1人や2人守れるようになりなさい」


「2人もここにはいないよ?」


なんだか佐々木が可哀そうに見えてきた。それでも健気にアタックを続ける彼女も乙女ゲーの主人公のような素質をもっているのかもしれない。


「ジャストさん……可哀想だよね……」


サトウは二人に聞こえない小声で僕だけに溢すように呟いた。確かに僕もサトウに同感だ。

佐々木があんなにも積極的にアプローチしているというのにまったく靡かない長名は元KGBの工作員でもやっていたんだろう。


仕方ない。

いつもいつも、リア充を見ては1年後に髪の毛が抜け落ちる魔法をかけて回ったこの僕もあまりに見ていられない佐々木のために一肌脱いでやるとしよう。


『サトウ。今日はあの二人をくっつけてみようと思う。協力してくれないか?』


「あぁ...。俺もあまりに見ていられないと嘆いていたところだ。よろこんで協力させてもらうよ」



僕とサトウはちらっと二人のいる後方を振り返った。


「ちょ...ちょっと!......怖いから、裾掴んでいい?」


「ん~...どうしようかなぁ」


「な、なによ!私が嫌だっていうの!」


「いや、そういうわけじゃないんだけど。こう、くっつかれると盾になってあげられないな、と思って」


「...ッ!...そうね!ならいいわ」



「どしたの?」


「うるさい!あっちむけ!」


長名のセリフに顔を赤面させて照れて、佐々木は長名から顔をそらして壁を向く。その佐々木を不思議に思ったのか、覗き込むようにした長名が佐々木によって殴られていた。



うへへへへ...ざまぁみろ!



・・・じゃない!違う違う。

今日は佐々木のことを応援するって決めたんだった。危ない危ない。


「語り部。しっかり、気をもって」


『悪い。騙り部が出てしまっていたようだ』


「まぁ、大体いつも騙り部だと思うけど」


後ろでイチャイチャする二人を見て、もういいんじゃないかなぁ...と悟り気味になっていたがよくよく思えば長名は佐々木のことを一切名前呼びしていない。まぁ、かくいう僕も友人でも苗字で呼ぶ派ではあるが、佐々木の方は長名のことを「大地」と何度か呼んでいた。

これに対して、長名が「佐々木」で答えるのはコンディション的に対等じゃないな。




いや、ちょっと待って...。そういえば、僕も佐々木の下の名前しらない...。

ツンデレというからにはそれらしい名前に違いない。


『なぁ、ふたりでイチャついてるとこすまないが...ジャストに聞きたいことがあるんだが』


「なによ?今忙しいんだけど...って、べべ別にイチャついてなんてないわよ⁉」



『ジャストの下の名前ってハルヒとかだっけ?』


「おいおい、語り部語り部。趣味が出てるぞ」


おっと、まずい。


「はぁ?同級生だってのにそんなことも知らないの?飛ぶ鳥って書いてアスカよ、いい?アスカよ」


佐々木は自分の名前の部分だけを強調して説明した。その視線が何度か長名の方をちらちらと泳いでいたが、当の本人は他人事のようにぽけーとしている。

おい、お前少しは興味もて。


『てか、結局ツンデレなんですが』


「は?意味わかんないこと言わないでよ」


『苗字は「ボクっ娘」で名前は「帰国子女」かぁ。まぁ、どっちも「天才」だけどね!』


「ちょっと、なに興奮してんのよ...怖いんだけど」


引かれてしまった...。


『それにしてもジャストとチルドは本当に仲いいよな』


「な、なに言ってるのよ!別に仲良くなんてないんだから!」


「えぇ...それは悲しいなぁ...」


「え!?嘘!嘘だから!」


佐々木もなかなかのツンデレっぷりである。

中学校からの付き合いということもあり、佐々木と長名は普段から仲がいい。それは学校生活の随所で見られ、ペアを作るときは大体彼女が長名を誘っていた記憶がある。佐々木はバレー部で部活があるため、放課後は僕と一緒に下校している長名であるが登校する際は佐々木と通っているらしい。

初々しい...。


「チルドさんとジャストさんって初対面ってどんな感じだったの?」


先ほどからずっと黙っていたサトウも話に入ってきた。

どうやらサトウはサトウなりに気の利いた一言を探っていたようだが、まぁ、なんというか...出てきた言葉はサトウらしいというか、越してきた新婚夫婦に興味半分で話しかける近所のおばちゃんみたいな陳腐なものだった。

というか、直截的すぎると思うんですよ。


「う~ん...ジャストとの出会いかぁ...覚えてないなぁ」


チルドは腕を組んで唸って、なんとか記憶をほじくり返そうとしているが、うーん、うーんと唸るばかりで結局思い出せないらしい。


「はぁ...たしか、あれよ。その...入学式の日の帰り...」


その様子を見て、長名に思い出させるのは不可能とあきらめたか、自分で言い出すも照れてしまってデクレッシェンドみたいに最後に行くに連れもにょもにょとフェードアウトしてしまった。


「あぁ!そういえば、そうだったね。あれでしょ?」


「そう!あれよ!」


「そうそうあれだよね!」


「・・・」



『チルド?』


笑顔で何度も頷くばかりのチルドに3人の冷ややかな視線が突き刺さる。その視線に圧されてしまい、長名の首筋からつぅー、と汗が流れ落ちた。


「すいませんっしたぁーー!まったくもって、記憶にございません!」


「えぇ~...」


これにはジャストも呆れたようにため息を漏らした。

この男、天然なのにクズになりそうな資質があるな。どこぞの誠さんみたいに女に刺されて死ぬ未来が見えてしまった。


「まったく...」


「ごめんごめん!」


手を合わせて謝るポーズは取っているが、この男、明らかに謝意を感じない。

それに佐々木は佐々木で起こった風にしているが、なんだが顔は嬉しそうだ。周りから見れば、明らかに付き合っていそうには見えるんだがな...。


「入学式のあの日。私が道で倒れていた時の話よ」


「あぁ、それそれ!」



いや、いやいやいや。


『なんかおかしくない!?』


「語り部、もしかしたらこれがコメディ世界線とラブコメ世界戦の埋められることのない大きな溝なのかもしれない...」


『...世界線フォッサマグナ......』

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