5
「ボンバーチーム……出動要請。すぐに来い……! ボンバーチーム……!」
爆炎の傍らに転がっていた暴走族の一人が、息も絶え絶えながら、携帯に向かって叫んだ。
「ボンバーチーム?」
俺は言った。
「おまえら……覚悟しろよ……」
暴走族の男は不敵に笑った。
「うちはただの暴走族じゃねえ……。警察とでも互角にやり合えるように訓練、編成されている……。その中でも一番の攻撃部隊が、ボンバーチーム……。このチームが作られたのは今日、つーか、ついさっきだが、この意味がわかるか……? くくく……」
『総長、あんた、喋りすぎだ』
そのとき、スピーカーで拡声された声が聞こえてきた。
『そして、今から俺たちボンバーチームは、あんたから独立する』
「なにッ……」
どうやら総長らしい暴走族は、途端に青ざめた。
『部下に力を持たせるとはどういうことか、もっとよく考えるんだったな。――GO TO HELL(地獄へどうぞ)』
総長の頭上に、うんこが降ってきた。
俺は叫んだ。
「伏せろーーーーーーーーーっ!!!」
ドァオオオオオオン!!
吹き付ける茶色の爆風を、俺たちは倒れたバイクに隠れてやり過ごした。
「ぐうっ、あちィ!」
美良野が叫んだ。空気が火傷しそうなほどに熱されている。
これまでのうんこ爆発でも温度の上昇はあったが、ここまでではなかった。
「ぐうあああ………」
総長以下、爆発をまともにくらった暴走族たちは、体から煙を上げてのたうち回っていた。
『昨日食ったニンニクのせいさ』
声が聞こえたかと思うと、爆炎の立ち込める路地に、一台の乗用車が音もなく現れた。
それは、トヨタのプリウスだった。
『ほう、お前たちはまだ無事なようだな。……だが、俺たちボンバーチームの連続無音爆撃に耐えられるか?』
搭載されたスピーカーからだろうか、そのような声を発すると、プリウスはまた音もなく走り去った。
間をおかず、うんこが空高く上がって、落下してきた。
ボンバーチーム……車内でしたうんこを投擲する戦術か……!
「ヤベェ!」
美良野が伏せようとしたが、
「いや、タイミング的に今したばかりだ! 二十秒は余裕がある! 逃げるぞ!」
俺が言って、他二人とともに走りだした。
民家の陰に隠れたところで爆発が起きた。地響きと、ブロック塀の崩れる音がした。
ドォォォォン!!
ドォオォォォン!!
さらに続けて、二度、近場で爆発が起きた。
「デタラメにうんこを投げてきてるのか」
俺は言った。
ドォオオオオオオオオン!!!
今度は塀を挟んだすぐ間近での爆発。容赦ない熱風が吹き付けてくる。
「ちげえ! こっちの位置バレてるぞ!」
美良野が叫ぶ。
「あ……。あれ、もしかして」
優陽が指した上空、それも、うんこの飛散も届かないような高度に、ドローンが浮かんでいた。
「あれで俺たちを見てるのか」
俺は言った。
「一方的じゃねえか! こっちには連中が全然見えねえのに!」
美良野が言った。
優陽はじれったそうにしている。敵の場所さえわかれば、彼女の直接攻撃ですぐに決着はつくはずだ。
しかし相手はプリウス。
噂には聞いていたが、本当に静かな車だ。
憎いことに、今のこの状況におけるドローン、そしてうんことの相性が抜群に良すぎる。
「デタラメに動かなきゃなんねえのはオレたちの方だぞ長浜!」
美良野が叫んだ。
「散れ! 散れ! 三人バラバラに逃げるぞ!」
俺が指示を出した。
こくりと頷く優陽。
俺たちは駆け出した。
しかし三人とも全く同じ方向に向かったので、俺と美良野の足が絡まり、そこに優陽も衝突して、結局全員転倒した。
「!」
仰向けで見た空に、うんこが三つ放られた。
「三つも……」
俺は呆然とつぶやいた。
「どんだけうんこするんだ……」
美良野も諦観の表情で言った。
優陽は歯を食いしばり、落ちてくるうんこを睨みつけていた。
そのとき、彼女の袖が何かに引っ張られた。
「こっち……。早く……!」
先程、暴走族に略奪を受けていた男の子だった。
彼が示す先では、うんこまみれの家の窓が開いて、彼の母親が顔を出していた。
「どうぞこちらへ!」
俺たちはバタバタと這うように走って、窓から家の中へ飛び込んだ。
俺が窓を締めた直後、
ズゥウウウウウウン!!
大爆発が家全体を揺らした。
「すげえ、この家、こんな近距離の爆発に耐えてるぜ」
男の子を抱えた美良野が言った。
「積水ハウスの家なので、頑丈なんです」
と母親が言った。
「マジかよッ」
「さすが積水だ」
「すごい」
俺たちの中で、積水ハウスの株がブチ上げになった。
「しっ……!」
男の子がその騒ぎを制した。
外からスピーカーの声が聞こえてきた。
『どこに隠れたんだ? まあこの辺りの家の中だと見当はついているが。……一つ一つあたっていこう』
ズウウウウウウンン……!
爆発音がした。家が一つ潰されたのだろう。
『ふむ、瓦礫の中にいない。まだ生きているようだな。別にお前らに恨みはないが、会うやつ全部を糞にまみれさせる、それが俺たちボンバーチームの信念だ。言っておくが、弾切れを期待するだけ無駄だぞ。五人乗りプリウスの、運転手以外は全員爆撃兵――排便コントロールに長けた精鋭だ。まだ余力の三分の一も出しちゃいない』
ズウウウウウンン……!
また一軒、家がやられた。
『残ったのは……積水ハウス!』
スピーカーの声が間近で響いた。
「見つかっちゃった……」
男の子が絶望の声をあげた。
「大丈夫だ」
美良野が言った。
「お前はママと一緒にここに隠れてな。うんこを家に放り込むってことは、目の前にプリウスがきてるってことだ。やられる前に、オレたちが出ていって、逆にヤツを叩く」
俺もうなずいた。
「プリウスだって至近距離の爆発は避けたい。接近するのがむしろ安全なはずだ」
「行ってくるよ」
優陽が男の子の頭を撫でた。
『ちょっと待てよ、今、でかいのをひねり出してるからな。こいつを、割った窓からぶち込んでやるからな』
スピーカーからの唸り声が聞こえてきた。
今しかない。
俺たちは、うんこまみれの窓を開けて、外に飛び出した。
『……なーんちゃって』
そこにいたのは、ドローンだった。
スピーカーがついていて、声はそこからしていた。
『迂闊に近づくわけないだろ。その女子の半端ない強さは、俺たちもドローンで観てたからな。――ところで、周りを見回してみな。なにがある?』
うんこだ。
周囲は大量のうんこに囲まれていた。
『親切に教えてやろう。二十七秒経過。あと三秒でアデュー』
「――窓を閉めろオッ!」
美良野が振り向いて、積水の家に叫んだ。
「お兄ちゃん、お姉ちゃん!」
男の子の泣き声が響いた。その隣で母親が窓を閉めようとするが、うんこがこびりついていて、女性の力ではうまく閉まらない。
「間に合わない……」
そう言う以外、俺は何もできない。
三秒経過。
うんこが、爆発する――。