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うんこ大爆発  作者:
23/25

23

「壊れた時間空間などの概念は……なるほど、君たち生物一人ひとりが無意識にボクの代わりとなり、記憶から修復したのか。でも、なくなったうんこの概念を作ることはできなかったようだ」

 神少年は周りを見回してそう言い、続けた。

「排泄をせずに生きていける生物は少ない。特にそれなりの知能と、それを維持する体積をもつ者は、排泄と無縁ではいられない……そういうふうにボクが作ったからね」

 そして、彼は語りだした。

 まず、俺たちを含む全生物は、うんこを失ったことにより生体機能に異常をきたし、あと数日で眠るように死んでいくこと。

 そして、その死は、不死身の最強宇宙人であるドンドンガラガラピッピッピー星人にとっても例外ではないこと。

 うんこの消失からそこまでの結論を導き出した彼らが、永遠を奪われた怒りによる報復行動を開始したこと。

「あのとき、ボクの邪魔をしなければ、少なくともこうはならなかったのにね……。一度壊しはしたけど、みんな欠陥のない生物として再創造できたのに……」

 神少年は皮肉たっぷりに言った。

「助けてあげようにも、ボクはもうこの世界の神じゃないから無理だな……。しかたないよね、ボクを否定したのは君たちなんだから……。それじゃ、どんな結末になるか、陰で見守っておくよ」

 彼はパッと消えた。

 ……あと、数日の命だって……?

 いや、それよりもまずは、

「どうなるんだ、これ」

 俺は言った。

 今俺たちは、ステージ上空、十メートルほどのところを浮遊している。

 ギャラリーが騒ぎながら見上げているのが見える。

「ドンドンガラガラピッピッピー星人は、言葉を持たない。最強で不死身ゆえにそうなったと言われているが、……つまり交渉は不可能だろうと思われる……」

 ガブリエルが言った。

「つうか、どこにいるんだ!? ドンドンガラガラピッピッピー星人!!」

 と騒ぐ美良野に、ガブリエルは、

「おそらく、ここから私たちの星以上に離れた母星から動いてはいないだろう。彼らはそれだけの技術力を持っている」

 と、そのとき、地上で、ポケモン星のトカゲが連れていた金属球体が、俺たちと同じく無限障壁に包まれ――、

 その中で、ぐしゃりと潰された。

 圧でもかけられたのだろうか。自分たちの末路を想像してゾッとした。

 球体の残骸から、中に入っていた小さなキューブが浮遊して、グルグルグルグルグルと高速回転を始めた。

 そしてそれは周囲にホログラムを描き出した。

 予想通り、金属球体はカメラ的な撮影装置だったようだが、まるで嬉しくなかった。

 ホログラムは、つい数分前の状況――俺が喋って、全員の拍手を浴びる場面……を再現していたからだ。

 ガブリエルの、俺を称賛する台詞……。

 俺が拳を付きあげ……ワアッと歓声があがる……。

 どうやら、遠くの星ですべてを見ているドンドンガラガラピッピッピー星人は、誰を処罰すべきかわかったらしい――俺を包んだ無限障壁が赤く発光し、まるで見世物のように、さらに高く浮上した。

「長浜!」

 ガブリエルや他のやつらが叫んだ。

 同様に地上にいる報道陣やギャラリーも、俺の名を呼んだり、わけのわからない異星人を非難する声を上げたが、

『静粛にせよ!』

 と威厳に満ちた声がして、場は静まった。

 そして、一人のポケモン軍兵士の腰にある機械から光が照射され、ホログラムが描き出された。

 それは年老いたトカゲ人間だった。

「族長……!」

 ガブリエルが驚愕した。

「私たちポケモン星人の頂点にあらせられる方だ……」

 その族長は、鋭く周囲を睨んで言った。

『ポケモン星人、そして地球の人々よ、これから行われようとしているのは、宇宙全土を巻き込んだ重責への厳正な処罰である。邪魔をすることは許されない』

 そして族長は、今この世界の生物がおかれている状況、そしてそれを作り出したのが俺であることを説明した。

 ガブリエルが汗ばみながら、「私の装備する通信機は常に軍本部とつながっている。さっきの神との会話も筒抜けだったのだ……」と言った。

『静粛にするのだ、皆の衆。この処刑を見過ごさなければ、次は我々の番かもしれない。それほどに、断罪者であるドンドンガラガラピッピッピー星人は得体が知れず、恐ろしい。彼一人の犠牲で終わらせるのだ。そもそも罰せられるべき責任があるのだから……我々の命もあと数日なのだから!』

 族長が言い終わると、人々は上空を見上げた。

 その顔を遠目に見てもわかった。非難は今、俺に向けられていた。

 ……だろうな。

 あと数日の命とか、俺や多分美良野とかも、これまで散々死にかけてるせいで緊迫感がないが、まともに暮らしてた連中ならこれが当然。むしろ冷たい視線で済んでるのが生易しいくらいだ。

「族長……。確かに……確かに、残り僅かだとしても、皆の命は守らなければならない。残り僅かだからこそ、それは尊い……。しかし……!」

 ガブリエルはやりきれなさそうに俺を見た。

「私は軍の司令官だ……。それをさしおいて、一般人の子供が裁かれるなんて……。ぐううっ……」

 そして腰の歪みサーベルに手を伸ばしかけたが、おそらく無限障壁には通用しないと考えたのと、反逆によって無関係の人々も巻き込まれるのを恐れたのだろう、その手は力なくおりた。

「すまない……長浜……」

 そして、俺の無限障壁の一部が奇妙な模様を描いたかと思うと、それが『六〇』という数字になり、すぐに『五九』、『五八』と減少をはじめた。

 説明されなくてもわかる。執行までのカウントダウンだ。

 おそらくゼロになれば、さっきのような圧か、何らかの方法で俺は死ぬ。

 ……怖い……?

 いや、不思議と落ち着いている。

 ドンドンガラガラピッピッピー星人の言い分も、神の言い分も、まぁ理屈は通ってると思うし、実際、俺が動かなければ、どちらにも不都合は生じなかっただろう。

 誰か一人を罰して済ませる思考は好きじゃないが、理解できなくはない。それにやらかしたのは俺自身だしな。

 神も神で、そもそも俺を作ったのも神なら、作品が文句を言っても向こうからしたら可笑しいだけだろう。

 なんにせよ、自分でやると決めて、全部やり切った結果こうなったんだ。受け入れるしかない。

 ……それに、みんなより少し早くいくだけだ。

「長浜よ」

 ドゴランが言った。彼も無限障壁に包まれていたが、明らかにサイズ不一致のため、伸び切った障壁の中で身動きがとれずにいた。

「助けたいのだが、指一本動かない」

 ドゴラン……。俺はお前に本当にひどいことをしたってのに……。

「クソ!」

 カルマは歯を食いしばっていた。

「うんこさえ……うんこさえあれば!」

 悪い、カルマ……うんこさえなければもっとマシな台詞に聞こえたと思う。

「長浜アアーー!!」

 草村はものすごい怒りをこめて叫んでいた。

 だが、服を前後逆ならぬ上下逆に着ていたので、自分が目立ちたいがための俺へのマジギレなのだとわかった。

「長浜…………長浜……っ」

 ずっと俯いていた美良野だったが、突然顔を上げると、

「長浜、好きだーーーーーーーーーーーーーーーーッッッ!!!!!!」

 それを今聞きたくはなかった。

「……本当に、どいつもこいつも……」

 と俺が苦笑しかけたとき、

 ガアアン!!

 美良野の隣の障壁からすごい音がした。

 その中から優陽が、俺の方を睨みつけていた。

 ガアン!

 ズガアアン!!

 そして、障壁を殴る、蹴る。

『そこの女子、やめるのだ! ドンドンガラガラピッピッピー星人を刺激するな! この場の全員が殺されるかもしれんのだぞ!』

 トカゲ族長が一喝したが、優陽はまるで聞こえていないかのように打撃を続けた。

「やめろ!」

「やめてくれ!」

 他の人々が叫んだ。

「私たちはまだ生きたいのよ!」

 それを聞いて、優陽は一瞬動きを止めたが、

「…………っ!」

 追ってくる感情を振り切るように、打撃を再開した。

「やめろ」

「やめろーーーー!」

 そして場は「やめろ」コールに包まれた。

 一部では「殺せ」コールも湧いて、優陽に向かって石や物が投げられた。

 …………。

 カウントは『二〇』を切っていた。

 もうすぐ終わる。

 だから俺としては、何がどうなろうとどうでもいい。

 でもなんか、……つまんねえな。

 最後に見た光景がこれかよ。

 優陽の拳からは血が滴っていて、もう終わるまで殴るのをやめないだろう。

 地上からは罵倒がやまなくて、

 ガブリエルはやるせない顔をしていて、

 美良野たちは唖然としていて……。

 別にこれが悪いとは思わない。

 怒りをおぼえるわけじゃない。

 全部、自然なことだよ。でも……、

「くだらねえ」

 俺はぽつりと言った。

 カウントは『七』。

「ほんと、くだらねえよ……」

 そう言って気づいた。

 俺だって同じだ。こうして気にかけてる時点で、この世のありふれた事象にとらわれてる小さな人間の一人……。

 もういい加減、最期だってのに、抜け出せずにいる。

 ――ちっちぇえなぁ。

 あのとき言われた言葉が頭によぎった。

 ――笑えるくらいちっちぇえわ、おまえら。

 …………。

 そうか。

 俺は、あんなふうになりたかったんだ。

 喜び、悲しみ、法則、神……すべてを超越し、笑い飛ばす、うんこのように、なりかたった。

 いや、ちがう。俺は……、

「うんこに、なりたかったんだ」

 なにかがはじけた。

 俺は風を感じた。さわやかな風だった。

 気づくと、赤い障壁は細かな破片になって、ふわりと舞っていた。

 ドゴランでも破ることはできず、今ガブリエルが、多分優陽の騒動に乗じてだろう、歪みサーベルを押し当てているが傷一つついていない、その無限障壁が、たやすく破壊された。

 不思議に思いながらも、俺は理解していた。

 自分が壊したのだと。

 そして、もう障壁はないのに、体が宙に浮いていることもわかっていた。

 重力を超越しているのだ。

 ふっ……と懐かしいにおいが鼻孔をくすぐった。

 風で漂ってきたというより、すぐ近く……自分の体からしたような香りだった。

 俺を見て、誰もが驚愕していた。

「長浜……」

 カルマが、かすれた声で言って、隣の国連ビルを指さした。

 そこのガラス窓に、俺が映っていた。

 髪がとぐろを巻いていて、肌は茶色かった。

「お前…………うんこになってるぞ……」

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