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うんこ大爆発  作者:
20/25

20

 そのような奇妙な物語を、草村はものすごい抑揚をつけて読み終えると、紙片をポイと捨て、

「封じられし大悪魔よ、今こそ、この書を媒介とし現世に目覚めよ!」

 とまるで小説が呪文の詠唱であったかのような振る舞いで叫んだのだが、

 ドオオオン!!!

「グオオオオオオオオアアア!!!」

 グロテスクな容貌の大悪魔がマジで召喚されてしまった。

「ううッ!」

 俺はうめいた。薄々そんな感じはしていたが、やはり草村も美良野と同類だった。

 いや、まさかそれ以上か……? 美良野と違って色々とかなりガチだ。

「ゆくぞ……禁断の即死魔法……メガ・デスノライズ……!!!」

 大悪魔が言った。

 次の瞬間、肉は急激な膨張を起こし、

 バッシャアアア!!!

 爆ぜて、どろどろの肉汁が撒き散らされた。

「やった!」

 俺たちは戸惑いもあったが素直に歓喜した。

 だが、草村はただ一人、肉のすぐ近くにいたせいで肉汁まみれになった優陽を、じっと見つめていた。

 ……。

 これは、恐ろしすぎる想像だが、彼はまさか優陽をこのような目に合わせたいがために異常な能力を開花させ大悪魔を召喚し、神をも殺してしまったのではないか。

 優陽もそのことに気づいたらしく、心底ぞっとしたような表情になった。

 そして、優陽のその様子すらも草村はどこか人間味を感じない顔で見つめ続けていたので、俺も、おそらく優陽も、彼の本当の目的は女子の肉汁まみれではなく、その先……すなわち彼女の今の反応自体にあったのだとわかり、この上なく戦慄した。

 奇怪な魔物がうごめく魔界よりも、死者の呪いに満ちた地獄よりも、おぞましく、奇怪で、最も、どす黒い闇。それは、人の内側にあるのだ……。

「優陽、大丈夫か」

 俺は心のケアも兼ねて彼女に駆け寄った。

「大丈夫……」

 それ以上何も言わなかった優陽だが、前に命を助けられたこと、そして今の危機的状況も救われたという実績のせいで彼を嫌悪しきれない心中の複雑さがモロに顔に出ていた。

 ……そこまでも草村の計算なのだろう。ほんとうに、彼のような存在を裁くことができる未来の到来を、俺は切に願う。

「グオオアアアアア!!!」

 突如、大悪魔が叫びだした。

 その声はしだいに悲痛めいたものへと変わり、グロテスクな肉体はひび割れ、内側からめくれあがってさらにグロテスクなものになっていく。

 ブジュブジュ! グヂャリグヂャリ! ブリュリュリュリュリュ!! ブルルン!

 そして――、それは神肉になった。

「今のは少し効いたよ」

 と神肉は言った。

 ……やはり終わってなかったか。しかも、復活のついでに大悪魔を殺しやがった。

「また召喚しなおすだけだ」

 と草村が言って、再びあの支離滅裂な文章を読み上げると、

「封じられし大悪魔よ、今こそ――――、うッ!」

 突然うめいて、がくりとひざまずいた。

「…………MP切れか」

 と彼は苦々しい顔で言ったが、おそらく諸々の欲望が満たされたために使えなくなったのだと個人的には思う。

「じゃあ、そろそろ終わりにしようか」

 神肉は言って、右の掌に黒いエネルギーを、急速に集めはじめた。

 ギュワアアアアア!!!

「ヤバい」

 ものすごい圧迫感の中、カルマが言った。

 黒いエネルギーは一瞬で膨れ上がり、神肉の体が隠れるほどになった。

「本当に、さっきまでのは遊びだったらしい……」

 ガブリエルが言った。

 そして、黒い光が炸裂した。

 俺たちは吹き飛ばされた。

 そのまま果てしない距離と、時間と、運命の中を流されていったように思えたが、壊れたそれらの概念は、俺たちを再びもとの場所へと集めた。

「ぐうっ!」

 俺とカルマは地面に転がった。持っていた銃は激しくスパークして爆発した。

 他の全員も、近くに倒れていた。そして、それぞれが体にまとった紫色のバリアが一斉に割れて、温度のない風に吹かれて消えた。

「美良野と、あの怪獣が……」

 隣でうつ伏せになった優陽が言った。怪獣とはドゴランのことだろう。

「口からビームを吐いて、敵の攻撃にぶつけてくれた」

「そうか……」

 まるで美良野も口からビームを吐いたように聞こえたが、それで全く違和感はなかった。

「脆弱なバリアだけで助かったのが不思議だったが、そういうことか……」

 ガブリエルが言った。しかし彼を含めて全員がそれなりのダメージを受けていて、立ち上がれないようだった。

「しぶといな。いさぎよく死になよ」

 神肉はまた黒いエネルギーを集めだした。

「く……」

 ガブリエルは壊れた歪みサーベルを放棄したが、それ以上体が動かないらしい。

「すまん……俺もドゴランも、さっきので精一杯だ」

 美良野が言った。

 優陽は歯をくいしばった。

「終わりなのか……?」

 草村が言った。

 俺は頷いた。

「ああ、終わりだ。せめて神に与えられる死が、安らぎであることを……」

 黒い光が、放たれる――。

 その寸前に、ドォンとたよりない爆発が神肉の肩あたりに起きた。

 カルマか、と俺は思った。

 彼は、投擲後のフォームのまま、地面に倒れ込んだ。うんこを投げたのだろう。

「無駄だってわかってるのに、やっちまった」

 カルマは笑った。

「いいんだよ、それで」

 俺は言った。

 そして今、終わりの瞬間がくる。

 膨張した黒い光、

 それを集める神肉の右手が、

 少し下がって、

 さらに下がって、

 ずるりと下がって、

 ……地面に落下した。

「え」

 俺は間抜けな声を出した。

 黒い光は消えていく。

 落ちた腕は、肩のところから自壊したようなちぎれ方をしていた。

「……もう一発、投げてみてもいいか……?」

 呆気にとられるあまりか、なぜか俺の許可を求めてからカルマはうんこを投げた。

 ドォォォン!

 今度は神肉の左肩に当たった。ボロボロと自壊して、凍った左腕も落下した。

「な、なんだ。両腕とも、再生できない」

 神肉が困惑の声をあげた。

 その瞬間、落ちた左腕の氷がパアンと割れて、優陽の張り詰めていた表情が少しやわらいだ。

 ……使命から解放されたってやつか。そういえば一回やられて復活した神肉の手も凍っていたから、本当に、物質、物理的というより本質、精神的に作用する能力なのだろう。ともあれ、少しも体を動かせない様子だった優陽が立ち上がった。

「ちょっ、ちょっと待て。なぜうんこでこんなにダメージを食うんだ?」

 と神肉は言った。それはこっちがききたい。

「どういうことかわからないが、やるときゃとことんやる男だぜ、俺は!」

 カルマは俄然元気になって、目にも止まらぬ早さで連続攻撃を放った。その華麗な動作は、とてもうんこを投げているものとは思えなかった。

 ドォォン!

 ドォォン!

 ドバアアアン!!

「ぐううっ!」

 神肉は爆発をくらいながらも後ずさり、その巨大な体で跳ね回って回避をはじめた。

「――お前さえ殺せば!」

 と上空からカルマに向けて、肉を矢に変化させた攻撃を放ったが、それよりも素早くドゴランが飛び込んで、彼の盾となった。矢が刺さり勢いよく倒れ込んだドゴランは、

「俺は大丈夫だ。いけ、うんこ少年」

 と言った。

「カルマを援護するぞ!」

 俺の声を合図に、全員が神肉への攻撃を開始した。

 美良野は胸のエンブレムから光線を発射、光線から逃げ回る敵を優陽が凍結現象で狙い撃ちした。

 俺と草村とガブリエルは、美良野が「これを使え!」と言って腰というか尻から射出したレーザー銃を装備した。それがはっきり言ってガブリエルの銃より高威力だったので、正直申し訳ない気持ちになった。

「ぐあう!」

 一斉攻撃で撃ち落とされ、神肉はべしゃりと落下した。そこに、

「お前ら、時間稼ぎありがとうよ。……封印の誓いを解くぜ」

 カルマがかざしていた手を動かすと、そこにはバスケットボール大の混合うんこが、絶妙な色合いと光沢を放っていた。

 カルマは大きく振りかぶり、力の限り投擲した。

「『ブラウン・ケミストリー』!!!!!」

 ズッボアアアアアアァァァアンンンン!!!!!

 超ド級の爆発が、神肉を吹き飛ばし、舞い上げ、細かな肉片までをも焼いて灰に変えた。「ば……かな……」という断末魔は茶色い爆炎の中に消えた。

 途端に、ガクリと世界が傾いた。

 周囲にあった異様な景色は、急速に螺旋を描き出した。

 様々な色がまざりあったそれは、自然ならば黒くなりそうなところが逆に白一色になり、

 そして俺たちは、とめどない漂白の波にのみこまれた。

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