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うんこ大爆発  作者:
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『うんこが爆発するという現象が、世界中で多発しています。さきほど総理が会見を開き、うんこをする際は気をつけるようにとのコメントを発表しました』

「どう気をつけろっていうんだ」

 部屋のテレビを見ながら俺は言った。

 ソファの隣に、三度目の歯磨きを終え、五度目の液体マウスウォッシュを終えた美良野が座った。

 風呂場から、優陽が出てきた。ここは美良野の部屋だが、ワンルーム一人暮らしのアパートに三人はかなり狭い。

「優陽、まだくせえ」

 美良野が言った。

「うそ」

 優陽は自分の腕を嗅いだ。

「美良野の口がくさいんじゃないの……。長浜が嗅いでみてよ」

 と、俺に腕が差し出された。

 俺はクンクンと嗅いだ。

 優陽と初めて知り合ったのは中学のときで、三年は一緒に遊んだりしているが、ここまで距離的に接近することは一度もなかった。ましてや匂いを嗅ぐだなんて。友人にこんなことをしていいんだろうか。

 若干の興奮を覚えながらクンクンやったが、うんこの臭いしかしなかった。

 優陽はもう一度風呂に入った。

「しかし、これじゃもううんこできねえな」

 と美良野が言った。

 外では数分ごとに爆発音が聞こえていた。救急車のサイレンは鳴り止むことがなかった。

 うんこ爆発は、草村のような奴にだけ発症する特殊な病気だと思いたかったが、この状況ではそう安心もできないだろう。もっと頭がよければ、爆発音の頻度と近隣で誰かがうんこをする想定頻度を比較して、うんこイコール必ず爆発なのかどうかを正確に導き出せるのだろうが、俺には難しかったし、なによりパニックで頭が回らなかった。

 実は、さっきからうんこを我慢しているのだ。

 美良野には言えないし、優陽にはもっと言えない。

 俺のうんこは正常だ……その可能性に賭けて、トイレでしちまうか。

 いや、もし爆弾うんこなら、人んちトイレでそれは冗談じゃ済まされない。

 汗が滝のように出てきた。

 とにかく、とにかくこの場を動かなくては。

 俺はできるだけ自然にゆっくりと立ち上がった。美良野はテレビに集中している。忍者のような足取りで、シャワーの音が聞こえる廊下に出て、そのまま玄関を出た。

 途端に猛ダッシュをする俺。

 たしか近くに、トイレのある公園があったはずだ。なんとか間に合いそうだ。俺は全力で疾駆した。

 …………公園のトイレは無残に吹き飛んでいた。

 あたりにはもうもうと茶色い粉塵が舞っていた。

 ドォォォン! ドォォォン! という爆発音が遠くでも近くでも、色んな方角からも聞こえてくる。

「まるで戦場だ」

 途方に暮れた途端、腹が急激に痛みだした。

 俺はどこか、草むらでもなんでもいいから、とにかく周囲の目隠しになるものを探した。

 だが、ない、……ない。草むらもガードレールもちょっとした塀も、全部吹き飛んでいる。もう誰かが爆発させた後なのだ。

 ちくしょう。

 俺はここまでか。

 長浜恵介、十六歳、うんこを漏らして爆死。

 長浜恵介、十六歳、うんこを漏らして爆死。

 友人を巻き込まなかったことだけが不幸中の幸い……。

 ちくしょう。

 我慢のしすぎで薄れゆく意識の中で、ゆっくりと顔を上げた。

 せめて最期は誇らしく、前を向いて。

 ……そのとき、なにか青いものが目に入った。

 どうにか意識をしっかり持つようにすると、次第に焦点が合っていった。

 それは、青い看板だった。周囲に茶色い粉塵は見えない。まだ破壊されていない、生きている、その店の名は――、

「ローソン!!!」

 俺は百メートル五秒かというほどの超足で駆け出した。

 ピンポン、ピンポン。

 ローソンはいつものあの入店音で俺を迎え入れた。

 ノンストップで奥のトイレに入った。神がかり中のフィギュアスケーター並のすごい動きでドアの開閉と服の脱衣を同時に行い、うんこを放出した。

 ボチャア!!

 五百グラム級の巨大さ。しかも驚くほどの快便だった。尻を拭く必要がないほどに。試しに拭いてみたが、ペーパーはおどろくほどにきれいなままだった。

「つーか、爆発しねえのかッ!?」

 俺は超スピードでズボンを上げながら言った。やはり俺のはセーフうんこなのかとも思ったが、同時に、さっきから頭の中にあったある考えが現実味を帯びてきた。

 うんこ爆発は、時限式という可能性……!

 公園周辺の爆発跡に、人は倒れていなかった。跡形もなく吹き飛んだとも考えられるが、うんこを産み落として逃げ去る猶予があったとも充分考えられる。

 ならば、爆発まで何秒だ?

 尻なんて拭いてる場合じゃなかった。脇目も振らず逃げないとヤベェ!

「うおおおおおおおお!」

 ドアをバタァ! と開けて店内を駆け抜けた。

 幸いにも、外のうんこ爆発の様子を見に行ったのか、店には店員すらいなかった。

 俺の高速接近をセンサーが捉え、自動ドアが開きかける。

 ピンポン、ピンポン、という悠長な音。

 全部開くのを待ってる暇はない。

 全身で体当たりして、ドアを突き破った。

 瞬間、背後で起きたとてつもない爆風に、俺の体は吹き飛ばされた。

 ドォオォォオオオオオン!!!!!

 ローソン、大爆発。

 俺の巨大うんこは、爆発もメガトン級だった。ローソンは跡形もなくなった。空に茶色いきのこ雲が形成されているのを見た俺のショックもでかかった。

『(※有名J−POPの歌詞。著作権配慮のため掲載自粛)』

 携帯が、着うたを奏でだした。

 美良野からだった。

『今どこだ!? すげえ爆発音が聞こえたけど大丈夫かよッ!?』

「大丈夫だ。でも全身うんこまみれだ。俺にもシャワー貸してくれ」

 通話を切った。

 顔を上げて、あたりを見回した。

 壊れた建物や、うんこの付着しまくった建物。

 あちこちに、茶色い爆煙が立ちのぼっていた。

 空は言わずもがな、茶色だった。

 爆発音は、途切れることなく続いていた。

「これから、どうなっちまうんだ、この世界は……」

 俺はつぶやいて、歩きだした。

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