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うんこ大爆発  作者:
18/25

18

 小学生の頃、俺は今のディスクやデータのゲームではなくて、カセット時代のゲームにハマっていた。

 どういう経緯だったかよく覚えていないが、親父の部屋の押し入れから引っ張り出してきたのだ。たしか、高額で売れる話を聞いたんだったか。いや、親父が今のゲームをやたら馬鹿にするのが気に触ったのもあった。

 とにかく売っぱらうつもりが、気づいたらプレイしていた。それも夢中になって。それだけの魅力が、古いゲームにはあったんだろう。

 ただ――、

「恵介、窓を開けて換気ぐらいしなさいよ」

 ガッ、

 ビィィィィィィィ。

 多分、俺の親父の世代なら情景の浮かびやすい場面だろう。ゲーム中、部屋に入ってきた母親がゲーム機に足をぶつけて、起動状態がおかしくなった。いわゆる『バグった』のだ。

「あらごめんね。でも窓ぐらい開けなさいよ」

 と言って母親は窓を開けて出ていった。

「親父よ。まぁ面白さは認めるが……脆いな。俺はスマホゲームに戻るぜ」

 と、十時間かけたプレイの末路に涙しながら俺は言った。

 ――そのときのテレビ画面。

 不気味に反転した色、ひび割れずれ込んだ背景、ありえない桁のタイム表示……。

 俺が、今、現実で見ている世界が、まさにそれだった。

「何だアッ!?」

 草村の真横で空間が割れた。そこから、顎のしゃくれた深海魚が泳ぎながら出てきた。美良野の背後に見える風景は、いきなり砂漠になっている。俺と優陽の間に、星のきらめく宇宙空間が入り込んだ。

 世界の色彩はピカソの仕業かというほどデタラメになり、腕時計の針は高速逆回転していた。

「時間、空間が、おかしい。そして――」

 カルマは言った。

 その頭上で、ローマのカエサルと坂本竜馬が抱き合いキスをした。

「運命さえもッ!」

 ピピピピピピ! 例のガブリエルのピピピ装置が警報を発した。

「高エネルギー体出現……!」

「どこだ!? 竜馬のことじゃないのか?」

 俺は言った。なにせ周囲はいつのまにか、時代場所を無視した偉人だらけになっているのだ。

「ちがう! 長浜、お前の、とな……り……」

 ガブリエルは指さした。

 そこには、小学生くらいの男の子がいた。

 彼は言った。

「爆発が強すぎて、物質より先に時間空間、運命の概念が壊れちゃったんだね」

 そして寂しげな目をして、

「壊れたおもちゃは、捨てなきゃなァ……」

「は……。はぁ……? 何様だよ」

 と俺は言った。状況的に、もうなんとなく想像がつきすぎて笑いしか出てこないんだが。

 彼は横目で俺を見やって言った。

「何様って、神様……ボクはこの世界の創造主さ」

「……へえ、隋分、若いんだな」

 俺が言うと、

「それは君が、神という存在をそうイメージしているからだよ。ボクは、その人それぞれの受け入れやすい形に映る。そこの女の子には、ボクが屈強な男性に見えているし、そこのトカゲには、同族の老いたトカゲに見えている。だから誰も皆、見た瞬間にボクが何者かがわかったはずだ」

 少年は笑った。

「で、これはまぁ、よくある事故さ。気にすることはない。壊れた世界は捨てて……」

 ドゥン!

 彼が左手をかざした先が歪んで、消滅した。そこにいたカエサルと竜馬も消えて、真っ白な背景のようなものだけになった。

「一から作り直すだけだ」

 てのひらを上に向けて不気味に指を動かすと、それに伴うように空白から木が生えて、アダムとイヴらしき二人が現れては抱き合いキスをした。

 全員がそれを驚愕の表情で見ていた。

「ちょ……ちょっと待てよ。神なら元通り直すってことはできないのか。こんな雑なやり方じゃなくて」

 俺は言った。

 しかし神は、

「やだよ、面倒くさいじゃないか」

 いやいや、そんな理由があるか……。

「君たちだって、自分の持ち物は好きに扱うだろ。それと同じだ」

 と彼は笑って、カルマに左手を向けた。

「う……ッ」

 構えるカルマだったが、その周辺、そして彼自身の体が、なにかに吸引されるように歪んでいく。

「カルマ!」

 俺は叫んだ。

「仲間を殺してやると、残ったやつの反応が面白いんだ。こういう残酷な快楽も、神の特権だよね」

 神は意地悪そうな顔で言った。

「ま、これもすぐ飽きるから、次で世界全部消しちゃうけど」

「う……あああああ……!」

 カルマの、声すらも異質になっていく。

 周囲の風景に混ざって、小さくなっていく。

 消滅する――。

 そのとき、ガチリと音がした。

 神の左手は氷漬けになっていた。

 カルマと周辺の歪みは元通りになった。

「お……?」

 目を丸くした神の、その視線の先で優陽が言った。

「……神だって誰だって関係ない。私の前で人を殺すなんて許さない」

 神は面倒くさそうに左手を振ったが氷はとれず、

「これ、ちょっと手間だな。能力者を殺した方が早いか。……ついでだ、ちょっと遊んでやろう」

 と、右手をかざしてそこから黒い波動を放った。

 優陽に当たるかと思われたが、それはガブリエルから広がった紫色の障壁によって分散、周辺の空間をデタラメに破壊した。

 ガブリエルは言った。

「ドゴラン出現時から張っていたバリアだ。さっきの消滅攻撃は防げないが、今みたいな攻撃なら少しは……」

 そして機械を操作すると、バリアが俺たち個々の体にまとわりついた。

 なんだ、この状況。

 うんこが爆発するようになってからずっと頭の中にあった台詞だが、それはここにきてピークに達した。

 神を相手に戦うだって?

 俺たちを作ったやつだぞ。

 俺たちの所有者だぞ。

 俺たちのこの世界を、一次元上から見下ろす存在だぞ。

 普通に考えたら無茶苦茶だ。尻から物を食べて口から排泄する方がまだ自然かもしれない。

 けど……、

「ガブリエル、武器あるか」

 俺がきくと、「これだけだ」と彼は腰から銃状のものを取って俺とカルマに投げ、自身は歪みサーベルを抜いた。

「……やるしかない」

 俺は言った。

 さっきの優陽の発言がすべてだ。俺たちには意志があり、目の前に迫る現実を変えたい。なら、相手が誰だろうと、神だろうと――、

「いくぞォッ!!」

 得体のしれない恐怖感を振り払うように声を上げ、俺は銃のトリガーを引いた。

 ピャッ、と細い光が神の胸を貫いた。

 そして光は太く勢いを増して、神の体を散り散りに吹き飛ばした。

 血も出なかったし、紙に描いた絵に攻撃をしたような手応えのなさだった。……これで終わりなわけがない。

 案の定、神の体の断片は黒く変色し、膨れ上がって合わさり、おぞましく巨大な肉のバケモノになった。

「うっ……!」

 カルマが口もとを押さえた。

「うげえ! ヤバすぎるぜこれは!」

 美良野が叫んだ。

「キモい!」

 と草村が言った。

 今度は多分、全員の見ている像が一致している。これがやつの真の姿ってことなのか。

「俺は無敵だ。銀河一の俺に任せろ」

 とドスの効いた声がして、ドゴランが目にも止まらぬスピードで神に攻撃を仕掛けた。

 が、バシッとふっ飛ばされた。

「カルマ、やるぞ」

「おうよ!」

 俺とカルマが銃を撃った。

 レーザー光は敵の表面をつるりと滑ってあさっての方角へ飛んでいった。

「ぬうん!」

 その間に接近したガブリエルが歪みサーベルで斬りかかった。

 ガキャ!

「む……、刃が通らない。空間自体を切る刀だというのに……。考えられるのは、こいつ自身も空間と別次元の『歪み』という可能性……!」

 とかなんとか言ってる間にガブリエルもふっ飛ばされた。

「うおォォォォォ!! やってやるぜええええーーーーッ!!!」

 と声がした。

 振り返ると、美良野がえらいことになっていた。

 ガシャ! ガシャア! バアアアアン! ギョワアン!! ヴゥゥゥゥンンン…………!!!

 美良野ロボがバラバラに分解して、中から人間の美良野が出現、そしてまたパーツが合体しロボが完成すると、美良野とロボの目が緑色に発光し、黄金のオーラを放って浮遊しはじめた。

「オオオオオオオ……!! 最後の大技だッ! ギャラクティカ・スーサイド・アタァァァアアアアァック!!!!」

 美良野が手をかざした敵の方へ、ロボがフル加速で特攻――するかと思いきやロボは美良野を手に掴んで投げ飛ばし、敵にぶち当たった美良野は大爆発した。

「ぐううっ……!」

 肉の塊はうめいた。今の攻撃をどう解釈すればいいかわからないが、とにかく効いたらしい。

 さらに続けて優陽が敵に向かった。

 肉の腕が伸びて彼女を捕らえかかったが、地面を蹴って体をひねり、躱しながらの蹴りを見舞った。

 バシイ!

 蹴った箇所が一瞬凍って炸裂し、肉の塊はひるんだ。

 そこへ優陽は連続攻撃を叩き込む。

 しかし肉も負けてはおらず、常人では見切れないようなスピードで腕を振り、短い足を突き出した。

 それらの全てを優陽はスレスレで回避しながら、氷をまとった打撃を打ち込んでいく。

「すげえ」

 俺はつぶやいた。ところどころで忍者でもあり得ないような動きが混ざってる。

 カルマが「そうか」と言った。

「彼女が元々持っていた、類まれなる運動センス……。それが、この諸々の概念が壊れた世界の、ここのみで許される最適な体の使い方を速攻で習得したんだ」

 そういえば俺もなんとなく体が軽い気がする。重力もおかしくなってるからか。だが、カルマの言うとおりだ。常人では、この条件の変化をいきなり味方にはつけられない。

「ハアアッ!」

 優陽は圧倒的優勢で攻撃を続けている。

 だが、ヒットした箇所の凍結は続かず、すぐに砕け散ってしまう。

 おそらく、今も凍っている肉の神の左手……すなわち消滅攻撃の発生源を封じ続けることに力を割いているためだ。

「くそ……」

 俺の隣で草村がつぶやいた。

「優陽のやつ、マジにかっこいいじゃないか……。面白半分で彼女にキモいことしてきたけど、これじゃ僕が滑稽すぎるよ」

 そしてため息をついた。

「戦いたいけど、武器がない。彼女や美良野みたいな力もない。……こうなったら」

 彼はポケットから一枚の紙片を取り出した。

「自作の小説を読むしかない」

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