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うんこ大爆発  作者:
17/25

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「そういえば、ここにも残ってたな」

 移動を終えて、処理場の氷漬けの巨大うんこを前に俺は言った。

 優陽はあのときと変わらない姿で氷の中にいた。

「命を張った彼女には悪いが、確かにこれが爆発しない保証はない。あいつに食べさせておくのが懸命か」

 とカルマはドゴランを見上げた。

 歪みサーベル部隊が、一緒に氷漬けになった優陽とうんこをきれいに分断して、うんこだけを食べやすくカットした。ドゴランはそれをシャリシャリと食べはじめた。

「優陽は、今までどおりここに置いておくのがいいかな。地球の守り神っていうか。こいつがいなければ、こうしてみんなが助かることもなかったわけだし」

 俺が言うと、カルマも美良野も頷いた。

「…………」

 草村はじっと優陽を見ていた。

 こいつは本当に女子からしたらゴミな存在だし、優陽への好意も独りよがりというか、もうネタみたいなもんだと思ってたが、もしかしたら案外本当に……。

 そのとき、ドゴランが言った。

「うまい……。このデザートも、はっきり言って臭いが、病みつきになってきた……」

 全員が一斉にこの哀れな生物から目をそらした。

 ドゴランはシャーベット最後の一切れを飲み込んだ。

「終わった」

 俺は言った。

「これで、地球上からヤバい規模のうんこはなくなったな」

 美良野が言った。

「俺ももう、うんこ混ぜるのを封印しないとな」

 カルマが言うと周囲から笑いが起きた。

 その笑いが止むと、なにか、かすかな音がしていたのがわかった。

 ピシリピシリという、細かい音だ。

 俺たちは振り返った。

 氷がひび割れていた。

 優陽を包んだ氷が。

「僕の考えでは」

 草村が言った。

「優陽は責任感や使命感の塊のような女の子だ。だから、発現した超能力にも、彼女のその本質的部分は反映されている……いや、むしろ彼女の本質が氷へと形を変えたんじゃないか」

 氷の亀裂が無数に増え広がっていく。

「今、うんこは消滅した。使命感から開放されれば、彼女の氷も――」

 バアアン!

 氷が砕け散った。

 優陽は立ったまま硬直していたが、すぐに瞬きをして、その目は俺たちを捉えた。

「あれ……。う……んこは……」

 と言った。

「優陽……」

 俺は泣きそうになった。

「……やっと礼が言えるぜ、優陽」

 とカルマが言った。

 美良野もでかい体を乗り出して、

「優陽ィッ! オレのこと覚えてるか!?」

 忘れたくても無理だろ。

「みんな……」

 優陽は言った。

「みんなが、助けてくれたの……?」

 そうして涙ぐんでいたが、

「ああ。しかし私たちは何もしていない。結局のところ、君を氷から解き放ったのは、そこの草村だ」

 ガブリエルが言うと、奇怪なトカゲ人間の彼を通り越して、優陽の目は草村に向いた。

「草村」

「優陽……。あの日、爆発で死にかけた僕を、君は命がけで助けてくれたんだってね。あんなに嫌っていた僕なのに……。これはその借りを返したわけじゃないけど、とにかくまた会えてよかったよ」

 草村はそう言って、優陽を包んでいた氷を一片しゃぶった。

「この、トカゲの方は?」

 と、スルースキルの高い優陽にきかれたので、俺はとりあえずガブリエルという名だけ伝えて、

「話すと長くなるんだが、問題が宇宙規模にまで広がってな。でも、もう解決した」

 俺はドゴランを見上げた。

「巨大うんこはなくなった。これから普通通り、とはいかないけど、排便の事情が変わるだけで、明日も明後日も明々後日も、俺たちは平和に暮らしていける」

 長いようで短い戦いだった。

 壊れた街、下水処理のシステム……失ったものは多いけれど、得たものもある気がする。

 危機を乗り越えたことで、俺たちは一人ひとりが強くなれた。

 人と人とのつながりができたかもしれない。

 不透明な未来への希望が、生まれた。

 俺たちは……、

「行こうぜ」

 美良野が言った。

 カルマが、

 ガブリエルが、

 優陽が、草村が、

 振り返って俺に微笑んでいた。

「そうだ」

 とつぶやいた。

「俺たちは、これから、どんな苦難にだって」

 ブリブリブリブリ!!! ボヂャアアアアアアンンン!!!!!!

 とんでもない音がした。

 さっきから大人しいと思っていたドゴランの尻先に、それはうまれた。

 特大、宇宙生物級の、赤黒いうんこだ。

 ガブリエルが呆然としながらも、測定機を当てた。

「エネルギー、膨大すぎて計測不能……。食べたうんこが全て凝縮されたか……」

 うそだろ。

 ガブリエルは続けた。

「にもかかわらず、爆発まであと十五秒……」

「したてだから、三十秒ルール適用かよ」

 カルマがもはや無表情で言った。

 うんこは激しく膨張をはじめた。

「え、どうなるんだ」

 草村は事態についていけてない。

「夢じゃねえのかよ! リアルなのかッ!」

 美良野がパニクって叫んだ。

「……」

 優陽は唖然としていた。そりゃそうだ、生き返った途端にこれでは。

「あ、だめだ」

 俺の口からは、言葉が漏れるだけだった。

「なにもできない」

 爆発する。

 宇宙を飲み込む爆発――。

 光と、衝撃が、俺たちを包んだ。

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