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うんこ大爆発  作者:
11/25

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 ジュワああああ!! とうんこの焼ける音が響き、こうばしい臭いが噴出した。

「つーか光線ぶつけてどうすんだ……。かえって爆発が早まるんじゃねえのか……!」

 俺が言うと、カルマが、

「いや、焼却して灰にできるのなら、それこそが本来のうんこの処理法だ! 確かに誘爆の恐れはあるが、この際――」

「ちがうぜッ!」

 美良野の四重に重なった声がした。

「オレの破壊光線は、ただの光線じゃねえ!」

 うんこ焼き肉の煙が晴れた。

 そこに見えたのは、四体の美良野を起点に、釣り竿のようにしなる、四本の光線……その先端は、うんこに焼け付いて結合している。

「うおおおおおおお…………!!」

 四体の美良野が、光線を振り上げる。うんこは持ち上がらないが、光線の折れ曲がった部分が濃く変色し、明らかにバネのような力が溜まっているのがわかる。

 光線というものは絶対にこんな性質じゃないんだが、……それこそが美良野の力だ。

 常識なんて屁だ。

 法則なんて便所の落書きだ。

「お前こそが……真理だッ! うんこ吹っ飛ばせ美良野ォォオオオオオ!!」

「ふおおおおおおおおおおおおおオオオオオ!!!!」

 俺の叫びに呼応するように美良野は声を上げ、四体が同時に大物フィッシュを釣り上げる姿勢に入った。

 ズ、ズズズ……と煙を上げながら、沈殿池のヌシが浮き上がった。

 美良野が最後の叫びをあげる。

「フォアアアアアアアアアアアアアアアアーーーーーーー!!!!!!」

 ポキッ。

 急角度でしなっていた光線が、四本同時に折れた。

 ズウン……!!!!

 持ち上がりかけていたうんこが沈殿池に落下し、

 ブイイイイイ……! ヒュゥウウウウウウン……。バチバチッ、バチバチバチバチ! グシャア! ガシャア!

 四体の美良野が火花を噴き出し、電力ロストっぽく真っ暗になって、次々に壊れていった。

「ぐはあ……」

 一体だけ、ボロボロながらもなんとか形は保っている美良野から声がした。

「駄目だった、すまん……」

 そんな彼に、ねぎらいと、励ましの言葉をかけてやる余裕はなかった。

 うんこが、膨張していた。

 沈殿池を溢れるんじゃないかというほどに。

「ば、爆発する……!」

 カルマが戦慄して言った。

「考えろ……考えろ……」

 俺は早口でつぶやいた。

 ……だめだ。頭が回らない。

 眼前に迫る驚異のせいで。

 死が、こわすぎて。

 結局こわいんだ。どんなにかっこつけたって、自分が可愛くて、大事で、ずっと生きていたい。死にたくない。死にたくないんだ!

 俺は情けない声で叫んだ。

「ち、ちくしょおぉぉ……!!」

 そのとき、何者かがフェンスを跳び越えた。

 まっすぐな視線、何かを思いつめたような表情……、他の誰かと見紛うわけもない。

「優陽!」

 俺の声なんて聞こえないかのように、彼女は落下の勢いそのままに、膨れ上がるうんこへと拳を打ち込んだ。

 ドッ――、

 ピシィ! ビキバキバキガチガチガチィイイイイ!!

 殴った点を中心に、凍結が広がった。

 だが、さらに膨張を続けるうんこは氷をひび割れさせて、ところどころで破裂粉砕させていく。

 優陽はさらに拳を打ち付ける。

 ガッ――、

 ピキィィィィ………………。

 氷が完全に沈殿池を覆った。

 が、またもうんこは膨張、ついに地面の高さを超え、優陽を乗せたまま十メートル近い高さまで持ち上がった。

「うう……ああアアアアアアアアアーーーーッ!!」

 優陽はさらに打撃を繰り返した。

 凍結はそのたびに広がって、分厚くなっていく。

 だが、優陽の動きも徐々に鈍くなり、遠目に見ても顔が青白くなっているのがわかった。

「あいつ、やばいぞ……!」

 カルマが言った。

「よせ……優陽……」

 こんな小声じゃ届かない。届いたところで意味をなさない。わかっていても俺にはそれしかできない。

「ハアアッ!!」

 優陽は大きく拳を振り上げ、

「ああア!!!」

 打ち付けた。

 しかし今度は次の攻撃に入らず、そのまま左手も添えて、激しい唸り声をあげはじめた。

 割れかかっていた氷が、骨折の自己修復のように厚みを増して、さらに周囲の空間にまで浮き出た氷の結晶と結合していく。

「……完全に、うんこを抑え込む気だ」

 カルマが言った。

 俺は、寒さのせいだけとは思えない震えに歯を鳴らしながら、

「でも、どこにそんな力が……」

 そのとき、気づいた。

 優陽の髪が、凍りはじめている。

 それはすぐに耳のあたりまで下りて、肩、胸、腹部へと広がっていった。

「命を燃やして……いや、凍らせているんだ……」

 カルマは言った。

 そして、優陽は叫んだ。

 鋭い凍結の音とその声が共鳴し、増幅して、あたりを一瞬無音にした。

 気づけば、終わっていた。

 巨大うんこは活動を止めていた。

 それを閉じ込めた氷の中に、優陽もいた。

 戦いを終えた、どこか穏やかな顔で、彼女の時も止まっていた。

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