1
ドォォォォン!!
それは突然に聞こえてきた。
コンビニ前でたむろしていた俺たちは一斉に振り向いた。
コンビニの一部が吹き飛んでいた。
「トイレのあったところじゃないか……?」
俺は言った。
「草村が入ってなかった……?」
優陽という女子が言った。
「つーか、くせえ!」
美良野という過激なヘアーの男子が言った。
トイレのあったところからは、茶色い粉塵がもうもうと吹き出ていた。
その中から、ふらりと人影が現れた。
一見してわからなかったが、それは草村だった。全身が茶色い物質にまみれていた。
草村は白目をむいて、口からは茶色い煙が漏れ出ていたが、その口をぱくぱくさせて言った。
「うんこが、爆発した……」
ばたりと草村は倒れた。
おそらく、倒れたことより、彼が口にしたその事実に対してだろう、優陽が悲鳴をあげかかったが、彼女は強い女の子なので、どうにか耐えた。俺と美良野は耐えられず悲鳴を上げた。
「うんこが、爆発……? な、なにがどうなってそんなことに……?」
俺はパニクった。
「ヤベえよ。なんだかよくわかんねえけど、感覚的にヤベえよ、これ絶対」
美良野は恐怖してガタガタ震えていた。
「とにかく、ここから離れよう。臭いがうつる」
俺は言った。
「ああ、あと五秒でもいたら正常な嗅覚が損なわれちまう」
美良野も同意して後ずさった。
しかし優陽は動かなかった。
彼女は、倒れた草村を見て、なにやら歯を食いしばっていた。
「ここでいかなきゃ……、私は人として大事なものを失う……!」
自らに湧き上がる恐怖や嫌悪感と必死で戦っているのだろうか。優陽は「うあああああっ!」と雄叫びをあげて、まっすぐ前を見据えた。
「待ってて草村! 今助ける!」
彼女は、ダッと駆け出した。
そして茶色い粉塵の中に突っ込んだ。
「優陽っ!」
俺は叫んだ。
「ああっ! どうしてオレたちは女より先に逃げちまったんだァーーーッ!」
五十メートル離れたところから美良野が絶叫した。
優陽は草村を抱え起こそうとしたが女子の力ではうまくいかないらしく、腕を引っ張ることでどうにか草村を茶色い粉塵の外へと連れ出した。
「草村、草村!」
糞まみれで優陽が叫んだ。はっと何かに気づいたように目を見開いて、草村の口に手を当てた。
「草村、息してない……」
「おい! 誰か救急車呼んだか!」
俺は叫んだ。
「今電話しています!」
店から避難していたコンビニ客が言った。
「草村、死んじゃだめ!」
優陽が必死に心臓マッサージをしたが、反応はない。
「そんな力じゃだめだ。代わりなさい!」
コンビニの店長が出てきて、心臓マッサージをドスドスとやった。
さすが大人だ。高校生の俺たちなんかよりずっと頼りになる。
うんこまみれの優陽も感動していた。
しかし、人工呼吸をする段になって状況は一変した。
「オエッ!!!!!」
店長は大きくのけぞりながら大量のリバースをした。
草村の口からは、依然、茶色い煙が出ていた。うんこ煙以外のなにものでもないだろう。それを吸えば、オエッとなるのも無理はなかった。
「フウッ、フウッ、フウーッ」
とてつもない使命感をおびた表情で、優陽が呼吸を整えていた。
優陽は、バッッ! と草村の隣にかがみ込むと、彼の顔を手で固定して自分の顔を近づけた。
「優陽!」
俺は叫んだ。
キモすぎる男子である草村を、優陽は常日頃からキモがっていた。それは別に好きの裏返しとかでもなくて、本当の本気でキモがっていた。触れるのも嫌という感じで、共通の友人である俺や美良野の顔を立てて仕方なく一緒にいるような関係だった。
その草村を、彼女は命がけで助けただけでなく、今、明らかなキスの行為をしようとしている。
「やめろォーーーーーッ!!!!!」
美良野が飛んできて、優陽を突き飛ばすと、そのままの勢いで草村に人工呼吸をほどこした。
一見すると、優陽が好きなあまりとった行動に見えるが、実際美良野が好きなのは俺という噂だ。つまり彼は、こういうわけのわからないことを発作的にする奴ということだ。
なにはともあれ、草村は息を吹き返した。ちょうど到着した救急車に、彼は搬送されていった。
俺たち三人の誰も、優陽ですらも一緒に病院についていかなかったことが、彼の人望をよく表していた。
だが、去り際に、かろうじて意識を回復した彼は、かすれた声でこう言った。
「……き、気を、つけろ……」
何にかは言わなかった。
言わなかったが、言う必要もなかっただろう。
それは、うんこ以外にないのだから。
ドォォォォン!
ドォォォォン!
遠くの方で、先ほどと同じような爆発音が二つ続いた。
俺たちは、何も言わず、ただ顔を見合わせた。