Re:皐月の夜に
倭国七誌神宮の端に在る巫女寮の自室に、私は今こうして座している。
昨晩から引き続き、ぽつ、ぽつ、と雨が部屋の外の庇を鳴らしており、若干、音と音の間隔が長引いた感があるが、それでも、巫女服が帯びた湿気は消えそうもない。
いつものことだが、雨の音は聴くものではない。感じるものだ。
頬を伝う水の筋。
耳の奥を心地よく刺激する蛙たちの声。
傘を穿つように震わせる雫。
うるさい、と思ったことはない。
ただ、歌などでよく言われるように、何かを --- 特にヒトの罪を --- 洗う、という印象は私個人は持っていない。
水は洗礼の時に使うように、流れて、罪・穢れを祓うものなのだが、なぜそのように感じなくなったのだろう。手にした湯呑を二、三度ゆるやかに揺らしていると、立っていた茶葉がほの暗い水底へと沈んでいった。
雨。
数日前の不思議な夢のことが、じわりと思いだされる。
夕闇を霧が覆い、雨の降りしきる中の廃村での出来事を。