初戦闘
館の外へと出る。
昨日は気にしていなかったけど、ここはどうやら木に囲まれている。つまり、森の中という訳だ。
「また出たのか...」
魔王がうんざりとした様に呟く。
魔王が見ている方に顔を向けると、そこには巨大なドラゴンが...見覚えあるなぁ...
確か『レジェンド』に10個あるエリアの内、7個目のエリアでユニークボスとして出てきたドラゴンがあんな感じだった。
確か名前は...
「クリスタルドラゴン・バーサークか。」
あ、そうそう。それ。
確か常に(状態異常・狂化)になってるんだっけ。
動きが直線的になるから、倒すのはそんなに難しくない筈。
「主よ、倒しても?」
影の人がそう聞く。魔王は何やら考えている。
そして、こっちを向いた。
ま、まさか...
「なぁ、君ならあれを簡単に倒せるだろう?なんせ、伝説の英雄なんだから。」
「え、えーっと...」
「倒してくれたら館に泊まった分の恩はチャラにしていいよ。
それと、素材も好きにしていい。」
1時期ずっと乱獲してたので素材は有り余ってるからいりません。
とは言えない...
はぁ、まぁいろいろ試してみたかったしいいかな。
「わかりました、倒せばいいんですよね?」
そう言ってアイテムボックスから私の愛刀を...
無い。
あれ?いくらリストをみても出てこない。
な、なんで!?
「どうした?」
「私の...私の刀が無い...」
「あぁ、そういえばアルツ王国の何処かに英雄の武器が封印されているという話を聞いたことがあるな。未だに誰も封印を解けてないだとか。
もしかして、封印されてるんじゃないか?」
なん...だと...
くそー、いつも使ってた刀が使えないのはちょっと悲しいな。
仕方ないからずっと倉庫番になってた予備の刀で戦うとしますか。
私は、アイテムボックスから刀を取り出す。
『レジェンド』内のエリア9まではそれなりの期間使っていた刀。
"霊銀刀 白黄金"
エリア7のボスでレアドロップした素材を使い、ガンドに打ってもらった刀だ。
手に持ってみると、さすがに割と長い間使っていた事もあってすぐ馴染む。
よし、多分行ける。
「じゃあ、行ってきます。」
アイテムボックスから、手頃な鎧を出してダイレクトで装着してから、私はクリスタルドラゴン・バーサークへと走っていった。
ーーーー
クリスタルドラゴン・バーサークはユニークボス。
低確率でエリアに突然ポップするボスクラスの敵モブだ。
HPバーが4本あり、しかも1本1本が長かったので乱獲するのがめんどくさかったのを覚えている。
倒すのは難しくない。ただし面倒。
なんて害悪な...
しかも、あれだけ乱獲したのに素材はほとんど使わなかったし。
「よっと。」
そんなことを考えていると、クリスタルドラゴン・バーサークがブレスを放ってくるので、『ステップ』を使い、避ける。
戦闘モードになった私は考えながら行動ができる。
所謂、並列思考的な?
いや、私の場合は体が勝手に動いてる感じだからなんか違う気がする...うーん。
まぁ、それはいいとして。
このクリスタルドラゴンのHPを削るには、まず手と足にある色の違う水晶を破壊する必要がある。
正確には、それを破壊すると極端に防御力が落ちる。
今の私のステータスならゴリ押しで削れないことも無い。
だけどやらない。リスクを負ってまでそんなことをする必要は無い。
だから焦らずに行く。
空間魔法起動...問題なし、座標固定完了。
クリスタルドラゴン・バーサークが右手を振り下ろしてくる。
「ふっ!やぁっ!」
後ろに交わしてから、刀を連続で突き出す。
刀は切ることに重きを置いて作られているが、突くことにも秀でている。
その為、刀での刺突攻撃というのは存外馬鹿にならない威力になる。
私は、ここで一つ細工をした。
敵の右手、左手、右足、左足全てに同時に攻撃が当たるように空間をねじ曲げる。空間魔法による、並行同時攻撃
これが私のよく使う戦法。
この技を真似できるプレイヤーは『レジェンド』内にはいない。
それは、ゲームシステム内での空間魔法が、かなり使いにくいからだろう。
使用感の変わらないこの世界なら、いつも通りの戦い方で行ける。
「ガァアァァオオオオ!!」
クリスタルドラゴン・バーサークが苦しみ出す。
これで、防御力が下がったから後は体力を単調に削るだけ。
うん、何も問題は無いね。
ーーーー
「...あれが、彼女の戦い方か。」
私は、それを見て呆然としていた。
彼女は、己の剣戟を空間魔法の並列起動によって無理矢理多段化させ、敵へと打ち込んだ。
さらに、剣技も明らかに達人レベル。
一体、どれだけの戦闘経験を積んだらあんなになるのだろうか...
空間魔法は、その特異性故に扱いが極度に難しい。
まずは座標の指定をできるようになることから始めるという。
これに関しては才能がないと全く出来ないらしく、私も断念した。
長年空間魔法を鍛えた人物も、辛うじて短距離間の転移が可能になる程度だった。(神の残したと言われる勇者召喚の魔法陣等はあるが...)
しかし、彼女は、それをごく小さい規模で多重展開している。さらに、扱いが難しいその魔法をさらに収縮化。
もはや、天才とかいうレベルではないな...
そんなことを考えていると、彼女は既にクリスタルドラゴン・バーサークをかなり追い込んでいた。
同時展開の空間魔法+連続で放たれる超絶剣技。
更には神聖魔法と暗黒魔法も同時展開して、クリスタルドラゴン・バーサークを追い詰める。
ふと、彼女の頭に付いている角に気付く。
先程は気づかなかったが、昨日と角が変わっている。
さらに、全く違和感がない。完全に彼女の一部と化している。
だが...なんだ、このなんともいえない感覚は...?
彼女と角をセットで見ると違和感はないのだが、角だけ見ると...
うぅむ...
「彼女、魔王様と同じ角になっておりますな。」
「それだ!」
セバスに言われて、気付く。
そうか!自分と同じ形か!
道理で変な感覚がするわけだ。
「ーー!」
彼女が何かを言うと同時に彼女の周りに黒い霧が発生する。
なんだ?あんな魔法やスキルは見たことが無いぞ。
黒い霧が、クリスタルドラゴン・バーサークに纏わり付いていく。
その直後、極端に動きが遅くなった。
あんなスキルも、使えるのか...
彼女が本気で魔国を滅ぼそうとしたら、私は止められるのだろうか?
契約をしていなかったら、と思うとゾッとする。
そんな事を考えつつも、私は彼女の戦いに見蕩れていた。
魔王が空間魔法使えない設定のつもりが、ステータスに空間魔法があったので削除しました。