神刀の力
お待たせしました。
(待ってくれる人がいたとは言ってない)
剣と刀の衝突による衝撃でリンカの体が吹き飛ぶ。
(これで何度目なんだろう...)
リンカがふらふらと立ち上がる様子を黒い剣をもったもう1人の"リンカ"は無表情で眺めている。
(殺しには来ない...でも、こっちの攻撃は通用しない。)
既にリンカの心はボロボロだった。
吹き飛ばされ、自分の傷を自分で癒し、また吹き飛ばされる。
自暴自棄になり、回復をせずに突進をしても"リンカ"によって回復され、また吹き飛ばされる。
MPを貯めようにも、黒い剣で吹き飛ばされる度に、魔力が体から抜け落ちていく。
リンカには立ち向かう以外の選択肢が無かった。
(何かが足りない...けどその何かが分からない...)
《ふっ!》
「がっ!?」
またもや吹き飛ばされ、地面に倒れ伏す。
立ち上がろうにも体に力が入らない。
(あぁ...もう、体が動かない。)
リンカは心の底で諦めてしまった。
それを見た"リンカ"が、悲しげな表情を浮かべながら近寄る。
《ここまで頑張ったけど駄目、か。分かったよ、あとは私が引き受けよう。》
その言葉を最後に、リンカの意識は途切れた。
ーーーー
声が聞こえる。
聞いたことがあるような、ないような。
その声を聞いて意識が戻ってくる。
「おーい!おーーーい!」
「ん...あれ?私は死んだはずじゃ...」
「何言ってんだよー!このままだと本当に死んじゃうよー!」
「誰?何処にいるの?」
その声が何処からともなく響いてくるも、どこから聞こえてくるのか分からずあたりを見回す。
白い空間だ。ひたすらに広く果てが見えない。
ここはもしかしたら天国なんじゃないかと思えるようなそんな場所だ。
「ここだよここー!お前の腰に刺さってるだろー!」
「...ん?」
私が腰に指していたそれはこの白い空間でも分かるほどに発光していた。でも、それでいて目に痛くない、そんな光だ。
「そう!ボクこそ、この刀に宿りし刀精にしてこの刀そのもの!」
「刀精...?」
「精霊の1種だよ。ほら、この遺跡にも居たはずでしょ?ボクの力の余波から産まれたちっちゃな子達が。」
「あぁ、あれね...それで?」
「それで?っじゃないでしょ!悔しくないの!?あんな偽物に負けて!」
「偽物って言われてもさ、私が本物なの?ゲームの中じゃ強かったよ?そりゃ最前線で戦ってたトップギルドのメンバーなんだし。
でも、あんな...あんな強くて同じ見た目の人がいたら...自分の方が偽物だったんじゃないかって...思うじゃん...」
最後の方は掠れた声で消えかけていた。
それ程までに私は絶望していた。
圧倒的な力の差に、それはまるで私が初めてゲームの中で死んだあの時のようで...
「馬っ鹿かお前はぁあ!」
「ひぇっ!?」
「ボクの力の1/10も引き出してない、それに自分自身の力も引き出してない状態であんな偽物の本気に負けたから自分の方が偽物だって!?
お前は本当に知らないのか!?ボクの力、その使い方を!」
この刀の使い方...そうだ、なんで忘れてたんだろう。
自分でも言ってたじゃないか。
私が持っていた最強の刀、その名前すら忘れていた。
「思い出したならもう負けないでしょ!ほら、さっさと目を覚ましなよ!」
「うん、ごめん。」
「違うでしょ、こういう時は...!」
「ありがとう。」
「そっ、まだお礼を言うには早いかもだけど、ね。」
私は確たる自信を持って体に力を込めた。
ーーーー
黒い剣をもった"リンカ"が地面に倒れているリンカに向けて手をかざしている。
リンカからは青白い光のようなものが"リンカ"のかざしている手へと流れ込んでいる。
それはまるで魂を吸い取っているかの様だ。
《やっぱり、力を引き出せてなかったか...》
"リンカ"がこぼしたその言葉はその部屋の中で反射し、自分に帰ってくる。
その言葉を返すようにリンカが立ち上がった。
《ッ!?》
「そう、さっきまでの私は全然私じゃなかった。
偽物だと自分でも思っちゃうくらいに、ね。」
《なぜ今更...!?》
「なんで私が忘れてたかは分かんないけどさ、もう迷わないよ。だから...」
リンカはそれを腰から抜き構える。
「行くよ!『神刀︰伊邪那岐』!」
そう口にした瞬間、刀から凄まじい程の力が溢れる。
ただひたすらに重いその力が"リンカ"を襲う。
《いいね...その力、もっと見せてみなよ!》
「言われるまでもないよ!」
武技を使用しないただの袈裟斬りを真正面から受け止める。
ギィィィィン!
《!》
「力が溢れてくる...!まだまだ、こんなもんじゃないよ!」
先程までの劣勢が嘘のようにひっくり返る。
連続で神速の剣技を放つリンカに対して"リンカ"は防戦一方となっていた。
「はあっ!」
《ぐぅぅぅ!?》
斬撃が"リンカ"の体に直撃し、大きく後ずさる。
その一瞬の隙にリンカが呪文を唱える。
「呼び覚ませ、『八尺瓊勾玉』!」
リンカが唱えたその言葉により現れた赤い勾玉がリンカの周りをくるくると回る。
そして、光を放ちリンカはさらに言葉を紡ぐ。
「顕現せよ、『天叢雲剣』!」
光が収まったそこには1振りの剣。その刀身は青白く輝いている。
それを手に取り、二刀の構えをとったリンカに、立ち上がった"リンカ"が攻撃を仕掛ける。
《『螺旋闇炎剣』!》
その武技を冷静に『伊邪那岐』で受け流すと、『天叢雲剣』を"リンカ"に突き立てる。
《ぐッ!》
「あるべき姿を映せ、『八咫鏡』!」
3度目の詠唱により、顕現する三つ目の神器。
現れた鏡の光に照らされ、"リンカ"がボロボロと崩れ落ちる。
あれだけダメージを受け付けなかった"リンカ"の体がいとも簡単に崩れていった。
《がぁ...ぁぁぁぁぁ...》
"リンカ"の苦しむような声が部屋の中に響く。
それはもはやリンカのそれとは別物だった。
やがて、崩れ落ちた"リンカ"の体から光る物が現れる。
「ゴーレムだったんだ...」
中から現れたのはゴーレムコアだった。
そのゴーレムコアを手に取った瞬間、リンカの頭の中に知識と力が流れ込み、思わず膝をつく。
その知識の中にある情報を頭の中でゆっくりと整理していく。
暫くの間ゴーレムコアを手にしたまま座り込むリンカ。
2時間程座りっぱなしだったリンカがゆっくりと目を開く。
先程までの体の中で暴れるような知識と力は既に大人しくなっていた。
そして得た知識により、力の使い方を理解すると同時に声が聞こえた。
《もう迷わないよね?》
「うん、もう大丈夫。今度こそ私は私を見つけたから。」
その言葉はリンカの心の中へと消えた。
戦闘シーンが難しい...というより最後があっけなさすぎた。
元はこんな苦戦せずにサクッとやってサクッと強くなるだけのイベントの筈だった。
次にサクッと解説っぽいものをしてこの章は終わりです。




