英雄による制裁
市民→国民に変えました。
前話も同様です。
食事が終わり、レガスさんに話を聞く。
ちなみに、煩くされても困るので子供たちはエレンとアンに預けてある。
「それじゃ、まず聞きたいんだけど。」
「はい、何でもどうぞ!」
「そこらで話してた3級市民とか4級市民とかって言うのは、何なのかな?」
「それはですね、800年程前にこの国が出来てから我が国で定められているランク制度です。」
「ふむふむ。」
「上から"特級、1級、2級、3級、4級、5級"とあります。特級は特別な役職の人や王様等ですね。5級は犯罪者等です。それ以外はどれだけ信仰が深いか等を協会が判断し、定めております。」
「例えば?」
「協会へのお布施等ですね。」
「結局お金なんだ...」
なんか私達がお金にがめついみたいで嫌だなぁ。
「あとは街でのボランティア活動や冒険者として魔物を排除したりと、様々な条件があります。」
「そのランクが高いと何があるの?」
「ルドリアル神聖国内での公的な施設で優遇されたりします。また、1級国民は例え平民でも特別待遇...貴族と同じように扱われます。」
「なるほどね...じゃあ、他の国から来た人は?」
「そうですね...特別有名人でもない限りは4級です。ですが、リンカ様は...」
「ああ、それは別に気にしてないからいいよ。でも、そうか...」
あまりこういう制度は良くないよねぇ...
なんか勝手に祭り上げられて金儲けの道具にされるのも不愉快だし。
ガツンと言ってやらなきゃね。ま、1週間ぐらい先になると思うけど。
「それじゃ、私の武器が置かれている街がどこか分かる?」
「はい。えっと...たしか、我が国の最南端にあるフェイローという街だったかと。」
「あれ?王都じゃないんだ?」
「はい。この国は元はただのルドリアル王国だったのです。それが、フェイローの街にリンカ様の武器があるという事でルドリアル神聖国と名乗るようになったらしいです。」
「ふーん。それにしても最南端か...まぁ、また飛べばいいか。」
「飛ぶ...?」
「ん?ああ、ちょっとしたスキルだと思ってくれればいいよ。」
「なるほど、リンカ様は天使だったのですね。」
「何処にそんな要素があった!?...はぁ、まぁいいや。
あとは、ルドリアル神聖国について知っておいた方がいい事ってある?」
「そうですね...リンカ様は既にお会いしたと聞きましたが、現在のルドリアル神聖国国王のビルヘルマ様は1か月程前に今は亡き前王に代わり、国王となったのですが。」
「へぇ、あの...人ね。」
にやにやと気持ち悪い笑みを浮かべて近寄ってきた男の顔を思い出す。
なんか企んでそうな顔をしていたのをよく覚えている。思い出しても気持ち悪い。
「ビルヘルマ様は、シェリード商会という商会の会頭を務めておりました。その為、金の動きに敏感でして...その上、階級を上げるにはお布施―――金が必要という事で、税や要求する金額を大幅に上げました。ですから、現在のルドリアル神聖国は貴族や大商人、稼ぎの多い冒険者を除き、多くの者が貧しい生活を強いられています。」
「酷い...」
何なの?その典型的な悪者。
これは腐ってるのは国だけじゃないな。
王様と貴族だけじゃなく、その命に従ってる教会も同罪だね。
まぁとりあえず、聞いた話だけで判断するのは良くないだろうし、街に出てみようかな。
「よし、それじゃレガスさん。」
「呼び捨てで構いません、リンカ様。」
「レガスさん、街の案内を頼んでもいいかな?」
「否定する理由がございません。なお、呼び捨てで構いません。」
「それじゃよろしく。レガスさん。」
「お任せ下さい、リンカ様。呼び捨てで構いません。」
「レガス・さ・ん!」
「呼び捨てで...」
「私は年上にはちゃんと敬意を払うようにしてるの!」
「...ですが、」
「言い訳無用!ほら、もう行くよ。アルジーネさん、また出てくるね。」
「はい、畏まりました。行ってらっしゃいませ。」
「...あの、リンカ様。」
「転移!」
さっきの路地裏に戻ってくる。
転移で空中に出ると、レガスさんは頭から地面に落ちる。
「へぶっ!?」
「まったく...そこまでして呼び捨てにされたいのかな?」
「...私なんぞに敬称は入りません、リンカ様。」
「はぁ...まぁいいや、オススメの場所をお願い。」
「分かりました!任せて下さい、リンカ様!」
「はぁ...」
なんかこのテンション疲れたよ。
もう諦めよう。
ーーーー
1通りオススメと言われた場所を回ってみた後、大通りに戻ってきた。
路地裏はやめましょう、とレガスさんに必死に頼まれた。スラムからきた人ぐらい簡単に撃退できるんだけどね。
「どうでしたか?」
「うーん、なんというか...みんな顔に生気がない感じだったね。それと、貴族の特別扱いが酷い。」
「正確には1級市民の...ですね。」
「どちらにせよまともな...「邪魔ですわっ!」...?」
レガスさんと話をしながら歩いていると道のど真ん中で子供が倒れている。
その前には、街の入口で兵士にいちゃもんを付けていた貴族のれ、れ...レバースト?だったかな。女の人が馬車から降りて仁王立ちしていている。
「通行の邪魔ですわ。早くどきなさい。」
「あ、あの...」
「なんですの?この1級市民であるレバースト伯爵家の私に逆らう気ですの?」
「い、いえ...そんな...」
っ、あの女の子足怪我してるじゃん。
それなのにあんな事して...
「いい加減にしてくださる?私の時間は貴方と違って価値あるものなの。貴方如きが私の時間を無駄に浪費させるのはどうかと思いますわよ。分かったら早くどこかに行ってくださる?」
「あ、あし...」
「...なんですの?聞こえないですわ。退く気が無いなら排除させてもらいますわよ。」
そう言うと、その女の人は足を上げる。
怪我してる女の子を蹴るつもり...?
ガンッ!
「な、なんですの!?」
「いい加減にして。」
「リンカ様!?」
なんかもうイライラの限界だよ。
今日1日この街を見て回っただけで腐敗っぷりがよーく分かった。
貴族は横暴、街の人の顔色は最悪。お布施が払えない家の子供には平気で暴力。
...仮にも私達を信仰してる宗教としてどうなの?
「貴女はなんですの!?」
「私は通りすがりの...「この方は伝説の六英雄 リンカ様です!」...冒険者...」
「...英雄様の詐称は死罪ですわよ!」
うわー、偽物だと言い張りやがりましたよ。
完全に自分の事を正義だと決めつけてるね。本当に腹立つ国だなー。
「ちょっとまっててね。...レガスさん、この子を連れて後ろに下がってて。」
「畏まりました...くれぐれもお気を付けて。」
「偉大なる英雄リンカ様を詐称するなんて!!」
「じゃあ聞くけど、私がリンカじゃないと断言する理由は?」
「こんなチンチクリンが偉大なる六英雄な訳無いでしょう!」
「誰がチンチクリンだっ!」
「ひぃっ!?」
おっと、つい本気で『威圧』してしまった。
穏便に済ませないとね。
「それじゃあ、私がリンカだっていう証拠を見せたら貴方はどうするの?」
「ふ、ふんっ!もし本当だったら私は1級市民であるこの証明書を破り捨てますわ!」
「へぇ...本物の英雄をチンチクリン呼ばわりしてその程度で済ませるんだ?」
「貴女が本物である訳がありませんもの、おほほほ。足りないのでしたら、我が家を撮り潰してでも構いませんわよ?」
「言ったね?皆さんも聞いてましたよね?」
周りの人に視線を向けると、恐れながらと言った感じで頷く。
ちょっと煽ったらでかい獲物がかかった。
あ、でも1級市民=貴族と同じようなものだからどのみちこの人は詰んでたね。
「それじゃ、ちょっと待っていて下さいねっ。」
そう言って私はアルツ王国の王城、バルマさんの部屋の前に転移する。
コンコン
「誰だ。」
「リンカです。」
「リンカ様でしたか、どうぞお入りください。」
「今手空いてる?」
「なにかございましたか...?」
「ちょっとルドリアル神聖国で絡まれたから保証人として来て欲しいんだけど。」
「なるほど、直ぐに準備を致します。」
そう言うと、バルマさんは準備をする。アルツ王国の王様という証明出来るものを。
私との会話の中で必要なものを的確に理解してくれるのは有難いね。いつもついつい言葉足らずになっちゃうから。
「支度が済みました。いつでも大丈夫です。」
「よし、それじゃお願いしますね。」
転移!
ーーーー
ルドリアル神聖国の最北端の街 フォス
その街の大通りには豪華な装飾が施された馬車が止まっており、その前にはいかにも貴族といった姿の女性が声を荒らげていた。
周りには通行人が立っていたが、全員動きを止めている。警備騎士も同様だ。
「何処に行きましたの!?」
「空間魔法、ですよ。これがあの方がリンカ様であると仰った十分な証拠でしょう。」
「ふんっ!ただ姿を消す魔法ならあるでしょう。」
少し離れた位置に子供を庇うようにして立っている男がそう返すも、反論されている。
暫く2人の問答が続いていく。
そして、遂に女性の方が痺れを切らす。
「やはりあの小娘は偽物だったのですわね!こんな手の込んだ事までして偉大なる英雄様を詐称するなんて!そこの貴方、ただちに指名手配を...」
そこまで言ったところで女性の目の前が白い光を発する。
その光から1人の少女と初老の男性が現れる。
「おっと...ふむ、フォスの街に来るのは久しぶりですな。」
「お待たせ。見てもらったと思うけど、今のは空間魔法。更にいえば長距離間の転移魔法だよ。
これが使える人って言うのは人族にはいないんだってね?...私を除いて。」
「姿を隠していただけではありませんの!?」
「姿を隠していただけっていうなら、この人はどう説明するのかな?」
「そんなどこにでも居るような者、姿を消して近くから引っ張ってくれば済む話ではなくて?」
「へぇ...だってさ、アルツ王国国王のバルマさん?」
「これは酷いですな...過去にこの国に顔を出した時にレバースト伯爵家の顔は覚えていたのですが、あちら側は覚えていないようです。」
「...!?ば、バルマ王...!?」
その三人の会話を耳にした周囲の人は混乱する。
いきなり少女が消えたと思ったら、その少女が初老の男性を連れて突然現れ、その男性は大国であるアルツ王国の国王だという。
困惑する周囲の様子など気にすることもなく、バルマ王は懐から短剣を取り出す。その短剣の鞘にはアルツ王国の王族である証が刻まれている。
「この通り、私はアルツ王国国王のバルマ・レリアルド・アルツだ。
この度は六英雄のリンカ様が偽物だと疑われていると言われ、リンカ様に転移によって連れてきてもらったわけだが...レバースト伯爵家の者よ、説明をしてもらおうか。」
「あ、あの...私は...」
貴族の女性は、言葉が出なくなっている。
だが、バルマ王は言葉を止めない。
「ふむ、説明ができないのであれば他のものに頼むしか無いな。...そこの者、何があったかを説明せよ。」
そう言って、近くにいた男性...レガスを指名する。
「はい、そこのレバースト伯爵家の方が怪我をしていた少女に対して恫喝を行っておりました。更に暴力を振るおうとした所で、リンカ様が間に入り、穏便に済ませようと名乗り出ましたが、相手にせず、英雄様の名前を騙った偽物だと糾弾いたしました。」
「なるほど、そこの少女よ。今そのものが言ったことに間違いはあるか?」
「い、いえ...あ、あ、ありません。」
多少言い回しが盛られていたが、大体合っていたので他の人も頷いている。
「さて、レバースト伯爵家の者よ。」
「は、はい。」
「まだ子供である少女への暴行未遂だけでも我が国では犯罪であるが、この国ではそうではないのか?」
「わ、私は1級市民ですわ。そこの小娘は4級市民の癖に道を...」
「足を怪我していたから動けなかったのであろう?」
「だ、だとしても...」
「それに、リンカ様を偽物呼ばわりだと?」
「っ!」
急にバルマ王の放つ雰囲気が変わる。
いかにも怒っていると言った感じで、周囲の人は膝をついてしまっている。
「我が国の救世主である英雄様への侮辱行為。これは、敵対行為と捕らえてもいいのかね?」
「め、めめ、滅相もございません!」
本当ならば国の方針に反する行為なので国家反逆罪に問われるところだが、バルマ王が論点をずらしたことには誰も気づいていない。
「そういえば、さっき貴女言ってましたよね?私が本物だったら1級市民である証拠を破り捨てて、その上レバースト伯爵家解体するって。」
「そ、それは...」
「周りの人達もみんな聞いてたよ。ね?」
リンカが周りに確認をとると、全員が凄い勢いで首を縦に振る。
「5日後にはビルヘルマ殿もこの街に戻られるだろう。それまでに、今言ったことを実行してもらう。これで宜しいでしょうか、リンカ様。」
そういった後、バルマ王はリンカの前に膝をつく。
それに対してリンカは一瞬驚いた顔をするが、その意味を察して真剣な顔になる。
「ええ、ありがとうバルマ王。」
「いえ、我が国はリンカ様達によって救われましたので。この程度の事は造作もありません。」
「それじゃ、王城まで送りますね。レガスさん、手を。」
「はっ。こちらの子は...?」
「そうね...あなた、名前は?」
「み、ミリスです。」
「そう、いい名前ね。この手に触れてくれる?」
「は、はい!」
「それでは、皆さん。また会いましょう。」
そう言って、リンカ達4人はフォスの街から姿を消した。
その後、リンカが消えた後のフォスの街は喧騒に包まれるが、その状態を引き起こした本人は、直前までの自分の演技にのたうち回っていた。
随分と日が空いてしまいました。
少し日を空せると執筆が滞ってしまって大変ですね。
ようやく普通の更新に戻せそうです。




