魔王様降臨
「さて、では話を聞こうか。」
「は、はい。」
目の前には金髪碧眼のイケメン。
さっきはいきなり後ろに立たれてビックリしたけど、大丈夫。
もう落ち着いた...落ち着いた...落ち着いた!
「えっと、名前はリンカです。」
「うん、それはもう聞いた。」
聞いた?誰に聞いたんだろう、セバスさん?
遠距離通信ができる道具とかあるのかな?
「えっと、気付いたらここにいたので、行く宛が無く現状が把握出来てなかったのでセバスさんに泊まらせていただくことに...」
「それも聞いたね。」
「えっと...」
どうしよう、何話せばいいのかわかんない。
そもそもギルメン以外とはほとんど会話もしないからどうしたらいいか分からない...
「じゃあ、君は気付いたら此処にいた。って言ってたけど、それまでは何処に?」
うーん、これは正直に話すべきか、それとも適当にはぐらかすか......うん、正直に言おう。
「突拍子もない話、それも私の推測なんですけどそれでもいいですか?」
「どうぞ。」
ニコニコと笑いながら目の前のイケメンが答える。
そういえば名前聞いてないな...
「あ、先に言っとくけど、その頭の角ってニセモノだよね?」
「あ、はい。そうです。」
「やっぱりね、変な魔力が出てたからそうだと思ったよ。つまり君は魔族ではないのか...うん、続けて?」
「はい、多分ですけど、私は異世界から来たんだと思います。」
「ふむ、異世界......つまりは、召喚勇者か?」
その瞬間、イケメンの目つきが鋭くなる。
そりゃ魔族からしたら勇者とか目の敵だろうけど、勇者がこんな所に一人でいるわけないでしょうが。
「違います。」
「ふむ、嘘はついてないようだ。
だとしたら君は何だ?」
「何、とは?」
「目的もなく、ただ悪戯に誰かが異世界人を召喚するとは考えにくい。
と、なると必然的に召喚に巻き込まれた、若しくは過去に召喚され、気付いたら此処にいたという可能性が高くなる。まぁ、私は前者だと思っているがね。」
「巻きこまれた...」
「影よ、来い。」
「此処に」
うわお、忍者みたいな姿した人がどこからともなく現れた。
「いますぐ、アルツ王国、加えて近隣国家で勇者に関する情報を探れ。明日の朝までにだ。」
「御意。」
また、何処かへと消えていった。
異世界でリアル忍者を見れるとは...
「さて、話をもどそうか。君はどうしたい?」
どうしたい...か。
さっきまでは、のんびり暮らせれば別にいいかなー程度の気持ちだったけど、この人の話を聞いた限りだと、ガンド達が勇者として召喚されている可能性は高い。
その上でたぶん勇者召喚=魔王と戦争でしょ?
私がこっちに来ちゃってると、戦争とか起きたらいろいろややこしい事になるだろう。
そうなると、先に話を付けておきたい。
「考えるのは終わったか?」
「あっ、すいません。」
また考えこんでしまっていたみたいだ。
「私は、勇者として召喚された人達と知り合いの可能性が高い...です。
だから、その人達を見つけて話をしたいと思っています。」
「それで?」
「...それで?」
「話をした後が問題なんだ、こちらとしてはな。
勇者は恐らく、この魔国に攻め入って来るだろう。
君が勇者側に付くと言うなら力ずくでも止めねばならない。
なんせ勇者として呼ばれる様な奴らの知り合い...いや、仲間なのだろう?」
「あの...はい。」
「君が勇者達を止めてくれる、若しくはこちらの味方として戦ってくれるのならば契約を設けた上で君を人族側へと送り出してもいい。」
そりゃそうか...敵になるような奴をわざわざ送り出せるわけがないもんね。
けど、そんな簡単に契約がどうとかしていいのかな?
「あの...」
「どうした?」
「どうしてそこまでしてくれるんですか?契約の話もそうですし、こんなに怪しい身の上の私を家に泊めてくれたり...」
「ふむ...そうだな...」
イケメンさんはしばらく考え込む。
聞いちゃまずい事だったかな?
「そういえば、まだ名乗っていなかったな。
私の名前はディスペル・ガル・アルスター。魔国の王だ。」
「......え?」
魔国の王......魔王?
魔王...魔王かー。
「ええぇぇぇ!!!?」
「落ち着け、別に世界を滅ぼそうだとかは思っていない。」
「じゃ、じゃあ世界征服とか...」
「そんな事に興味はない。」
「...本当に魔王なんですか?」
「本当だ。」
あ、鑑定してみたら分かるはず...
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ディスペル・ガル・アルスター Lv.150
ステータス略
ユニークスキル:『王眼』、『魔王』
スキル:
闇魔法Lv.10[━暗黒魔法Lv.10]
武闘術Lv.10[━気闘法Lv.10][━闘神法Lv.4]
念話Lv.10
...以下略
ーーーー
...魔王じゃん。
ユニークスキル『魔王』って...
「落ち着いたか?」
「あ、はい。」
「君はものすごく驚いたりする割には落ち着くのは早いんだな。」
魔王が呆れたようにいう。
「順応性が高いと、よく言われます。」
「そうか...」
よく言われた、が正しいか。
ここ数年は現実でまともに人と話してないし。
ゲームの中でもギルメンとしか話してない気がするけど。
「んっんっ、それでだな。できれば私としても戦争はしたくない。
そこで、君には魔国と人族の橋渡し役になってもらいたい。」
「なるほど。」
「もちろん、できる限りでバックアップ等はするし、魔国での生活も保証しよう。どうだ?やってはくれないだろうか。」
「んー......」
正直なところ面倒くさいというのが本音ではある。ただ、恩を借りっぱなしで返さないという選択肢はない。
別の方法で恩が返せたらいいんだけど...
でもなー、生活の保証をしてもらえるって言うのは結構いいなー。
あ、でもこの魔王が本当に人間を襲わないとは限らないし...うーん...
「考える時間が必要だろう。明日の朝、返答を聞こう。
...すっかり冷めてしまったな。セバス、温め直してもらえるか?」
「あっ...」
話に夢中で料理のことを完全に忘れていた。
申し訳ない、セバスさん。
「かしこまりました。」
ぺこりとお辞儀をして、料理を下げるセバスさん。
「すいません、話が長くなってしまって。」
「いや、構わない。これは大事な事だと私がそう判断したからな。
...あぁ、そうだ。ひとつ聞いても良いか?」
「なんですか?」
「君の使う武器は刀と言われる剣ではないか?」
「そうですけど...?」
「やはりか...」
「?」
魔王の問いの意味が分かるのは少し先になるのだった。
ーーーー
「伝説の六英雄、幻想の魔剣士"リンカ"...か。
よもや、あんな少女が伝説の英雄とはな。」