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不思議なもので自分の中に存在し始めた、モヤモヤとする感情が何なのかその名前が分かったとたんに、私の心の霧は晴れて軽くなった。
次の日は休日だったので、髪飾りを買うために街に出た。
前に売りものの髪飾りを見かけたとき、無意識にマリアンヌに似合う物を探していた、その時から … いや、それ以前 …。
きっと招かれた食事会で再会したあの日に、私はマリアンヌに「恋心」を抱いたんだ。
私の祭りに関する仕事は会場の設営なので祭りの日は表立ってすることはなく、滞りなく行われるように影ながら見守ることだ。
広場にいればいいので比較的自由に振る舞える、役得だ。
何件か髪飾りの店を見て回りマリアンヌにピッタリの物を見つけ、待ち合わせ場所を記したカードを添え、それを持ってフィルダナ家へ…マリアンヌの元へ向かった。
実は初めて特定の「女性」のことを想って用意した贈り物だ。
気に入ってもらえるだろうか?
私の気持に答えてもらえるのだろうか?
こういう感情が湧いてくるのも初めてで、落ち着かないが悪いものではない。
フィルダナ家に着き、馴染みの執事がマリアンヌに取次ぎをしてくれているのを玄関で待っていた。
「あら、アーノルドさま!」
星まつりが近いためか、タチアナがフィルダナ家に滞在していた。
簡単に決まり切った挨拶をすると、タチアナは笑顔であったが目は笑っていない表情で
「アーノルドさま、ご自分の立場をもっと賢く使うべきではなくて?一時の感情に流されると今後の人生をずっと後悔されましてよ。」
と言ってきたので、心が定まった私は自信を持って
「タチアナ殿。私はこの様な身の上であるからこそ、それを十分に活用して後悔せずに生きていく選択をしようと思っているのですよ。」
ときっぱりと答えた。
今の答えでタチアナは「もっと賢い人だと思ったわ。」と言って立ち去り、ちょうどその会話を聞いてしまったマリアンヌの顔色はよくなかった。
「アーノルド…私。 私、嬉しいけれど、私ではあなたの人生をダメにしてしまうわ。」
瞳に涙をためてマリアンヌは言う。
「いいかいマリー。僕は領地を継げない土地も財産もないつまらない男だよ。でもその代わりに、自分の人生を自由に選択できる権利だけは持っている。何も持っていないからこそ、次の世代に引き継いだり残したりする必要もないんだ。この意味が分かるかい?自分の思うように生きられる…ずっと2人で、2人だけでいることが許されるってことだよ…、分かる?」
私がそう言っても大きな瞳に涙をためて「でも…、でも…」と私の想いは届かないのか、彼女は気持ちに答えてくれない。
「これを君に。『星まつり』の日に君が来るのを待っている。君が僕の人生を『ダメにする』と思ってする選択の方が、余ほど僕の人生をダメにしてしまうということをよく考えて。」
そう言って、マリアンヌに箱を渡し「待っているから」と告げてフィルダナ家を後にした。