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紺碧の月桂樹と鳥  作者: 音塚 和音
本編
5/12

5

この国の初夏の祈りの「星まつり」が近くなったある日、祭りは国家行事であるため、役人である私も準備と確認のためにその日は会場になる広場の下見に来ていた。


昨日この年の祈りをささげる方角が占術師により告げられたので、広場の地形に合わせて祈りの舞台の大きさや位置、出店を許可する場所、出店するにあたっての手続きの取り方や注意事項の立て看板を立てるなどするために、会場となる広場へ出向いていた。


舞台の設営を担当する現場監督と方角を確認しながら打ち合わせを済ませ、出店の範囲を決めるのに広場内を確認しながら移動していると大きな声で呼び止められた。


「アーノルドさまぁ!」


驚いて振り向くと、新緑の美しい穏やかな日差しの午後だというのに、煌びやかすぎる出で立ちのシルベスの従妹タチアナが、華やかな笑顔で近寄ってきた。


「お久しぶりです、タチアナ殿。」


いわゆる「営業スマイル」というやつで挨拶をすると、


「あの日以来ですわねぇ。祭り準備でお忙しかったのですね。ご連絡がないから心配していましたのよ。」


と他人が聞けば、誤解するような言い回しで話をする。


「先日のホームパーティーでは男性陣が政治の話で盛り上がってしまい、女性には少々退屈だったでしょう。祭りは国家行事ですから不手際は国の恥になります。準備から閉めた後まで気を引き締めて取り組まねばなりませんので、労は惜しみませんよ。」


と、タチアナの言葉足らずを補いつつ周囲に特別な関係ではないことを知らせ、タチアナにはこの先も遊んでいる暇などないことを告げる。

私の物言いが癪に障ったのか勝気な性格の彼女は


「まぁ、お仕事に懸命な男性は魅力的ですわよ。でもね、それではチャンスやタイミングを逃してしまうともありますわね。」


ふふふっと妖艶な笑みを零しながら、「それでは」と去って行った。


「誰だ?今の派手な美人は。恋人か?…なんてな。到底お前の好みでは無いな。」


一緒に祭り会場を回っている同僚のケインが、からかい口調で言ってきた。


「それと忠告だが、ああいう性格の女性のプライドを傷つけると怖い目にあうぞ。」


そうケインに言われ、私はプライドを傷つけてやろうという気はなかったが、勝気な性格の彼女ゆえ人前で否定や拒絶をされたことが屈辱的に感じてしまったかもしれないと思った。



その日から2日ほどした日の昼休みのことだった。

昼食を終えて食堂を後にしようとした時、シルベスが「少し、いいか?」と声を掛けてきたので、二人で庁舎の中庭へ移動した。


「なあ、タチアナとうまくいっているのか?」


シルベスが思っても無い質問をしてきたので戸惑った。


「うまくも何も…食事会後に偶然1回だけ、それも仕事中に出先で出会っただけだよ。」


シルベスは驚きつつ、静かに告げた。


「最近特に祭りの準備で忙しくしていて人との交流が少ないから、お前の耳に入っていないみたいだな。実はな…タチアナが行った先々でお前に『婚約を迫られている』と噂を流している。彼女がそういう行動をとる心当たりはあるか?」


なんてことだ!

タチアナだって私のような人間はタイプではないだろうし、結婚したいなんて露ほどにも思っていないはずだ。

恐らく先日の憂さ晴らしと、さほど欲しくなかったものが手に入らないとなると、急に欲しくなったりするやつではないだろうか?

美人で自信家であるので断ることはあっても、断られることがなかったのかもしれない。


「心当たりは…ある。そんなつもりは無かったが、結果人前で彼女のプライドを傷つけた形になってしまった。」


がっくりと項垂れて、彼女の勝気な物言いにイラついてやり返した自分を反省した。


「忙しい時期で、まして仕事中だ。空気を読めないタチアナの方に非があるよ。他人に何言われようが、君が毅然とした態度を取っていれば噂なんて直ぐに無くなるさ。僕も周囲に噂はでたらめだって言っておくよ。」


昼休みの終わりを告げる鐘が一つ鳴った。


「そうだ、これ」と言ってシルベスが胸の内ポケットから白い封筒を取り出し、私に手渡す。


「マリアンヌから君に。渡して欲しいと預かってきた。」


そう言って「じゃあな!祭りの準備がんばれよ!」と自分の部署へ戻って行った。

私も急いで自分のデスクに戻り、白い封筒をペーパーナイフで丁寧に開封した。



アーノルド・オルスター様

先日はお付き合いくださり、ありがとうございました。

あなたに加護があるように願いながら刺繍しました。

使っていただけたら嬉しいです。

マリアンヌ・フィルダナ  



白い封筒には女性らしい優しいタッチの滑らかな文字で書かれた便せんと、濃紺色で月桂樹と鳥のモチーフの刺繍が施してある薄い水色の上等な生地のハンカチが入っていた。


マリアンヌの耳にもあの噂は入ってしまったのだろうか?

ふと用件だけの文面を見て、そんな思いが過った。

便せんは丁寧に畳んで封筒に戻して机の引き出しに、ハンカチは胸のポケットに大切にしまった。


その日からマリアンヌからもらったハンカチは、お守りのように胸のポケットに入っている。

どうしても普通のハンカチとして使うことが出来ないでいた。

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