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翌朝目覚め、身支度を整えてシルベスと朝食を取ろうと食堂に向かうと、シルベスは急ぎの仕事で呼び出され、執事に私へのメモを残して既に出かけていた。
シルベスからのメモにはこう書いてあった。
おはよう。急な仕事で留守にする。
本当は今日、マリアンヌと出かける約束をしていたのだが、私の役を君にお願いしたい。
どこに行くのかはマリアンヌが知っている。
これはぜひ君に頼みたいことなんだ、よろしく頼む。
メモを読み、食後のコーヒーを飲み終わったころで執事のタバスが私に声を掛けた。
「アーノルド様、マリアンヌお譲様のお支度が整いました。おもてに馬車の準備もできています。」
私も外出の支度をし馬車の手前で待っているとマリアンヌが出てきた。
「マリー、おはよう。」
私は昨晩何も見なかったかように、何も聞かず明るく挨拶をする。
「おっ、おはようございます。」
マリアンヌは一瞬視線を反らし頬を染めたものの、私が明るく普通にしているので彼女も昨晩の涙について何も言わなかった。
馬車に乗り込み何処に行くのかと問えば王立図書館と画廊、手芸店に行きたいと言うので、それを御者に告げて出発をした。
図書館では借りていた本を返し、利用し始めたのが最近だというので本探しを手伝い私の好きな本を薦めたりもした。
私が10代前半に読んでいた本をマリアンヌも読んでいて、町の画廊へ移動する馬車の中ではその本の内容で盛り上がった。
画廊では結婚25年を迎える両親へプレゼントする絵画を受け取りに行った。
ひと月ほど前に兄のシルベスと一緒に選んだ絵画なのだと嬉しそうに話す。
丁寧に梱包してもらったそれを馬車に積み、街でも一番賑やかなエリアへ入っていく。
手芸店は自分が刺す刺繍の材料を買うらしい。
私には縁のない店で女性ばかりだが、マリアンヌに付いているのが今日の私の役目なので店の中まで同行した。
「アーノルドは何色が好きですか?」
マリアンヌが聞くので「特にないよ」と答えると、今日のお礼に刺繍したハンカチをプレゼントしてくれるという。
店は混んでザワザワしてきたので、会話もままならなくなった。
少しかがんで彼女の耳元で「楽しみにしているよ。」と告げると、耳まで赤く染めて恥ずかしそうにしているのがとても可愛らしかった。
店の外に出ると混雑していたせいか、風が心地よく感じた。
店から手を引いてきたマリアンヌの顔色が、悪くなっているのに気づいた。
待たせている馬車に彼女の手を取って乗せようとすると、ふらついたので抱きとめた。
「ご…ごめんなさいっっ」
慌てるマリアンヌの手をもう一度取って馬車に導いた。
馬車ではマリアンヌが楽なように隣に座り、彼女は遠慮して断ったが私の体の片側に寄りかからせ帰路についた。
疲れと馬車の揺れがマリアンヌの眠りを誘った。
フィルダナ家へ着いたものの顔色は優れず、深く眠ってしまったので抱え上げて彼女の部屋へ運びベッドに横たえると、あとは侍女に任せて私はフィルダナ家を後にした。
それから暫くは変わらない日常が続いたが、私の頭にはマリアンヌが浮かぶようになり心を落ち着かなくさせた。