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神谷リサは見逃さない  作者: 稲葉孝太郎 シナリオ / 大和麻也 著
恋愛処方箋 PRESCRIPTION:LOVE
37/41

第一幕 気にかかる彼氏

 関心、洞察、協調――


 昇降口で、額縁に飾られた校訓を眺める。改めて校訓を見ようとする生徒などそうそういないものだが、おれは入学試験のときに気にしていたのを憶えている。もうすぐ入試による休業があるので、ふと思い出した。

 いまじっくりと校訓について考えてみると、実生活で意識できる校訓ではない。おれはどうだろうか?

 関心――神谷に振り回されているのだ、達成したのも同然。

 洞察――神谷のもとで修行中とでもいうべきか?

 協調――神谷の推理の補佐なら板についてきたはずだ。

 …………。

 神谷ばっかりだな。

「やあ、校訓を見つめて物思いにふけるとは感心だね」

 突っ立っていたら、話しかけてきたのは御堂会長だ。朝礼やら行事やらの折に姿は見ているが、久しぶりに話すかもしれない。

「御堂会長、きょうは公務がお休みですか?」

「ああ、ない。卒業式の準備が迫ってきたから、いい加減急ぎたいんだがね。きょうは休戦だ」

 御堂会長は肩を竦める。

 そうか、卒業式か。御堂会長が二年生として最後に果たす大仕事、生徒会長の任期も三年になればあと少しだ。

「休戦ってどういうことですか?」

「軍事物資の調達だよ」

 御堂会長はからからと笑って、帰ってしまった。結局、きょうは備品の買い出しか何かをしているのだろうか?

 履物を変え、外に出る。このごろ日は長くなってきたけれど、寒さのピークは未だに過ぎていない。受験の季節と言えばいつもこうではあるが、寒い日が続いて気が滅入る。きょうも寒い思いをしたくないので早く帰りたかったが、ノートを買い足さなくてはならないから寄り道だ。

 学校から続く駅前の通りには、意外とコンビニくらいしか文房具を買える店はない。しかしコンビニのノートを買うのもなんとなく気が引けて、デパートの上の階にある書店兼文具店を訪れることにしている。

 そのデパートに来たのだが、

「すごいな、これは」

 ……つい独り言を言ってしまった。

 というのも、デパートの一階は人、人、人――――人でごった返しているのだ。しかも、時間がまだ早いこともあって探偵学園の学生が多い。

 一体何のイベントがあるのだろうか? 一階と言えば、ギフトや惣菜の食品が置いてあるコーナーだから、たまたま人が集まっているわけではない。おれは人を何とかかき分けながら、エスカレーターのある店舗の奥まで歩く。そうしてよくよく見回すと、溢れ返っている人のほとんどは女子学生だ。アイドルのトークショーでもあるのか?

 だが、理由に気づくのはすぐだった。

 それは店のあちこちの天井から下がっているバナーや、それぞれの売り場の雰囲気でわかった。


『バレンタインデー前日! 駆け込みセール!』


 受験の時期なのだから、バレンタインデーも近い。考えてみれば、ごくごく普通のことだったのかもしれない。去年は受験で流れてしまった憶えがあるから、忘れていた。

 エスカレーターに乗ってようやくひと息つく。まったく、女子たちの根気にはつくづく感服するけれど、本命チョコレートが駆け込みセールの品で果たしていいのか? 流石に本命が手作りでも、義理チョコレートがセール品だとしたら、残酷すぎて笑えてくる。

 まあ、デパートに人が来るだけ、高校生も高級志向なのかもしれない。製菓会社の商戦もうまくいっている。

 そんなバレンタイン、男であるおれだが、今年も戦果なしかな? どちらにせよ、こういうイベントのときの浮ついた空気は好きではない。


 ノートの買い物を終え、エスカレーターで降りていたところ、

「あれ?」

 本日二度目の独り言が漏れる。

 ガラスの仕切りの向こう側に、見知った姿を見た気がする。もう一度そちらを向いて確かめると、やはり見知った人物だった。

「本当に神谷だ……」

 エスカレーターが一階に着く。神谷に一声かけてみようかと思ったが、女子学生の戦禍の中に我が身ひとつで突入する気にはならなかった。まして男だ。

 気にすることもなかろう――

 …………。

 義理チョコ?

 きっとそうだ、A組の友人から誘われたのだ。綺麗にラッピングして、おいしいチョコレートを交換し合う……いや、待て。神谷にそれほど親しい友人がいるのを見たことがない。となると、まさか――ねえ。

 おっと、おれの気にすることではない。

 ない、関係ない、関わっても仕方がない――


 そうだ、買い溜めして自分で食べるに違いない。安いからな。

 あれ? だとしたらラッピングをしていたのはなぜだ?

「ううん……」

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