解説 ミステリの読み方 その6
推理小説においてはしばしば、事件の統一性が重んじられます。例えば、Aという事件の後にBという事件が起きた場合、それは同一の犯人によって遂行された、という説が考えやすいです。しかし、絶対にそうだというわけではありません。多くの推理小説でそのような構成になっている、というだけのことです。この裏を掻いたのが、AとBが実は全然関係ないというトリックです。
これには様々なパターンが考えられるでしょう。例えばAが自殺であり、それを知った犯人がBを殺害、ふたつの事件を結びつけるパターン、あるいはAを殺害した犯人Bを、第三者Xが殺害するパターンなどが考えられます。このような構成のメリットは、「AとBを整合的に考えようとすると、どうしても解決できない点が生じる」ということです。例えばAが鍵を閉めた室内で自殺した場合、犯人はそれを密室殺人であるかのように偽装できます。このような場合に探偵は、「殺人事件Bについて犯人のアリバイはないが、殺人事件Aについてはアリバイがある」という風に、誤った推論に陥ってしまうわけです。重要なのは、「Aは自殺であり、それについて犯人のアリバイを云々する必要はない」ことに、読者が気付くかどうかです。
本作ではさらに、共犯の問題も扱われています。伝統的に、共犯は推理小説の禁じ手とされている傾向が強いように思われます。その理由はいくつかあるのですが、決定的なのは、犯人が複数いるとどうにでも解決できてしまう、ということに尽きるでしょう。そこで普通、共犯が登場するときは、共犯者の存在を示唆する何かが提示されます。それは会話(例:初対面を装っているのに、お互いのことを知り過ぎている)であったり、あるいは何らかの物的証拠(例:指紋が複数ある)であったりします。さらに、これと上述のトリックを合わせて、被害者のひとりが共犯だったというあらすじもありえるので、注意が必要です。
以上、事件の複数性と犯人の複数性について解説しましたが、大部分の推理小説では「犯人はひとりであり、事件には統一性がある」と考えてよいように思われます。書き方がフェアである限り、そこから外れるヒントは作中に示されているはずです。
『クリスマス双生児の謎 The Christmas Twin Mystery』
⇒エラリー・クイーンの国名シリーズ第七作『The Siamese Twin Mystery』より。『シャム双子の謎』あるいは『シャム双生児の秘密』と邦題がつけられている。
エラリー警視とクイーンの父子は、アメリカ北部の山中で山火事に遭い、サヴィヤー医師の住んでいた近くの山荘に逃げ込む。そこでエラリーはカニのような生き物を目撃、それは医師の診断を受けにきたシャム双生児(結合双生児)であった。翌朝医師が銃殺されているのが発見され、当初弟のマークが疑われるが、そのマークまで毒殺されてしまう。山火事が広がってくる中シャム双生児が疑われ始め、エラリーは山荘の一同を前に真実を解き明かしていく――




