属性魔法って、こういうこと?
唐突だが、オレは異世界にやって来たらしい。
ロールプレイングゲームみたいな、剣と魔法の世界に。
学校から帰る途中、いきなり光に包まれたと思ったら、次の瞬間には深い森の中。
持ってるものは教科書ノート文房具。あとはスマフォと財布、コンビニで買ったジュースと菓子くらい。
突然サバイバル状態に放り込まれて『は?』な時に、さらにいきなりデカいドラゴンにも襲われた。
いやー。死ぬかと思ったね。
あっさり返り討ちにしちゃったけど。
この世界に来た途端、オレの体はすごいことになったらしい。
岩を持ち上げるのも軽々。デコピン一発で粉砕。走れば森がすごいことになる。
これが主人公補正というものか! なーんてトキメいてしまったよ。
だけど魔法の使い方だけは、どうやってもわからなかった。
力技で火とか水とかはなんとかできたんだが、さすがにそんなサバイバル生活を続けていられる自信はない。だからオレは森を出て、人間がいる町を目指した。
そしたらあったよ! あったんだよ!
冒険者ギルドが!!
元の世界でもこの世界でも無職、だけどスーパーパワーを持った今のオレならできそうな仕事!
そうして受付のお姉さんに色々とお約束な説明を聞いて、登録のために測定もしてもらってるところなんだけど――
「スグル・イダ様。あなたの属性は――」
ドキドキ。こんな胸の高鳴りを覚えたのは、いつ以来だろうか。
やっぱり風? 素早さと鋭さ重視。男のコ永遠の憧れ!
それとも火? 男だったら火力勝負か!
水も悪くはないか? 回復系だけでなく、すっごい攻撃にも使えるマルチタイプ!
土は……イモくさい感じはしなくもないけど、使い方次第ですごいことできそうだ。
いやいやいや! ここは光とか闇とか無属性もありえるじゃないか!
とにかくオレ知識があれば、なんででもスゲーしてやれるぜ!
そう思ったのだが。
「特にありませんね」
「…………は?」
多分アホ面をさらしてしまっているだろう。受付のお姉さんの言葉は、想定外だった。
「無属性ってこと?」
「いえ、そうではなく、普通ということです。属性がないのに冒険者というのは、あまりオススメできませんが……」
「なんで? 属性がないと冒険者になれないわけ?」
「いえ、禁じられているというわけではありませんが……なにぶん前例を聞いたことがありません」
属性がない……? 無属性とも違う?
どういうことだろうか?
「……魔法が使えないってこと?」
「今は使えないでしょう。今後はなんとも申し上げられませんが、使えるようになるには、かなり苦労なさるのではないかと……」
ふむ。使える見込みは充分あるということか。
なにせ金森で倒したモンスターの素材を持ち込んで凄い金額になったり、魔力測定でマックス値をたたき出してしまったせいで、ひと騒動あったばかりだ。冒険者ギルドから出た途端、さっき先に出ていったチンピラ風自称一流冒険者に絡まれるフラグが立っているのに。
いやそれはいいとして。よくないけどお約束だからいいとして。
訓練すれば魔法が使えるなら、なにも問題ない!
この世界で、オレは生きる!
「お願いします!」
「はい。では登録完了です」
△▼△▼△▼△▼
こうして数ヶ月前、冒険者になったオレは――
装備を整え、パーティを組んで冒険してた。
「じゃぁ出発しましょう! ご主人様!」
まずはパム。
奥さん! ケモ耳ですよケモ耳! 獣人少女! 色や形だけじゃネコかイヌかオオカミかキツネかはよくわかりませんけど! とにかくもっふもふの毛に覆われた尖り耳が頭に生えています!
ちなみに尻尾は知らん。服で隠せる長さな上に、なぜか恥ずかしがって見せてくれない。それを見ればなに耳なのかわかりそうなものなんだが。
最初会った時は、奴隷だった。どこかに売られることが決まって馬車に乗せられて、山賊に襲撃されてピーンチなところを、偶然通りかかったオレが撃退して、なんやかんやあってオレが引き取ることになった。
まぁ冒険者に雑用なんてさせていられる余裕というか生活基盤はない。そんなわけで装備を買い与えて、パーティメンバーとして登録。獣人ゆえにもともと素質が高いので、斥候などに大活躍。いまやいっぱしのシーフ系冒険者だ。
「国境までは三日くらいかかるんだって」
続いてノア。
ぶかぶかのローブにとんがり帽子・曲がりくねった木の杖という、古典的な魔法使い……否、魔女っ娘だ。
元の世界じゃランドセル背負ってても不思議ない女の子だけど、なんかすごい魔法使い一家の子供らしい。家訓で見聞を広めるために旅してて、道中でオレたちを一緒になり、なんやかんやでそのまま行動を共にしている。
「街道とはいえ、盗賊も出るそうなので、気をつけてまいりましょう」
そしてステラ。
金属製の杖に白いローブは見るからに聖職者。実際のところも聖職者。
普段は都市部の教会で働いている。そしてこの世界の教会は、病院を兼ねている。だから定期的に農村部を回っている旅の途中で俺たちと会って、なんやかんやでそのまま行動を共にしている。
美少女・美女揃いですよ! でもそんな雰囲気は微塵もないですよ!
オレ自身のことも少しは語っておくと。
冒険者としてはそこそこ? というか本気になると転生チートであまりにも目立つから、そのくらいで加減してる。
それから魔法は……まぁさっぱり? 一応使えるようになったんだよ。ひとつだけ。
『システムウィンドウオープン』と心の中で呟いてパーティメンバーたちを見ると……ほーら見える。鑑定魔法みたいなのが発動して、半透明ウィンドウに簡易ステータスが。
名前:パム=アルパトゥムナ 年齢:16 クラス:レンジャー
属性:ケモ耳
貧乳
八重歯
絶対領域
奴隷
名前:ノア・アシャオス・プラル 年齢:12 クラス:ウィザード
属性:妹
ロリ
魔女っ娘
萌え袖
名前:ステラ・マグフィード 年齢:?? クラス:クレリック
属性:お姉さん
巨乳
シスター
あらあらうふふ
『属性』ってそーゆーことかー!! って初めて見たとき、思わず叫んだよ。ソレ違うだろ、と。
そりゃオレに属性なくても不思議ない。男にもあるんだろうけど、そういうのはイケメンに限る、だ。
あと一人年齢が開示されないのはツッコまないでくれ。どうやっても見れないし、万一見れたら本気で怖いそうだから。
「……ぅん?」
パムがケモ耳をひくつかせ、鼻もひくつかせ、あと顔をしかめた。
「どうした?」
「ご主人様、近くに誰かがいます……なんだかくちゃいです」
さすがは獣人ならではの鋭敏感覚。危機には一番だから斥候としてとても優秀。。
そんで、相手が人間っぽくて、臭いとなると。
「てめぇら! 身包み全部置いていきな!」
――山賊リーダーが現れた!
――山賊Aが現れた!
――山賊Bが現れた!
あー、なんか物陰から出てきた。皮を着た小汚い格好の、質の悪そうな武器を構える三人組。こういう時の定番、山賊だ。ちなみに簡易ステータス表示だとヒゲでゴツいのが『山賊親分』。ひょろいの・ちびぃのが『山賊A』『山賊B』。システム的にも固有名称が表示されない程度の相手だ。
「親分親分! 身包みだけなんてもったいないでゲスよ! 女どもは粒揃いでゲス!」
「へっへっへっ、取引帰りに偶然こいつぁ……神の思し召しってヤツかぁ?」
四人のうち三人女だから、相手しやすそうだと思ったんだろうなー。オレもそんな強そうな見た目してるわけじゃないし。
だから、こういう手合いは慣れっこだったりする。
あと『ゲス』は突っ込まない。山賊・盗賊・海賊と出会えば、ひとりくらい形から入るのいるから。
「パムさん。魔法の練習に丁度よさそうな方々ですよ」
「へ?」
「そうだよ~。パウお姉ちゃん、魔法苦手なんだし」
「え、いや、苦手だけど……」
ステラとノアに言い詰められて、パムがうろたえている。
魔法をかけやすい相手ではあるかもしれんが……そして『いかにも』な二人に比べて、パムが魔法が苦手なのも事実なのだが。
「それじゃ、いっくよー!」
――ノアの攻撃! 妹属性魔法を発動!
「お兄ちゃーん! 朝だよー!」
「ぐふぅっ!?」
――山賊Aはダメージを受けた! 山賊Aは戦闘不能になった!
それは魔法か? というツッコミは却下だ。魔法と言ったら魔法だ。その証拠に山賊Aが吐血したじゃないか。言葉だけで触れずに傷つける。これを魔法と言わずしてなんと呼ぶ。ちなみに対象年齢が上昇すると『お兄ちゃん』は『パパ』にチェンジされる。あとノアの場合は男限定ではなく、相手によっては『お姉ちゃん』で女にも効果ある。ロリっ娘は最強だった。
――ステラの連続攻撃! シスター属性魔法を発動!
「父なる神はおっしゃいました。人の過ちは常。なので幾らでも取り返しがつくと」
「おいおい、姉ちゃん? 説法で俺たちが山賊稼業辞めるとでも思ってるのか?」
「いいえ? あなたの場合は取り返しつかないと、わたしも思います」
「ぶっ!?」
「大丈夫です。わかっております。反省しても何度も同じ過ちを繰り返すんですよね。くだらない山賊稼業によく生きがいを見定めたとは思いますけど、それがあなたの行いというのでしたら、わたしが口出しすることではありません」
「俺だってなぁ……! 俺だってなぁ……! 人に頼られる冒険者になりたかったんだよぉ……! だけど金がねぇから仕方なくよぉ……!」
「働けど働けど、暮らしは楽にならない……当たり前ですよね。だって最底辺でもがいてるだけなんですから」
「……!」
「あらあら? もしかして、ヘコみました?」
「当たり前だ……! そこまでハッキリ言われるなんて思うか……!」
「あら、ごめんなさい。あなたがご自分で底辺だと思ってることを気遣わず、本当のことを言ってしまって」
「それが思いっきり傷つけてんだよぉ!?」
「人生ままなりません。思うようにならないこと、たくさんあります。だってあなたには信念がないのですから」
「ひぐっ……!」
「大丈夫です。この世で生きていいことはありません。あの世は天国って呼ぶですから、そちらに早々とお逝きになったほうが幸せになれますよ」
「……う、うぅ」
「大変でしたね。頑張らなくていいんですよ。だってあなたはなんの役にも立たないんですから」
「うわぁぁぁぁん……!」
――山賊Bは大ダメージを受けた! 戦闘不能になった!
それはシスター属性なのか? という疑問は同意する。優しい口調で言ってるけど、毒舌属性でないのが理解できない。属性とか魔法とか関係なく、普通に口先ひとつで再起不能にさせられそう。
「な……!」
――山賊リーダーはひるんでいる!
部下二人があっという間に片付けられ、髭ズラの盗賊頭分は泡を食ってる。そりゃそうだろうなぁ。
「えぇと……えぇと……」
――パムは混乱している!
こっちでも泡食ってる。他の二人が片付けたのだから、自分が働かないと、という意識があるのだろう。そして素直なパムのことだ。事前にかけられた言葉通り、魔法で倒さないとならないととか考えてるに違いない。
――パムの攻撃! 絶対領域属性魔法・秘奥義発動!
そしてなにを考えたのか。
「えいっ!」
自分でチュニックに裾をめくり上げた。背後からは見えないが、盗賊親分からはきっと丸見えだろう。オレが現代技術を持ち込んで作った紐パン(青白ストライプ)が。
「…………」
「…………」
固まる空間。双方とも動かない。パムは当然としても、盗賊親分も凝視して動かない。
しかし。
「ふ」
――盗賊リーダーには効かなかった!
「鼻で笑われたぁ!?」
「そんな魔法で俺様を落とそうなんぞ、二〇年早ぇぞ小娘!」
パム、失意体前屈に崩れ落ちる。
名誉のためにフォローしておくと、パムは充分美少女だぞ? でも色気むんむんウッフンな感じでは到底ない。本人を前にして言うと泣き出しそうだから言えないが、ひんぬーなのは否定しようがない事実だし。
絶対空域(太ももと股間の隙間。神が作り出した神秘の三角形。股下デルタとも呼ぶ)属性だったらノックダウンを奪えたかもしれないが、その属性は持っていないからなぁ。
「どうせなら……」
――盗賊リーダーはスグルを見ている! 熱いまなざしだ!
なぜここでオレを見る? しかも頬が赤らんでるのは気のせいか?
でも危機感を覚える前に、怒りの炎が燻ぶる目は、再びパムに剥く。
「しかもなに考えてる!? 『絶対領域』ってのは見えそうで見えないのがいいんだろうが!? パンツ丸見せして黄金比を崩すんじゃねぇ! 服の丈 :太もも:オーバーニーソは4:1:2.5! 許容誤差は2割5分までだ!」
盗賊親分はロマンを理解している男、いや漢だった。こんな出会いでなければ、差しつ差されつで一晩中でも語り合うことができたかもしれない。
本当に残念だ。心底そう思う。さっきの熱いまなざしが気になるが、あまり気にせずにおこう。
「ふっ!」
――スグルの攻撃! 単なる暴力発動!
仕方ないので、オレが殴り倒すしかないので。
△▼△▼△▼△▼
「う~……」
「パムお姉ちゃん、また魔法ダメだったねぇ」
「パムさん、素質はあると思うのですが……」
ヘコみながら歩くケモ耳少女を、魔女っ娘とシスターが慰めている。
それを見ながらオレは、三人の後ろを追う。こういうのは女性同士のほうがいい。下手に男がしゃしゃり出るとワケわからんことになる。面倒くさいわけじゃないからな?
「スグルお兄ちゃんも、魔法使えるように練習しないの?」
おっと? ノアの矛先がこっちに来た?
「いやぁ……オレはもう魔法は諦めてるし」
「それはよくありません。魔法とは、個の才能。その成長を怠るのは、父なる神に仕える者として、見過ごすわけにはいきません」
おっと? ステラまで?
だってさぁ、オレが想像してた魔法と違うんだもん。
歯がキラッとしたら、誰か血を噴いて倒れるの? それが様になるのは、それこそイケメンに限るだと思うぞ?
「パムお姉ちゃんが魔法上手にならないの、お兄ちゃんのせいだと思う」
「ノアさんのお言葉も、一理あると思いますよ? 悪い手本です」
うーん……魔法使い二人の言う通りかもしれんが。
属性魔法とやらが使えるようになるのは、要は自分磨き?
オレみたいな平凡な男がやっても仕方ないとは思うが、パムみたいな可愛い女の子がそうなのは……自分に自信がないんだろうけど、やっぱり磨いてもっと綺麗になって欲しいと思うのは、男のエゴなんだろうか?
「ご主人様ぁ……」
パムが涙目でこっち見てくるー……それ、どういう意味? まさかオレも一緒にキャラ作りしろってこと?
いや、それ、勘弁して欲しいけど……欲しいけど……
「うぅ……」
なんか涙目で訴えてくるー!
普段あまり自己主張しない美少女が、しかも涙という女の武器をチラつかせる! なんと卑怯だ!
でも、突っぱねることができるか!
ヘタレとか言うなよ?
「まぁ……なにができるかわからんけど、考えてみるか」
「はいっ」
一転して笑顔を浮かべる美少女を、突っぱねられる男がいるか?
え? オレの属性?
あまり見せたくないんだけどなぁ……いや、構って欲しさで壁チラみたいなのじゃなくて、本気で。
でも見せないと仕方ないか……
名前:スグル・イダ 年齢:17 職業:ファイター
属性:残念な普通の男
残念な俺様
残念なクール系
残念な熱血漢
残念なナルシスト
残念なハードボイルド
残念なムードメーカー
ヘタレ
■■
…………あぁ。言いたいことはわかる。
属性の意味を知って、キャラ作りしてみようとして、失敗したんだよ! その結果がコレだよ!
全部『普通の男』と矛盾してないか!? 『残念』だから問題ないのか!?
そんなことより『■』が気になる?
気にするな! それは絶対に語りたくないから! 昨日追加されたそれは!
「そういえばご主人様、大丈夫ですか?」
「うん? パム、なんのこと?」
「昨日、街の公衆浴場から、泣きながらお尻押さえて宿に帰ってこられたことです。なにがあったのか全然わからなかったですけど、寝ながら『ハッテン場だった……』とかおっしゃってましたが」
「…………」