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鋼鎚使いの無能神官  作者: しらぬい
第1章 流嵐の王都編
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EP 5 兄弟子リベル




 鋼鎚のメンテを終えた俺は、非常に気は進まないものの『聖法協会』の支部へと足を向けた。

 目的は俺の師に会うこと。師とはいっても、神官になった際に割り当てられた上位神官のことではなく、世話になった師匠の事である。


 『聖法協会』の支部はカノーネの西側に位置している。ルイーナの鍛冶屋はカノーネの南側にあるので、一旦大通りを通って中央広場へ向かう必要がある。脇の小道から抜ける方法もあるのだが、小道はぐねぐねと複雑に入り組んでおり、気を抜けばあっという間に迷子になるのでそちらは通らない方が賢明だろう。


 大通りの人の流れに乗り、ゆっくりと歩を進める。

 時折通りに並ぶ露店から香る料理のいい香りが鼻腔をくすぐる。こうした露店で買い物をして、歩き食いをするのもまた一興だ。しかし今回はぐっと衝動を堪える。まずは『聖法協会』へ向かうのが先である。

 歩きながらついと前方に目を向ければもうすぐ広場である。軽快な音楽が聞こえてくるのは、音楽隊でもいる証拠だろう。カノーネでは三か月に一度音楽隊によるパレードが開かれたりもする。その盛況たるや国中の人々が押し寄せたのかと思うほどである。

 今月のパレードはつい数日前に行われたばかり。次のパレードが見たいならおおよそ三か月、大体九〇日後になる。


 つまり一年に四回のパレードが開かれる。パレードごとに人々は春夏秋冬の季節に合った衣装を纏うので、そのデザインを楽しむのもまたパレードの楽しみ方だ。


 中央広場に着くと、いっそう雑踏の音が賑やかしくなる。

 中央広場からは東西南北にそれぞれ大通りが一つずつ伸びており、東西南はそのまま城下門に続いている。そこから他の街や他国へと向かうわけだ。北側の通りは唯一城下門がなく、代わりに王族が住むカノーネ城へと続いている。

 まだ遠くにあるというのに、カノーネ城はその荘厳さを惜しむことなく放っている。一説によると、カノーネ城からはカノーネが全て見通せるとかそうでないとか。真偽のほどは定かではない。


 人の流れに逆らうことなく、西へと向かう。と、そこで通りを進む人並みの中に、やけに隙間の空いたスペースを見つけた。どうやらその中心にいる人物を避けながら人が歩いているらしく、その人物の周囲には誰もいない。

 ひょっこり人波から頭一つ分出ているのもそれに拍車をかけているのだろう。

 当の人物はそんなことなどお構いなしにずんずんと進んでいく。人混みが海が割れるように開いていくのだから面白いものである。


 少し歩く速度をあげて、その人物に追い付いた。彼が気づきやすいように少しだけ彼の前に身体を出して声をかける。


「おはよう、リベルさん。相変わらずだね」


 名を呼ばれた本人はゆっくりとその強面を向け破顔した。


「おはようございます、アレン殿。今日もよい天気ですね」


 並の人より遥かに高い身長は彼の意図せぬ威圧感を周囲に振りまくが、実際の彼は非常に心優しい男性である。年のせいで増えてきた白髪混じりの黒髪を後ろへと撫でつけ、整えられた口ひげは彼にダンディズムを感じさせた。

 切れ長で鉛色の瞳、齢を感じさせないがっしりとした身体、見た人を恐れさせるような強面は彼を歴戦の戦士か何かとよく勘違いさせる。しかし、彼はその身に纏う神官服から分かるように立派な神官の一人である。

 彼はその名をリベル・クェーサーといった。


「聖法協会へ行く途中?」

「ええ、わが師に少し用がありまして…」


 彼の言う師とは俺の師匠と同一人物になる。弟子入りした時期は彼の方が早いので、実質彼は俺の兄弟子ということになる。

 最初こそ歳の差やら彼の威圧感やらで萎縮していたのだが、彼の持ち前の優しさでだいぶそれは緩和されている。

 ちなみに師匠は俺よりは上だが、彼よりははるかに下である。自称永遠の二十代なのだが、この前「小皺が…」などと鏡の前で言っているのを見かけた。リベルさんはと言うと、ついこの前五十を迎えたらしい。


「それにしても、リベルさんの傍は相変わらず人がいないね」

「私は微塵も威圧感など出していないつもりなのですが…」


 そんなことを真面目くさって言うのだが、まったく説得力が見えないのはやはりその強面のためか。


「そういうアレン殿も聖法教会へ?」

「うん、ちょっと厄介なものを預かったかもしれなくってね」


 「師匠ならきっと分かると思って」と続けると彼は深く頷いて「なるほど」と呟いた。

 それからは聖法協会に着くまで世間話を交わす。やれ北の方の国で大規模な魔力爆発があっただの、西の方で古い遺跡が見つかっただの、東の空に紅く光る星を見ただの、信憑性にややかける噂話程度だが、道中の時間はあっという間につぶれていく。


 そうして到着した聖法協会を見上げる。

 大きさは冒険者ギルドと同等かやや大きい。全体的に白を基調としたデザインをしており、入口のすぐ真上には聖法協会のシンボルたる女神のエンブレムが飾られている。


 少しだけ気が重い。

 せめて余計な奴には会いませんようにと内心で祈り、聖法教会の入口をくぐる。


 最近気づいたことではあるのだが、協会の中はやたら装飾が華美な部分がある。

 壁から突き出すように出ているいくつもの燭台。床には入口から各棟へ続くように赤い絨毯が敷かれており、その端は金の糸で装飾が施されている。窓らしい窓はあまりなく、巨大なステンドグラスが並んでいる。それぞれ絵が違い、どうも昔の神話を元にしていると聞いたことがある。


 師匠のいる棟は聖法協会の中でも端に位置する。歩くと中々遠いので、尋ねる時には中々苦労する。

 リベルさんと共に師匠のいる棟へと向かう。途中、こちらを見てひそひそと話をする人はいたが、こちらに絡んでくる面倒な奴はいなかった。リベルさんがいたのもあるのだろう。無駄な杞憂に終わったようだ。

 十分近く歩き、ようやく師匠のいる部屋の前に到着する。

 リベルさんが優しく扉を数回ノックする。するとそれに応えるように中から「はーい」と声が響いた。


「わが師よ、リベルです。少々お伝えしたいことがあります」


 そう言ってリベルさんが扉を開ける。と同時に彼の頭の上にバフン!と大量の粉が降りかかった。

 呆気に取られる俺を余所に、リベルさんはまるで慣れているかのようにはぁ、と深いため息を吐いた。


「ふっふっふ…、引っかかったわねリベル! 安易に人を信用して扉を開けるからよ!」


 中から快活で楽しそうな笑い声が聞こえてくる。

 リベルさんはパンパンと頭と体に降りかかった粉を払うと、むっと顔を顰めた。


「わが師よ、悪戯をするのは構いませんがもう少し身体的被害がないようにお願いします。洗うのに魔法を使うのも面倒ですからね」


 悪戯をやめるよう言わない辺り、懐が広いのやら甘いのやら。ひょいと部屋の中を覗き込むと、当の本人は満面に笑顔を浮かべてあまり反省の色は見られない。

 橙色のボブショート。一般の神官服と比べればやや…、いやかなり派手な赤色基調の神官服。彼女の神官服を押し上げるように主張する胸は何人も魅了することは間違いない。腕を組んで挑発的に笑う姿はある種、彼女の自信を感じさせた。


「あら、アレンじゃない。ハーイ、元気にしてた?」


 彼女の名はユーノ・フェレンディア。上位神官の中でも高い位である“大神官”の称号を持ち、悪戯好きな彼女こそ俺たちの師匠である。

本日はもう1話更新するかもしれません。その時にはtwitterでお知らせします。


2015/09/06 誤字があったので修正をしました。

2017/03/14 ユーノの名前に間違いがあったので修正しました。

2018/10/14 タイトルを修正しました。

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