EP 30 情報屋アンナ
今回は少し長めです。では、どうぞ。
時は腹の虫も鳴くお昼時。落ち着いた雰囲気の店内で、人々は談笑しながら昼食を取る。山ほど皿が積み重なっている机もあるかと思えば、小さなサラダ皿一枚しか残っていない机もある。どうやらソルの案内してくれた店は様々な客層がいるらしい。一つ一つのテーブルがしきりで区切られているようだ。
俺たちが席に案内されてほどなく、一人の女性がダグさんを連れて現れる。
彼女は静かな店内に靴音の余韻を残しながらゆっくりと俺たちの近付いてきた。別段彼女が大きく足音を立てていたわけではない。堂々とした態度と風格が、自然な動作ですら彼女の存在感が際立たせているのだ。
「君がダグの言っていたアレン君だね」
やや低いメゾソプラノの声。彼女の態度に威圧感はない。けれどなお感じる圧迫感は、彼女が歴戦の戦士であることを俺たちに感じさせた。そこらへんのゴロツキや不良にある甘っちょろい感じなど微塵もない。この人はきっと本当に強いのだ。
「はい、俺がアレン・ストライフです」
「ふむ…、では君がルイーナ君か」
「は、はいっ!」
「私はアンナ、アンナ・マルクスティだ。そこのダグの雇い主でな。そっちのソルとも知り合いだ」
そう言って対面の席に腰掛ける。ダグさんも彼女に続いてアンナさんの隣に座った。座ってからメニューをすぐに開いて皆に見せている辺り、彼は付き合いが長いらしい。ちなみに今の席順は奥からソル、ルイーナ、俺。対面にアンナさん、ダグさんである。
「アンナはこの街一の情報屋でな。色んなことに詳しいのさ」
「じゃあダグさんと待ってたのは……」
「ま、何かしら情報を得られるかもしれねェと思ってな」
ソルはニヤリと笑う。機転をきかしてくれたらしい。礼を言い、その配慮をありがたく受け取る。
「とはいえ、難しい話は後だ。まずは飯、そうだろう兄ちゃん?」
ああ、と返事をしようとした矢先、きゅるるるる、と可愛らしい音が返事をした。その音の出所は俺とソルの間であり、主たる彼女はトマトもかくやと言うほど顔を真っ赤に染め上げていた。
「ハハ! 器用なことするな嬢ちゃん」
「す、すみませぇぇん……」
ルイーナは手で顔を覆い隠し、下を向いてしまった。初対面の人の前ということもあり、余程恥ずかしかったのだろう。小さな声でお腹への文句を呟いていた。かたやソルは気にせずメニューを眺めている。
「ふふ……、ここは美味しい料理がたくさんある。私たちに遠慮せず食べるといい」
彼女は藍色の髪を揺らし優しく微笑んだ。率直に言って美人な彼女は微笑む姿も様になる。だがそれが逆効果にしかなっていないのは隣に座るルイーナの態度から明らかであろう。顔を上げ、口をモニョモニョとさせたかと思うと、いたたまれなくなった彼女は結局ソルの開くメニューへと逃げた。突然視界に入り込んできた頭を見てソルは訝しげな顔である。ダグさんは珍しいものでも見るかのように微笑むアンナさんの顔を凝視していた。
何品か注文して料理が来るのを待つ。しばらくはお互いの自己紹介で時間を費やし、世間話もそこそこにメニューは机へと運ばれてきた。
「へぇ……、今日の日替わりメニューは海鮮か。俺ぁこのエビってやつが好きでなぁ。この前も港町のハヴェッタに行ってきたのさ」
「ハヴェッタ?」
「ヨルドの南の方にある港町だよ。ここからだと馬車を使っても4日ほどかかる。ただ、魚が揚げたてだからとても海鮮の美味しい街さ」
「そうなんですね! 新鮮な海鮮かぁ。食べたことないから食べてみたいなぁ。美味しいんだろうなぁ」
「カノーネだと新鮮な魚が食卓に上がること自体珍しいから味も想像できないな」
「もしかしてよォ、ダグさん。この前の港の調査にやァたらと行きたがってた理由ってそれじゃねェよなァ?」
「お、おいソル! 滅多なこというもんじゃねぇぞ。俺はちゃんと調査のためにハヴェッタに行ってだなぁ! 他意はこれっぽっちもねぇよ!」
「私は仕事さえきちんとしてくれれば君が何をしようと自由だと思っているのだが……」
机に並ぶ料理に舌鼓を打ちながら食事は進んでいく。話をするうち、緊張も解れてきて席は弛緩した雰囲気になる。ルイーナもまだ硬さは残るものの持ち前の明るさで楽しそうに話していた。
そして食後、全員にコーヒーが配られミルクで各々好みの味に調整する。そのまま飲むと少し苦めの味が口に広がった。
「さてアンナ。単刀直入に聞くがよォ、リベリオンって装飾品に聞き覚えはねェか?」
場が落ち着いたのを確認してからソルはそう切り出した。
「リベリオン……? 大厄災のことではなくか?」
「あァ、そっちも関係あるっちゃァあるんだが今はいい。情報屋で何か情報が入ってきたりしてねェか?」
「ふむ……」
アンナさんは少し考え込む素振りを見せたが、頭を振り否定する。隣のダグさんにも話を振ったが、彼もさっぱりなようで肩を竦めていた。
「少なくとも俺らが活動してる範囲だと聞き覚えがねぇな。ですよね、アンナさん?」
「ああ、その通りだ。だがソル、それが何だと言うんだ? 何かの重要な話か?」
「それは俺とルイーナが説明します」
俺たちがギルドで語った内容をアンナさんたちにも話した。アンナさんは表情を変えることなく、静かに聞き入っていた。話している途中に首に提げていたリベリオンの実物も見せて説明した。
その一瞬だけアンナさんの変わらなかった表情に変化があった。リベリオンを見ると目を見張ったような気がしたのだ。けれど次の瞬間には彼女は元の表情に戻っている。ダグさんが顎を撫でながら首飾りを見ているように初めて見る細工に驚いたのかもしれない。
「ず、随分と綺麗な細工の入った首飾りだなオイ。男が持つにゃ過ぎたシロモンだぜ」
「俺も預かってるだけですから。とはいえ、これの持ち主は俺たちもよく分からないまま別れてしまいましたし……」
「爺も思い当たることはねェらしい。アンナなら何か知ってるかもしれねェって思ったんだが……」
「力になれなくてすまない。私が知っているのはあの伝説だけだ。国の諜報機関ならあるいは……」
アンナさんは申し訳なさそうに眉尻を下げた。ダグさんも悪ぃな、と苦い表情。
「き、気にしないでください。手がかりがあれば儲け物って感じですから! それに、アルタールさんとはまた合いそうな気がするし……」
それは確信に近い言い方だった。事実、アルタールは必ず接触しにくるはずだ。
……もしも彼女がこちらに来ているのなら早くに接触したい。彼女には聞きたいことが山ほどある。
「そうか……。では私たちの方でも何か情報を掴んだらこちらから使いを送ることにしよう。それから君たちの言うアルタールなる人物から話が聞けたなら私たちの方に教えてもらえると嬉しい。私たちも探りは入れているのだが今の状況は把握し難くてね」
「……王都の襲撃ですね」
「ああ。優秀なシーフに頼んだおかげである程度の情報は入ってきているのだが…」
アンナさんは神妙に頷いた。しかし、彼女の尻すぼみな言い方から見るに芳しい情報はないらしい。席に沈黙が降り、話し合いは停滞する。俺たちから提供できる情報もないし、そろそろソルの買い物にも行かねばならない。解散を提案しようと思った時、難しい顔でタバコを弄っていたダグさんが、あ!と声を上げた。
「そういやアンナさん、あれがあるじゃないですか! 例の化け物にあった模様みたいなやつ!」
「……ああ、そういえばそれが残っていたか」
ダグさんに振られ、今思い出したといった様子。これは調査を頼んだシーフの証言だが、とアンナさんは前置きした。
「王国に出現している化け物、君の言う『書物の悪魔』だったか? 奴らは確認できる限りその全てに奇妙な文様があったらしい」
「奇妙な文様……?」
どこかで聞いたような話だ。あれは確か……。
ーーどの魔物にも奇妙な紋があったねぇ。君が知りたいことかどうかは知らないけど、一応伝えておくよ。
「そうだ、ヴェルナの……」
「そ、それってどんな形でしたか、アンナさん!」
「そうだな……確かこんな形だったか?」
彼女は懐からメモ帳を取り出すと、さらに羽ペンを取り出した。ちょいちょいと先に塗料をつけると、サラサラと軽やかに描き始めた。そしてその模様の全容が明らかになるにつれ、俺の顔は渋いものになる。
中心に位置する螺旋型と左右に広がる2枚の羽根。そして螺旋を覆う碗と下に伸びる一本線。間違いない、ヴェルナが言っていたあれだ。そして、ゴブリンに刻まれていた文様でもある。
「こ、これ見覚えありますよ、私たち! 確か私たちの遭遇したゴブリンにもありました!」
「それだけじゃない。王都襲撃前に魔の森付近で出現した魔物たちにあった文様も多分こいつだ」
「なにぃ! その情報本当かよ!?」
この情報はダグさんたちも持っていなかったらしく、勢いよく席を立ち上がり身を乗り出した。
「兄ちゃんの言う『書物の悪魔』以外にもあるってんなら何らかの繋がりがあるってことになるぜェ……。こいつァいよいよ大ごとなんじゃァねェのか?」
考えられる最悪の可能性はこれら全てが同一の存在によって統一されているということ。そうなると俺たちが立ち向かおうとする相手は大規模な戦力を持っていることになる。それだけじゃない、魔物の調教術なんて少なくとも表に出ているのを聞いたことがない。どんな手段を使っているかは知らないが、洗脳術を持っている可能性もある。
ガリガリと脳内で嫌なシナリオが描き上がっていく。『書物の悪魔』がどれほどの実力があるのかはわからない。しかし、俺たちが街の様子を確認した時点で並み居る冒険者がほとんどいなかったのは事実だ。これほどの大規模戦力を国ごとに逐次投入なんてされたらあっという間に国は全滅してしまう。リベリオンのこともある。最悪、世界各地であの巨大な腕の現象が起きれば、間違いなく人類は滅びる。
「そんな……今すぐ止めなきゃ!!」
「待て、姉ちゃん。焦ってもいいこたァねェ。まずは地に足がついた考え方をすべきだ」
「けどそう言う大きな敵がいると思った方がいい。俺たちに何ができるかは分からないが」
「……アンナ、他の国で何かがあったって報告はねェんだろ?」
アンナさんは首を縦に振った。
「だったらオレたちにはまだ時間が残されてると見ていい。いつリミットが来るかは分からねェがな」
「でも、どうすれば……」
ルイーナが悔しそうに呟いた。現状は手詰まりだ。ブラド爺さんと話した時と状況はさほど変わらない。幸運なことといえば、ギルドと情報屋に情報の連絡手段ができたことぐらいだ。
「……現状、君たちにできることは冒険者として依頼を遂行すること、だろうな」
アンナさんは腕を組み、その双眸を俺たちに向けた。心の底まで見透かすような深い青色。淡麗な容姿も相まってゾッとするものを感じた。
「ゴブリンの文様を君たちが依頼で見つけたように、前兆を感じ取ることができるかもしれない。現状、こうして頭を突き合わせるよりはマシだろう。それに、不確定の恐怖に怯えるよりは身近な恐怖から取り除くべきではないかな?」
「それは……そうかもしれませんが」
「俺もアンナさんに賛成だ。何より、お前らが依頼解決に動いてくれると調査にあいつも使えるからな」
「……? あいつって誰ですか?」
ルイーナが疑問を口にすると、ダグさんは片眉を上げた。まるで俺たちがもう知っているかのような態度である。俺たちに面識があってダグさんの知り合い? 候補は2人くらいだが。
「リズだよ、リズ。ギルドで会わなかったか? あいつがいつも調査を依頼してるシーフなんだ」
「えぇっ!? じゃ、じゃあリズちゃんヴィーゼ王国にも行ったんですか!?」
「軽く、だけどな。襲撃受けてすぐに戻ったって言ってたぜ。あいつも情報調査のプロだからな。お前たちが依頼解決してくれてると、そっちにリズを割かなくていいから進展があるかもしれねぇってことさ」
なるほど。彼女が情報収集の手練れだと言うなら短い時間で手がかりを見つけてくれるかもしれない。俺たちよりもよほどうまくやってくれるだろう。今すぐに動けないのはやきもきするが、ここはアンナさんたちの提案に乗る方が賢明だ。
「俺たちは依頼を受けながら、アルタールとの接触を図るのが一番のようですね」
「そういうことになる。君たちは今できることを頑張れ。さて、そろそろ私たちも行かなくてはならない。話を聞かせてくれた礼だ、私が支払っておこう」
「わ、悪いですよそんなの!」
「情報屋にとって今回の話は奢るぐらいでは足りないぐらいさ。それぐらいに価値がある。何か私たちにさせてくれないと申し訳ないのさ」
伝票をひょいと掴み取ると、アンナさんはにっこり笑う。
「すみません、ありがとうございます」
「今度何か運ぶもんあったら言ってくれよなァ。安くしとくぜお二人さん」
「ふふ……、ではさらばだ諸君。有意義な時間であったよ」
くるりと踵を返し、出口へと向かっていく。現れた時と同じようにゆったりと余裕のある動作だ。ダグさんも新しいタバコを蒸かすと、親指を立ててニッと笑う。
「何かあったらうちに来てくれよな。助けになるぜ」
「心遣いありがとうございます、ダグさん」
じゃあな、と彼もアンナさんに続く。カランカランとベルを鳴らして二人の姿は扉の向こう側に消えた。
ふぅ、と息を吐いた。気を落ち着かせるため、カップを傾ける。しかし、中に残っているのはわずかな水滴のみだ。気づいてはいなかったが、俺もかなり緊張していたようだ。そりゃああれだけすごそうな人が目の前にいたらこうもなる。……師匠と強さは同等かもしれない。
「俺たちも出るか。ソルの買い出しがあるしな」
「そうだね、遅くならない内に帰らないといけないし」
3人で連れ立って店を出る。心強い味方ができた。それだけでも大きな収穫と言える。大丈夫だ、今度は間違えない。絶対に誰も死なせるものか。
§
店を出てすぐにその姿が目に入る。それに気づいたのは果たして偶然だろうか。
通りを歩く群衆の中で、ふわりと風に靡く銀色の髪。病的なまでに白い肌と、彼女の髪と同じ色の銀造りの額当て。小さな赤い宝石がその中心に埋め込まれている。青色のマントを身に纏い、その下から見えるのは太陽の光を眩く反射するアダマンタイトの鎧。
ドクンと心臓が跳ね上がる。ありえない。それはありえない。だって、彼女は間違いなく俺の腕の中で…。
ーー生きて……アレン…。どうか、あなたは……みんなを守れる……強い…人に……。
息が乱れる。ガンガンと頭の内側から金槌で叩かれてるかのように頭痛がする。視界が揺れ、俺はただその人物一点を見つめていた。
誰かの声が聞こえる。誰かが俺を呼んでいる。
けれど、そんなことが気にならないくらい、俺の意識はその人物に向かっていた。
彼女はふと、俺の視線に気づいたのかくるりとこちらを振り返る。そしてクスリと小さく笑うと、その口で3つの形を作り出した。
『ま、た、ね』
「ミアさん!!」
その瞬間、俺の中で何かが弾けた。俺は自分を抑える何かを振り切り、彼女に向かって走り出す。邪魔になる障害を押しのけ、ただ一直線に彼女に向かっていく。彼女は必死な俺を一目見ると、困ったように笑って背を向ける。まるで会うときは今ではない、と告げるかのように彼女の背は遠ざかっていく。
目の前を邪魔する何かが鬱陶しい。もつれそうになる足を必死に動かして、苦しくなる肺を懸命に抑え付けて、遠ざかる彼女に手を伸ばす。
「なぁ、ミアさん!! あんたなんだろ!?」
彼女からの返答はない。彼女は俺の呼びかけに全く答えることなく、進んでいく。
どうしてだろう、俺は一生懸命に走っているはずなのに、微塵も彼女に追いつきやしない。全く届かないこの手が、まるであの時彼女を失った時みたいで悲しくなる。
「ミアさん、返事をしてくれよ! ミアさん!!」
通りを走り、十字路に出た瞬間、がくんと急に後ろへと引っ張られた。無様に尻餅をついて地面に転ぶ。と、次の瞬間ギャギャギャと大きな音を立てながら俺の道を塞ぐように数センチ手前で馬車が停止した。
『おい、危ねえだろオメェ!! 急に出てくんな、気をつけろ!!』
心臓の鼓動は早鐘を打つように。全身汗まみれで張り付いた髪が気持ち悪い。御者台に乗っていた男が何言か悪態をつくとガラガラと馬車は遠ざかっていった。通り過ぎた馬車の向こうに既に彼女の姿はなく、ふつふつとどうしようもないやるせなさが湧き上がる。
この一瞬、俺は状況をまるで理解していなかった。分かっていたのは俺が彼女を見失ったことだけ。ギリリと奥歯を噛み、握りしめた拳を地面に叩きつけた。
「クソォ!!」
『アンちゃん、無事か? 怪我ねぇか?』
痛む拳も気にならないくらい今は心が痛かった。無事であったなら、どうして言ってくれなかったのか。なぜ俺から逃げるのか。様々な疑問が渦巻き、ぐるぐると頭の中を埋め尽くす。
「アレン!! 急に走り出してどうしたのさ!?」
「お、おい、姉ちゃん。ちょ、ちょっと待っ…どわっ!! す、すまねェ!」
「ねぇ、アレン! ……アレン?」
あれは間違いなくミアさんだった。あの特注の額当て、それに流れるような銀色の髪。俺の記憶にあるミアさんの姿に間違いない。だったら、どうして……。
「アレンってば!! ダメだ……、反応してくれないよ」
「とにかくここじゃ邪魔だぜィ。一旦あっちの座れるところへ移動しねェか」
肩を貸され、俺はぐるぐるとした思考から抜け出した。
「ソル……?」
「ったく、オレらの呼びかけに答えねェと思ったら今度は急に走りやがってよォ。なんでそんなことしたのか話してもらうぜ」
「……あぁ」
もう自分で歩ける、と言って自力で立つ。乱れていた呼吸は魔力の喪失とともにすぐに治った。それと同時に思考は徐々にクリアになる。二人にすまない、と伝え、俺は歩き出した。
ルイーナは俺を心配した眼差しで見ていた。もう大丈夫だ、と伝えるが彼女によれば俺の顔色は真っ青なようだ。こんな時気分を回復する魔法でも使えたらどんなにいいだろうと思う。そんなものはないから結局無い物ねだりになるのだけれど。
俺たちは終始無言だった。問題の中心である俺が無言だったと言うこともあったのだろう。ベンチに着くたかだか数分はとても長い時間のように感じられた。
「んで、なんであんなことしたんだ兄ちゃん?」
「……死んだ知り合いが歩いていた」
「…………おゥ?」
「名前はミア。数年前、俺が殺した人間の女性だ」
色々とひと段落したので、小説を再開してます。
長い間お待たせしてすみません。1週間に1本を目処に進めていきます。
2018/5/20 タイトルを手直ししました
2018/10/14 タイトルを修正しました。