EP 26 彼らの決起
どうぞ
ぱちりと靄が晴れたようにやけにすっきりとした気分で目が覚めた。同時に俺の顔を覗き込んでいたルイーナとも目が合う。彼女はしばし目を瞬かせていたが、俺が起きたことが分かるとにへらと破顔した。
「おはよう、アレン。久しぶりだね」
「あ、ああ。おはよう、ルイーナ。それと久しぶり…?」
言われてみれば確かにルイーナと会うのが久しぶりというような気がしてくる。しかし果たしてどういうことかと考える前に俺の腹が凄い音を立てて自己主張を始めた。ぐぅるるおぉぉ、みたいなともすれば獣の鳴き声か何かと聞き間違えそうなほど。
ルイーナは再度ぱちくりと目を瞬かせ、あははと軽く笑った。
「笑うな、恥ずかしい…」
「まぁ仕方ないよねぇ…。なにせアレンったら1週間ぶりに起きたんだもん」
「ったく、ずっと寝てたんだから………ん?」
おかしい。今彼女の口から出た言葉にはどこかしら違和感を感じるべきところがあった。
もう一度彼女の言葉を反芻する。しかし胃袋の反乱はそう簡単におさまるものでもなく、寝起きの思考をまとめ上げる邪魔ばかりする。仕方ないので彼女にもう一度同じ言葉を言ってもらうことにした。
「すまん、ルイーナ。今の言葉、最後の部分をもう一度聞かせてくれるか?」
「最後の部分? えっと…、『1週間ぶりに起きたんだもん』」
ほぅ、『1週間ぶりに起きたんだもん』、『1週間ぶりに起きた』、『1週間ぶり』……。
その後、俺の驚きの声が家中に響き、何事かとソル達が慌てて入ってきたのは言うまでもない。
§
ぶちぃ!と勢い良く繊維を引きちぎる音。
ソレの舌の上では久々に味わう肉が転がり、喜びを絶えず感じ続けている。決して高いものではない。たかだか銅貨数十枚で買える程度の安肉だ。けれどそんなことも些末事に思えるほど、飢えに満ちている。がつがつと咀嚼し、大げさなまでに飲み込む動作をすると、獣のように大きく息を吐いた。
次いで食べられない残骸は用済みとばかりに皿の上に投げ捨てられた。しかもきっちりと机の上は汚さずにである。
次なる獲物を求め、その手に握られたフォークが踊る。翻るフォークの先にはいつの間にか新たな獲物が刺さっている。
呆れたように見るソルが瞬きする間にその先端にあった獲物は姿を消している。
なんということはない。ソレは一瞬の内にフォークの持ち主に喰らわれただけである。噛み締めるように味わうその顔は実に満足気であり、ブラド爺さんはその手のカップを傾けながらほっほとその様子を笑っている。
「あのよォ…、いくらなんでも詰め込みすぎじゃねェか? 姉ちゃんかなりへばってんぞ」
彼がちらりと視線を向けた先は厨房。パタパタと目まぐるしくーーあまりの忙しさに最早ぐるぐると目が渦巻いているようにも見えるーーかまどや水場を行き来するのはルイーナである。彼女はささっと料理の乗った皿をテーブルの上に置いて行くとすぐさま厨房へと引っ込んでいった。
ソルたちも手伝おうとしたようだが逆に動く邪魔になるからと追い出されてしまったらしい。不承不承テーブルにつき事の成り行きを見守っている。
だがそんな様子をちらとも伺わず目の前に並ぶ料理に釘付けになっているソレこそ、長い休息から目を覚ました俺、アレンである。
右手にフォーク、左手にスプーン。鬼神もかくやという気迫で次々に料理に挑んでいく。皿の上に並ぶ数々の料理はほかほかと湯気を上げる暇もないほどにたちまちに消えていく。シメン鶏の丸焼き、ロールキャロル、ナグダ茄子の漬け煮、オートミールに焼き腸詰め肉……。それらが神隠しにでもあうかのように消えている。
ソルは何も言うまいと口を閉ざしていた。ただ額に手を当て、難しそうに顔を顰めるばかりである。
「どこまでもつかのぅ…。いくらなんでもここまでの食欲じゃと食材の方がもつかが心配なのじゃが…」
『ひゃー! どうしよう、ソル! 調味料が尽きちゃった!』
厨房から聞こえてくるルイーナの悲鳴にソルは口元をひくひくと引きつらせこめかみに青筋を立てた。
「おいおい…、こちとら数週間は軽く保つ買い出しだったんだぞ…」
「………んぐ。いやぁ、悪いな。普段はここまで食わないんだが、なにぶん腹が減ってしまってな」
そう言いつつも翻るフォークは止まらない。次々と俺の口の中に運ばれては胃の中に消えていく。
「本当にそう思ってんならちったァそのフォークを止めろよなァ!?」
切実なソルの叫びも虚しく、その後も俺の手の速度が緩まることはなかった。
ちなみに満腹になった俺が両手の食器を置いたのはそれから実に1時間ほど後のことである。ルイーナはもうダメ…、と目を回して倒れ、ソルは食料庫の中を見てがっくりと肩を落としたのは言うまでもない。
「ったく…朝から叫ぶわうちの食料食い尽くすわ、少しは遠慮ってモンをしろよなァ…」
「悪かったって。でも生理現象なんだから仕方ないだろ」
ソルの言葉が少しだけ嫌味っぽく聞こえるのは俺の気のせいではあるまい。
厨房の方には山のように皿が積み重なっている。ルイーナはうず高く積み重なる皿の山を見て嘆息していた。それに含まれるのは果たして感嘆かそれとも呆れか、おおよそ後者あろうことは想像に難くない。
後で洗うようには言っているのでしばらくはあのまま置いているつもりだ。重なる山はいつ崩れるやら少々怖いものである。
4人で席についているものの、ルイーナは朝からのオーバーワークで机に突っ伏している。心なしか白い靄が口から出ているのは気のせいに違いない。
ブラド爺さんは笑みを浮かべたまま先程届いた朝刊に目を落としていた。
「おかげでまた都に行かなきゃなんねェ。まだ次の商品は微塵もできてねェってのに…」
「俺が後で金を出すからさ、機嫌直してくれよ」
「あったりめェだ! 兄ちゃんが食った分の7割はきっちり出してもらうかンな!」
ふんすと鼻息も荒くまくし立てる。それでも全額と言わないだけ良心的である。
しかしあれだけ食べたせいかは知らないが身体の調子は随分と良好である。体力もかなり戻ったようで『リジェネ』がやたらめったら発動することもない。
長く眠っていたということもあったのだろう。身体のなまりは気になるところだが追々考えていこう。
手を握ったり開いたりしていると、いつの間に頭の向きを変えていたのかじーっとルイーナがその様子を見つめている。
「身体、元に戻った?」
「ああ、おかげさまでな」
「そっか、なら良かった」
ふんわりとルイーナは笑みを浮かべた。
一瞬だけ眠る前にブラド爺さんが言っていた言葉が蘇る。無駄ではない、無駄ではなかった。
まるで自分に言い聞かせるように小さく呟くと、じっと顔を見つめる俺をルイーナは不思議そうに見ていた。なんでもないと意味を込めて頭をかき回してやった。
ルイーナはわっ!と悲鳴を上げると、ぼさぼさの髪を直しながら頬を膨らませた。
「さて、いちゃついてるとこ悪ィが情報交換といかねェか、兄ちゃん? 随分と遅くなっちまったけどよォ」
「なっ…!? い、いちゃ…!!」
「落ち着け、ルイーナ。こちらこそ願ったり叶ったりだ」
顔を真っ赤にするルイーナを宥めつつソルの提案に頷く。
どこから話し始めようかと悩んだ末に、俺はリベリオンを貰ったあの日のことから話すことにした。
姿を変え見知らぬ魔法を使う少女アルタールの存在、この世のものとは思えぬ魔物、"大厄災"の名を冠する首飾り、この世界に伝わる伝承、そして王都の崩壊。
アルタールの話をした時に、ブラド爺さんがわずかにではあるが眉をぴくりと動かしたような気がした。
詰まりながらもとつとつと語ることができたのはある程度俺の中でも整理がついたおかげだろう。
致命傷を負いながらもアルタールの転移の魔法でこの地へやってきたことまで告げて、俺は2人の反応を伺った。
2人の反応は俺の予想に反してさして驚いてはいないようだった。訝しむ俺に対してソルがルイーナから先に話を聞いていることを告げた。俺達の聞いた話の内容にそう違いがないことを確認できたか、彼らはいやにあっさりと俺達の話を信じた。
「話す張本人の俺が言うのもなんだけど、簡単に信じすぎじゃないか?」
「こう見えてオレは人を見る目だけはあるんだぜ? 兄ちゃんたちは悪い奴じゃァねェよ」
ニヤリと笑ってソルはそう言った。
「それに、わしらとしても信じざるをえない情報が入っとるからのぅ…」
ブラド爺さんは近くの棚からいくつか紙の束を取り、それをテーブルの上に並べた。日付はバラバラだが、どれもつい最近のものである。
がさがさと紙面を捲り、それを俺の前に差し出した。
ルイーナはもう見た後なのか落ち込んだ顔をうつむかせている。
紙面に目を通していくにつれ、俺の顔は否応にも厳しくなっていった。
ヴィーゼ王国の様子はかなり酷いようだった。王都であるカノーネも完全に破壊され、廃都と化している。最早前のような活気は見られず、国中に散らばっている生き残った人間たちも化け物たちに見つからないよう息を潜めて生活をしているようだ。
王も王位継承者も行方が知れない。普通に考えればアレに巻き込まれたと考えてもいいだろう。統治者不在のため国としての機能はほとんど停止し、崩壊は時間の問題であるとも綴られている。
更にはあの悪魔たちも徐々にその活動範囲を広げ、国境線へと迫りつつあるとの話もあった。
「……これは真実だと思っていいのか」
「多少の脚色はあれ、ほとんどは事実に違ェねェ。なにせ国お抱えの調査員まで投入したらしいからよォ。どうせ上の連中は火事場泥棒でもしようってんだろうぜィ」
「国の思惑がどうあれ良くない状況であるのは確かじゃろうな」
ヘッと吐き捨てるようにソルが言うとそれを補足するようにブラド爺さんが締めくくった。
時間の問題…か。ヴィーゼ王国とヨルド国の仲はそう悪くないはずだが、国の関係など状況によっていつでも変わる。国力が大幅に減衰したヴィーゼ王国の領土へ進軍しようと考える奴がいてもおかしくはないのだ。実際、ヴィーゼ王国の東に位置するレブラスノーでは国境周辺に戦力が集中し始めかなりきな臭い動きがあるようだ。
それに残してきたリリアーナのことも心配だ。一刻も早く王都に戻らなくては…!
「おまけに今はヴィーゼ王国が非常事態なせいでカノーネ行きの飛行便は全て欠航。国境線の火山トンネルも警備がかなり厳しい。今ヴィーゼに侵入しようってのはだいぶ無理があるだろうよォ」
「それじゃあ王都に戻るのは…」
「諦めた方がいいだろうなァ。行ったところで何ができるって話でもあるぜ、姉ちゃん」
厳しい言葉だが彼の発言は的を射ている。
ヨルドの東にある国境線を超えたところでその先に安全地帯はない。今までは街や村という体を休める場所があったが今は違う。書物の悪魔たちが国全体に活動域を広げ始めている以上、国を渡ることはいついかなる時も気の抜けぬ時間を過ごすことと同義だ。
大人数ならばいいだろう。それこそ一国の軍隊の規模であれば多少の無茶は数で埋められる。無論、長くは続かないがたった二人で戦い続けるよりは遥かにマシである。
だが俺達にそんな当てはない。聖法協会もこの国に支部はあるがカノーネのものと比べれば遥かに小さい。強行軍でカノーネを目指したところで命を落とすのは目に見えていた。
「ねぇ、書物の悪魔ってそんなに強いの? 私その悪魔自体を知らなくて…」
「それに関してはオレも同意だ。あちこち回ってるけどそんな話は聞いたことねェぜ」
「書物の悪魔自体に焦点を当てた文献は殆どない。知らなくても無理はないな」
書物の悪魔はその存在自体がほとんど知られていない。一応"大厄災"と共に伝承の中で語られている。とは言っても伝承の隅っこで禁魔の書を用いて悪魔たちを使役し、村を滅ぼしたと書かれているだけである。
伝承の中では"大厄災"とそれを打ち破った勇者たちの奮闘が華々しく語られているので目立ちにくいのもあるのかもしれない。
このことは聖法協会の教育でも教えられるが、果たして何人の神官が覚えているやら…。師匠は"大厄災"の話をする時は度々この悪魔たちを話題に出し、知名度が低いからと言って侮るべからずとよく言っていた。
また書物の悪魔たちはそのほとんどが異形の姿をしており、醜悪さに満ちている。見るものに恐怖と嫌悪感を与え、本能のままに暴れる様はまさに悪魔と呼ぶに相応しい。
あの時遠見で見た悪魔たちの姿は本に載っていたものとほぼ相違ない。
強さに関しては書かれていなかったが、恐らく並の冒険者では歯が立たないはずだ。師匠はぽつりと存在しなくてよかったわ、と漏らしたほどなのだから。
「奴らは狡猾じゃったよ」
そう呟くブラド爺さんの声は沈んでいた。まるで何かを思い出すように目を閉じている。
「知ってんのかよ、爺」
「…屈強な戦士たちは次々と殺された。奴らはただ力が強いだけではない、策を弄し罠を張り着実に屠ってきおる。そこらの魔物などとは比べ物にならぬよ」
「……なんてェふざけた話だ」
「接触はしない方が賢明じゃろう。その命が惜しくばの」
暗に王都行きを諦めるべきだとブラド爺さんは告げる。
彼の理屈は分かるのだ。次々と湧き出る未知の敵を振りきって王都へとたどり着けるほど俺の実力は高くない。そんなことは流石の俺でも分かっている。
それでも師匠たちの安否が知れぬ以上、やはり俺は王都へと戻りたい。危険だと分かっていても手をこまねいて待つのは嫌なのだ。
「…………っ」
「アレン……」
「……それにのぅ、何もせず待つというわけではあるまい」
「兄ちゃんの言ってた伝承の封印ってやつか」
「そのとおりじゃ」
ブラド爺さんは俺の持つリベリオンを机の上に置くように指示した。俺は頷いて首にかけていたリベリオンを外し、皆に見えるように机の中心に置く。
宝石が光に反射して眩く輝く。不思議なことにあれほど激しい戦闘に合いながら傷は全くない。表面の光沢は見る者を魅了するかのようだ。
7つの宝石の内、緑色の宝石だけが蛍火のように淡く断続的に光を発していた。
「アレン、主は風を操る魔物と戦い、そしてそれが光となってこの首飾りに吸収された。それに間違いはないの?」
「間違いない。それは俺だけじゃなくてルイーナも目撃している」
俺の言葉に同意するようにルイーナは頷いた。
「そしてその魔物はヴィーゼ王国の魔の森にて初めて目撃された。これが意味するところはつまり…」
「おい爺、まさかその魔の森が"大厄災"の風の力が封印されていた場所だったってことじゃァねェだろうなァ?」
「その可能性はあるという話じゃよ」
それは俺の頭にガツンと重い一撃を喰らわせるようだった。であれば俺達が対峙したあの魔物は…。
「じゃ、じゃぁ私達が戦ったのは…もしかして…」
「おいおいおいおい! いくらなんでも荒唐無稽ってェやつだぜ爺!! 姉ちゃんも考えてみろよ。おかしいところだらけじゃァねェか」
ソルは大仰に手を広げ、馬鹿馬鹿しいとばかりに言葉を紡ぐ。ブラド爺さんは眉根を寄せたまま、ソルの指摘に耳を傾けた。
「仮に爺のいう話が正しいとしてだ、"大厄災"は何故姿を現さない? 一つでも封印が解けてたってんならよォ、他のところだって怪しいもんだ。伝承に語られる通りの性格だとすりゃァもう地上に現れて暴れまわっててもおかしくねェぞ」
「封印はまだ完全には解けておらず、それを防ぐために守護者が出張ってきたってところじゃないかのぅ」
「もう一個怪しいところがある。その守護者ってのがわざわざ兄ちゃんに首飾りを渡したってところさ。自力で倒せるんなら兄ちゃんに渡す必要なんざねェ」
「だけどあの魔物の強さは本物だったよ。今までと比べ物にならないくらい…。それこそ今こうやって生きてるのが不思議なくらいだもん…」
「そりゃァそうかもしれねェけど…」
ソルの言葉は尻すぼみに消えていく。
目を伏せて語るルイーナの言葉は重い。なまじその場面に直面し、死と隣り合わせでいたからこそ反論を許さぬ説得力があった。
そして俺もまたブラド爺さんの示す考えはそこまで突拍子もない話とは思っていない。
これは単なる感覚で理屈こそあった話ではないのだが、今のリベリオンに貯められた風の魔力は黒馬のものとよく似ているのだ。
濃密な風の性質をふんだんに含み、どろりと飴細工のようにねっとりとした感覚は感じるだけで不快感を催す。
前にも言ったが魔力はただのエネルギーだ。魔力を単に放出したからと言って炎やら水やらがでるわけじゃない。あくまで魔法を発言させるための燃料なのだ。
だがこいつは魔力というエネルギーでありながら既に風という性質をもっている。つまり黒馬戦の時のようにこの魔力を開放してやればたちまち風が巻き起こるのだ。これは魔力がただのエネルギーであるという法則と矛盾し、特別な何かだと俺達に思わせざるをえないのだ。
「わしらには分からない何かが起こっておると、考えるべきなのじゃろうな…」
それきり話は停滞し、皆黙りこくってしまう。
スケールが大きすぎて頭が話についていけないというのが一番なのではないだろうか。かくいう俺も話を頭の中でまとめるのに尽力していた。
話は予想以上に大きい。俺達の一挙手一投足がこれからの世界の存亡に関わるかもしれないなんて言われれば驚くのも当然である。
アルタールが一体何を想って俺にこれを託したのか。考えれば考えるほどわからなくなる。思考は空回り、どんどんと沈んでいく最中、ソルは突然に立ち上がり大声で叫んだ。
「だァァ!! まどろっこしい。考えても何が正しいかどうかなんて分かんねェっての!!」
「ソ、ソル?」
ルイーナは突然奇行に走ったソルを心配そうな目で見ていたが、そんなことを気にすることもなく人差し指を俺達の前につきたてニヤリと笑った。
「兄ちゃんと姉ちゃんはひとまずオレと一緒に都へ買い物へ行く! 小難しい話はまた話が入った時に考えればいいじゃァねェの!」
「……そうだ。今ここでいくら頭を捻っていてもどん詰まりになる可能性の方が高い。王都に戻りたい気持ちもあるけど、今はこっちで情報を集めることを優先しよう」
「ほっほ、それがよかろう。二人共寝泊まりするところもなければここにしばらく滞在するとよいぞ」
「え、いいんですか!? ありがとうございます、ブラドさん」
少しずつ話がまとまり始める。答えの出ない問を俺達は棚上げすることにした。
拳を握り、フゥと息を吐く。ひとまず王都はお預けだ。
それにもしも伝承が正しいとすればここもまた戦場になる可能性がある。
『飛ばす場所はヨルド国! 伝承に語られる火なる国…! 貴方たちはそこで次の力の手がかりを探しなさい! 私もすぐに追いつきます』
『詳しいことはその首飾りが教えてくれるでしょう! リベリオンの導きに従いなさい…!』
そうだ、彼女も言っていた。伝承に語られる火なる国、ヨルド。
いずれ再開するあの少女に話を聞かねばならないだろう。そのためには俺達はこの地にとどまらなければならない。
机に置かれたリベリオンは窓から入った光を反射して赤色の宝石を僅かに光らせていた。
アレン再起。一行は新たな手がかりを目指してヨルドをゆく。
2017/11/28 文章表現を少し改定しました。
2018/10/14 タイトルを修正しました。