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鋼鎚使いの無能神官  作者: しらぬい
第1章 流嵐の王都編
21/45

EP 19 それでも尚彼は立つ

投稿が遅れてしまってすみません。それではお楽しみください。


2018/10/14 タイトルを修正しました。

2021/7/4 文章の表現を一部変更しました。





 暗い…。痛い…。ここは、どこだ…?

 何が起こった。一体なぜ僕はこうして暗闇の中にいる。

 わけが分からない。僕はあいつらと街を歩いていたはずだ。アレンの奴にむしゃくしゃした腹いせにいつもの店に行こうとしていたはずなのに、急に視界が暗転したと思ったら…。


 全身の痛みが治まらない。まるで火で炙られてるみたいだ。

 クソ! 誰か僕に回復(ヒール)をかける奴はいないのか! あいつらはどうした! いつまでぼさっとしてるんだ。さっさと僕を助けろよな!

 畜生! 痛みで集中できやしない。こうなれば仕方ない、自分でかけるか。あいつら、見てろよな。僕を放置したことを後悔させてやる。


「…ぅ、ぐぅ…っ!!」


 治りが遅い。全身くまなく傷がついてやがる。

 ほとんどがかすり傷みたいだがまるで鈍器で殴られたみたいにいくつも痣ができてるらしい。両足も、左腕も、それから…。


「…………は?」


 お…、おい。なんだよそれ…。冗談だろ…!?

 ふ、ふざけるなよ。僕を誰だと思ってやがるんだ! 僕は神官のトップに立つ男だぞ! こ、こんな…、こんなことがあってたまるか!!


「ぁが……! あァああァァァああああああ!! ぼ、僕の右腕がァァァァァ!!」


 ない!! ないないナイナイナイナイ!! 僕の右腕がない!!

 痛い痛い痛い痛い痛いイヤダイヤダイヤダイヤダ! なんで…なんで、僕がこんな目にあわなきゃいけないんだ!


「ぁ…ぁあ………!!」


 血が、血が止まらない。回復(ヒール)でもダメだ。止まれ、止まれ止まれ止まれ止まれ止まれとまれとまれとまれとまれとまれ。

 い、いかないと…! だ、誰か僕を治癒できる奴のところへ行かないと…! くそ、どけ、どけよこのガラクタ!!


 ……明かり? いや、これは…。


「……ぁ。お、おい、嘘だろ…」


 街が……燃えている…。死体もいくつも転がっている。

 いや、そんなことはどうでもいい。それより、僕の、僕の右腕を治せる奴は…。

 歩いている途中、何か踏んづけた気がした。けど、どうでもいい。どこかで見たようなモノだった気がしたけど、どうでもいい。


「そ、そうだ…。きょ、協会へ。『聖法協会』へ行けば…!」


 僕の腕を治してくれるはずだ。僕以上の、上官に頼めばきっと再生してくれる。


「くそぉ…! くそぉぉぉ…!! どうして、どうして僕がこんな目に!」


 全部、全部あいつのせいだ…! あいつが目障りだから! 僕がこんな目に!


「クソが…!」


 許さない…。許さないぞ、アレン・ストライフ!!

 このジュード・アストラルの怒り、いつか思い知らせてやる…!!




§





 対峙するは暴嵐の黒馬。凄まじい威圧感と風が容赦なく体に叩きつけられる。

 いよいよもってあちらはこちらを敵と認識した。その攻撃は今までの比にならないだろう。

 鋼鎚を構え直す。


「ルイーナ、気をつけろよ。あいつの強さはそこら辺の魔物と桁違いだ」

「うん、分かってる。私もさっきのを見てたからね」


 ルイーナは頷きつつも黒馬からは目を逸らさない。奴が遠距離からでも攻撃できると分かった以上、一瞬たりとも油断はできなくなった。

 それに、あの極大な風の攻撃のこともある。なるべく奴には攻め手を与えてはならない。

 目と目で意志を交わし合い、足に力をみなぎらせる。


 一呼吸の後、体はバネのように前方へはじき飛んだ。

 肉薄する。上方からの警戒を忘れず、鋼鎚を大きく横へ振りかぶる。

 狙うは足。まずは奴の機動力を奪う…!


 だがそれを素直に喰らう黒馬ではない。迫る俺に対して同じく前脚を振りかぶった。

 まともにぶつかれば前の二の舞だ。俺の鋼鎚の威力は相殺され、奴は遠慮なくその一撃を叩き込むだろう。


風精(シルフェン)!!」


 だが今度は一人じゃない。

 俺の体は後方から押し出されるようにしてその勢いを増した。踏み出した足は空を滑るように大きく前へと着地する。

 黒馬の一撃は虚しく空を切る。

 黒馬とすれ違うように左側へすり抜け、後右脚めがけて鋼鎚を振りぬいた。


「でりゃぁぁぁ――!!」


 鋼鎚は外れることなく奴の後右脚に叩き込まれる。

 …が、手に伝わるのはあの時と同じく、分厚い壁を殴るような感覚だった。

 障壁。目で確認しなくとも分かる。奴はまた喰らう直前に風の障壁を出現させたのだ。


「このっ…!!」


 黒馬が嘶く。

 硬質化した毛は鋭い槍のようにその形状を変え、まるで矢でも放つようにいくつも勢い良く飛び出した。

 バックステップ。後退すると同時に鎚頭でそれを迎え撃つ。

 轟撃の連続。見た目からは想像できないほど硬いそれは切っ先を逸らすだけでも精一杯だ。


 一撃が見舞われる度にふわりと風が頬を撫でる。こいつ、単に硬質化してるだけじゃなくて、風で後押ししてるのか!

 鎚頭にぶつかる度に甲高く音が鳴り響く。

 その勢いはまるで弱まるところを知らず、むしろぶつかる度にその勢いを増していた。


「――そこぉっ!!」


 死角から現れたルイーナが剣を振るう。振るわれた切っ先は黒馬の胴めがけ振り下ろされた。


風精(シルフェン)!!」


 彼女の双剣に風が絡みつく。

 風の精霊による付加魔法。その効果は一撃の鋭さを倍加させる。


 だが、素速く回転した黒馬にその一撃を白銀の角で受け止められる。

 衝突の瞬間、勢い良く風が吹き荒れた。今までとは桁違いの出力にルイーナは口元を歪め、その勢いに任せて離脱する。猫のように軽やかに着地した後、再び斬りかかる。

 同時に俺も猛攻を捌ききり、一撃を叩きこむべく両手で大きく振りかぶった。


 俺達の攻撃が黒馬に直撃するのは同時だった。

 どちらかが防がれたとしても、必ずどちらかが命中する。その確信があった。

 だが、その確信とは裏腹に黒馬は体と障壁を器用に使い、そのどちらをも防いでみせる。


 なんて奴だ。一向にこちらの攻撃が通る気配がない。いくら猛攻をかけたところで、奴はその全てを捌ききる。

 間断なく繰り出される俺達の攻撃を、黒馬はなんなく凌ぎ続けた。


 ルイーナの連撃はまるでかまいたちの様に。一瞬にも満たぬ一撃はまるで旋風のごとく。

 されどどの一撃も傷を与えるには至らない。角に、蹄に、その閃撃を弾かれ、悔しげに唇を噛む。

 俺の渾身の打撃も尽く障壁に防がれ、体力(スタミナ)と魔力だけが奪われていく。


 大きく鳴り響く金属音。体とぶつかり合う毎に舞う火花。

 攻め手を変え、タイミングを変え、それでも届くことはない。

 それどころか、黒馬の反撃はその激しさを増し、無傷な奴とは裏腹に次第に俺達の体にはいくつも傷がつき始めていた。


 汗が頬を伝う。

 息は荒く、失われた体力(スタミナ)を補うため、魔力が急速に失われていく。


 ――甘かった。風の障壁だけじゃない。運動性能が他の魔物と段違いだ。


 一で攻めればその十倍で返ってくる。一撃を繰り出すだけでも命がけだ。

 攻め方を誤れば俺達はあっけなく殺されるだろう。

 故に一手一手が必殺。

 確実に攻めきれると確信したその時のみ、その獲物に力を込める。


「おらぁっ…!!」


 巻き起こる旋風。地面すれすれを奔る鎚頭は狙いと違うことなく黒馬の横っ腹に命中する。


 ――だが無意味。

 たとえそれが必殺の一撃であれど、風の障壁で止められた鋼鎚はぴたりと止まったままその壁を破ることはない。

 圧倒的な力の差が今、壁となって立ちはだかっていた。

 

「クソッタレェ――!!」


 咆哮をあげる。

 無駄だと分かっていても、俺は引き下がることができなかった。

 何度も何度もこの鋼鎚を打ち込んだ。それでも(いま)だ、ただの一発も奴には届かない。まるであの黒馬だけがこの世界から隔絶しているかのように遠い。

 刻々と過ぎていく戦闘に焦っていた。初めから勝てる可能性が薄いのは分かっている。だが、現実はあまりにも厳しかった。


 それが自殺行為だと理解している。

 それでも踏み込んだ足は地面に縫い付けられたように強く地面を踏んでいる。意志が、警鐘を鳴らす理性を押しのけるようにして前へと叫んでいた。



 ――体が弾け飛ぶ。


 届かない。無謀な一撃というベットに俺は代償を支払うことになる。


 ――ああ、今のはダメだ。今のはまともに喰らった。


 防ぐ暇もなかった。無防備な腹に黒馬の雲毛の一撃を受ける。

 腹部を通して伝わる衝撃は全身を駆け上がり、脳天から足の指まで余すことなく浸透した。


 体が宙を飛ぶ。

 まだ体が繋がっているのが不思議なくらいだ。本能で避けたのかあるいは幸運か、体はまだどこも欠けてはいない。

 だがそれだけだ。欠けてはいない、それだけ。

 たった一撃で気絶しそうな程、意識は朦朧としている。

 不思議と痛みはない。腹に残っている重い感覚と、頭の奥からジンジンと意識を切り離そうとする心地よい感覚があるだけだ。だがそれに身を任せれば、待っているのは死だけだとぼんやりと考えていた。


 長い。もう何分も空中を飛ばされているように思える。

 時間はその役目を放棄するつもりなのか。いつしかこのまま時が止まってしまうのでないかと錯覚しそうになる。


「がっ―――………!!」


 長く、永遠に続くかと思われた時間は唐突な激痛とともに終わりを告げた。


「あ――ぐっ―――………!!」


 

 何度も地面をバウンドし、その度に鈍器で殴られたかのような衝撃が全身を襲う。そのまま地面を滑ってようやく俺の体は止まってくれた。


「アレン!!」


 急速に意識が覚醒する。まるで全身の細胞が今目覚めたかのように激痛を訴え始めた。

 呼吸をすることもできない。酸素を求めて喘ぐくせに、息を吸う度に肺が切り刻まれるように痛み出す。

 全身の筋肉が硬化してしまったように動かない。ギシギシと、まるで鉄の塊にでもなってしまったかのように体は重い。


 無理矢理に頭を上げ、霞む視界でかろうじて見えたのはこちらに駆けるルイーナの姿。

 そして、その彼女ごと俺を吹き飛ばさんと白銀の角に魔力を集めるおぞましい黒馬だった。


 ――来るな…!


 そう口にできたのかはわからない。

 今の俺に分かることはただ一つ。このままではルイーナも俺に巻き込まれ、殺されてしまうということだけ。

 あの(まばゆ)く輝く角は間違いなく、城壁を破壊したあの一撃の前触れだ。


 それはダメだ。それだけは認められない。それだけはあってはならない。たとえ俺がこのまま殺されるのだとしてもそれだけは防がなければならない。この身を犠牲にしてでも守らなければ、お前はまた後悔することになる。お前に課せられた盟約に背くことになる。体が動かないのなら動ける方法を模索しろ。全力で頭を回せ。自分の持ちうる全てを思考に賭けろ。回せ回せ回せ回せ回せ回せ……。今この状況を打破しうる最善の手を捻り出せ。ないのであれば作り出せ。お前の賭けうることができる全てを賭けて、(おまえ)の盟約を守りぬけ…!!

 頭の奥は焼き切れそうな程に発火している。

 ギシギシと固まった体を溶解()かすように意志の炎は燃え上がる。

 後先構うことなく俺は魔力を総動員して『リジェネ』を稼働させ――――


「アレン、大丈夫!?」


 ルイーナは気づいていない。気が動転しているのか目前の敵の脅威も忘れ、その背を黒馬に晒していた。

 避けられない。たとえ気がついたとしても、魔力の臨界に達し今にも放たれそうなあの暴風を避けることは叶うまい。


 ぎりぎりと歯を鳴らした。

 起こした体はまるで鉛でも詰められているように重い。支える腕は今にも折れて瓦解しそう。

 だというのに、意志はそれすらも些末事だと切り捨てる。全身から聞こえる悲鳴を無視し、当然のように俺の体は跳ね起きた。

 吹き飛んでいる間にもしっかりと握っていたのか、俺の右手には鋼鎚がある。


 走る。

 射程上からは最早逃れられない。集約し、脈動する光は一つを数え終わる間もなく解放されるだろう。

 ならば、俺にできることは……!


「ルイーナァァ!!」


 走り寄るルイーナをかばうように、俺は前へと躍り出る。


 放たれる。

 何もかもを白く染め上げる光は、馬鹿みたいに大きな音を立てながらあっという間に迫り来る。

 地面をえぐり、周囲の空気を巻き込み、荒れ狂う暴風はまるで首を刈る死神そのものだ。

 手は自然と胸にかかるそれに伸びていた。


「あああああああああぁぁぁっ!!」


 叫んだ。心の底から沸き起こる死への恐怖に抗うために。

 守る。ただそれだけを心に強く刻みつけ―――


「吹き飛べぇぇぇぇぇっ!!」


 封じられた鍵穴をこじ開けるようにして、リベリオンへと残された魔力をねじ込んだ。

 瞬間、突如としてリベリオンから旋風が巻き起こる。だが、その風は所持者たる俺を傷つけることなく鋼鎚へと絡みついた。

 何かに導かれるようにして鋼鎚を掲げ、視界を白く染める閃光に俺は包まれたのだった。










§










 気がつけば、ぼんやりと曇天の空を眺めていた。

 それが気を失い、今まさに目覚めたのだとわかるのに僅かばかりの時間が必要だった。

 記憶が混濁しているのか前の記憶が思い出せない。

 今まで何をしていたのか、何故こうしてぼんやりと空を眺めているのか、それが分からなかった。


 体は動く。動かない箇所はない。全身にありえない程の数の裂傷があるが、それでもまだ体は健在だ。

 ドクドクと血が流れている。その量はあまりにも異常で、ああ、もうすぐ死んでしまうのかと思ってしまうほど。


 胸が熱い。

 魔力はからっけつだ。こんな状態じゃ生命エネルギーに余裕はない。死にかけの体じゃ魔力は生成できない。

 おまけにこの裂傷。熱を逃がすことはあれど、これ以上生み出すことなんてできるはずがない。

 だというのに、まるで焼きごてでも当てられているんじゃないかと思うほど、胸が灼けるように熱かった。


 うまく回らない頭でその熱源を一瞥し、そして俺は目を見開いた。


「ぁ………あ……!」


 それは今までよりも更に翡翠の輝きを増したリベリオンだった。

 僅かにしか感じなかった魔力は、比べるまでもなく爆発的に増えていた。

 それはこうして俺が生きていることにも繋がっているのだろう。そして、そこから導き出される結論は一つ。




 ―――リベリオンは黒馬の魔力を吸収した。




 それはつまりあの恐ろしい暴風を無力化し、吸収したということ。

 しかも魔力をつぎ込んだ事によって起きた風は、師匠の家で起きた時のように俺を傷つけることはなく、鋼鎚に絡みつくようにしてあの暴風を減衰させた。

 身震いした。それがどんな意味を持つかなど朦朧とする頭では理解できない。

 どんな方法かは分からない。何故そうなるのかは知らない。

 けど、それだけで十分だ。あの化け物を相手に俺はまだ闘えるのだから。


 そしてその輝きが俺のはっきりとしなかった記憶を呼び覚ました。


 思い出す――――何をしていたのか。

 思い出す――――何に立ち向かっていたのか。

 思い出す――――誰のためにあの光に抗ったのか。

 思い出した―――俺が自身を犠牲にしてまで守ったのが誰だったのか。


「ルイーナ…!!」


 体をひきずるようにして彼女を探す。

 全身が熱い。傷が余計に開いたのか、血は止めどなく流れている。

 だけど、そんなことはどうでもいい。生きた、俺が消えずに生き残ったのだ。

 だったら、ルイーナだってきっと生きているはずだ。頼む、どうか…どうか生きていてくれ……。


 その願いが聞き届いたのか。ルイーナは程なくして見つかった。

 動かない。顔は青白く、まるで生気を感じない。その姿があんまりなものだから、嫌な未来を想像して息が詰まる。けれど、彼女の上下する胸を見て、俺は安堵の息を吐いた。

 全身に傷こそあるが、まだ息はある。大丈夫だ、ルイーナは生きている…!


 ポーチから回復用のポーションを取り出し、ルイーナの口に無理やり含ませる。残るはただ一本だ。

 彼女は多少身動(みじろ)ぎしたが、大人しく飲んでくれた。

 白かった顔色に徐々に赤みがさし始める。これでひとまずは大丈夫だろう。


 ドスン!と大地が揺れる。ああ、そうだ。お前がまだ残っていたな。

 その音の主は俺達が生き残っているのが不快であるように、低く唸りを上げた。収束する殺意は俺ただ一人に向けられる。

 あれを打ち破った俺をよほど脅威と見たか、不服そうに何度も地面を蹄で叩きつける。


 ポーチをあさり、二つの瓶を取り出した。その中身をあおり、傷と魔力を回復させる。

 もう予備はない。これが正真正銘最後のポーション。

 煙と音を立て、たちまちに傷が癒えていく。数秒もすれば、すぐに立ち上がれるようになった。


風精(シルフェン)…」


 小さく呟くと、薄緑にぼんやりと輝く光がルイーナの体から飛び出してきた。

 ルイーナの呼び出す風の精霊だ。それは宿主たるルイーナの周りを心配そうにぐるぐると回っている。


「すまないが、ルイーナを頼む」


 黒馬から目を離さず、そう言った。

 精霊は任された!とでも言うように強く発光し、ルイーナの周りに風の檻を作り上げた。

 力のない精霊であってもその護りは城塞に匹敵する。但し、宿主と精霊の力のほとんどをつぎ込むために、余程の緊急事態以外では使わない魔法だ。


 これで大丈夫だ。もう後背の憂いはない。ルイーナは彼女の精霊が守ってくれる。

 残る憂いはただ一つ。


「待たせたな、黒色野郎」


 鋼鎚を構え、リベリオンに魔力を注ぎ込む。

 緩やかにリベリオンから風が巻き起こり、それは徐々に勢いを強めていく。

 やはりその風に残虐性はなく、俺の腕を伝うようにして鋼鎚に絡みつき、その威力を増していく。


「かかってこい、今度こそお前をぶっ倒してやる…!!」


 黒馬は地面が陥没するほど強くその脚を叩きつけ、怒りを露わにするように狂暴な咆哮を上げた。

次回投稿は不定期になります

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