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鋼鎚使いの無能神官  作者: しらぬい
第1章 流嵐の王都編
11/45

EP 9 前触れ

2018/10/14 タイトルを修正しました。




 ギルド“星屑の燐光(シュテルン・グリッター)”へと来ていた俺はよさそうな依頼がないか依頼掲示板を見上げていた。

 師匠に封印を施してもらったネックレスはきちんと懐に大切にしまってある。

 実はかれこれ一時間ほど掲示板の前に立っていたりする。そのせいでギルドの職員が向ける訝しげな視線が痛い。

 今、俺が受けられるD,C,Bランクの掲示板の内、Bランクには全く依頼書が貼られていない。D,Cの方はというと其々一つずつの依頼書しか掲示がされていなかった


 別に誰かが大量にこなしたというわけでもないらしく、ただ単純に依頼が少ないだけらしい。

 とはいっても、討伐依頼さえほとんどないのも不思議なものだ。

 ちら、と更に高ランクの依頼掲示板を見ても同じ。貼られている依頼はほとんどない。はて、と首を捻る。


 依頼が極端に少ないことはたまにある。

 特に討伐系じゃない依頼、犬の散歩だとか何かを取ってきてくれだとか、そういう依頼は誰かが依頼を解決し尽くしていたりすることもある。

 討伐系依頼だって誰かがモンスターを狩りまくれば不可能なことじゃない。


 それに討伐系依頼に関しては別の要因もあったりする。

 何年かに一度、魔物大発生が起こる。詳しい原因は未だ分かってはいないのだが、どうもダンジョンや森の奥地で冒険者に運よく倒されず残った固体が成長し、ボスクラスになって近隣の街や村に攻め込むらしい。その際に、奴らは大量の下級モンスターを引き連れる。それが魔物大発生と呼ばれるものだ。

 この魔物大発生が起こる予兆として現れるモンスターの個体が普段に比べて極端に少なくなる。だから討伐系依頼が少なくなっているのなら魔物大発生を疑ってみることだ。


 さてどうしたものやら。仕事がないのは平和でいいことだが、食い扶持が稼げないのも問題である。

 昨日の依頼のおかげで3日分の食費は確保できているが、何が起こるか分からないこの世界。稼げるのなら稼ぐに越したことはない。

 そう思って依頼書を眺めているのだが、問題はどれも報酬が安いことにある。というか割に合わない。


 例えば女蜘蛛のまだら糸を取ってきてほしいという依頼。期間はおよそ3日、報酬は銀貨3枚である。

 女蜘蛛というのは魔の森に生息する下級モンスターで、奥地の方で自ら吐き出した糸を紡ぎ巣をつくる。その巣は広範囲に張り巡らされており、うっかり踏み込んでしまえば絡みつく糸に動きを制限されながら女蜘蛛と闘うことになる。

 それだけならまだいいのだが、非常に面倒なことに、この女蜘蛛が吐き出す糸は粘着性が強いうえに中々斬れないのである。

 弱点は火なので燃やせば簡単に倒せる。火の魔法が使えるのなら纏めて燃やしてしまえばいいのでそこまで苦労はしないのだ。


 しかしながら俺が使うのは鋼鎚。叩くしかできないものである。

 巣に向かって叩き付ければ勢いよく跳ね返ってくるだろうし、糸が絡み付けば解くのも大変だ。そこまで苦労して銀貨3枚である。ちなみにこれは、そこら辺の食堂で3食分食える程度の稼ぎだ。

 ちなみに銅貨100枚で銀貨1枚、銀貨100枚で金貨1枚という計算になっている。金貨は1000毎で魔金貨と呼ばれる硬貨と交換してもらえるらしいが、未だそれを見たことはない。

 というわけでこの依頼はパス。俺にとって相性が悪すぎる。


 他の依頼も似たようなものである。仕方なくどれか依頼を受けるしかないかと決めた時、ふと視界に知り合いの姿が映った。

 ブロンドのポニーテールをゆらゆらと揺らし、使い込まれた軽鎧に身を包んでいる。腰には二振りの剣を吊っており、手には頑丈そうな小手をはめていた。


「ルイーナ、お前何やってるんだ」


 声をかけると、彼女は驚いた顔をすると次いでニッコリと笑う。


「えーと、こんにちは、アレン。ちょっとギルドの方に用事があってね」

「用事って…、何か依頼か?」

「まぁ、そんなとこ。そういうアレンは?」


 尋ねる彼女に対して俺は依頼掲示板の方に目を向ける。彼女も依頼の少なさに目を丸くして納得するように頷いた。


「珍しいね、こんなに少ないなんて」

「もしかしたら魔物大発生が起こるかもしれん。ルイーナも森に行くなら気を付けておけよ」

「うぅん…。今まさに森に行こうとしてたんだけどなぁ」


 彼女は考え込むように口に手を当てると、そのまま黙ってしまった。


 そういえば鍛冶屋の方はいいのだろうかとふと思う。まぁ彼女の事だから臨時閉店にでもして出てきたのだろう。しかし、わざわざ彼女が武器を持ち出してまでここに来たことには多少驚いている。

 以前にも何度か彼女と依頼をこなしたことはある。とはいえ、彼女の本業はあくまで鍛冶屋。どうしてもと言う時以外は彼女が武器をその手に取ることはない。

 その彼女がギルドに来ているということは、そのどうしてもというのがあったのだろう。

 当の彼女はうーん、うーんと悩ましげに唸り声をあげている。


 ひとしきり彼女は悩んだ後、眉尻を下げながらこちらを見上げた。


「ねぇ、アレン。アレンって今暇じゃない?」


 暇かどうかと聞かれればまぁ暇である。受けたい依頼もないことだし。

 特に用事もないと答えると、彼女はほっとしたように息を吐いた。


「じゃあ、ちょっとアレンにお願いがあるんだ。よかったら聞いてもらえないかな?」

「俺にできる範囲でなら構わないぞ」

「じゃあねぇ……」


 彼女の出した提案に俺は快く承諾したのだった。

次回投稿は本日15:00となっております。

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