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 九日目。

 ドローは宿で朝食を摂ってからストーンアーマーをし、隠蔽で身を隠しながら外に出た。

 宿は先払いなので、部屋から出たのならば扉を開けておくだけでいい。


 まずは、昨日のスケルトン狩りで得た資金で魔道具を買うのだ。


(ライターはコンロがあるからいいとして、水が湧き出る袋とランプは買っておいて損はないな。シートは無ければ最悪、土魔法で代用できるし)


 ライター、コンロ、水袋、ランプ、シート。

 これらは外で活動する冒険者であれば揃えておきたいツールだ。

 魔道具を買う店は前回の休日で確定しているので、ドローの歩みに迷いは無い。


「……」


 目つきが悪くて無愛想な店員を通り過ぎ、ドローは目当ての商品を鑑定し、品質に問題が無い事を確認してから手に取った。


 一つは、魔力を注ぐと水が湧く、背負えるタイプの水袋だ。最大容量は十リットルほど入る。

 二つ目は上と横に持ち手が付いている、水晶のような六角柱の形をしたランプだ。

 魔力を込めると光り輝くものでスイッチなどはなく、魔力でオンオフができる簡単な仕組みだ。


 こういう魔道具は魔力操作の訓練にも使えるので、師匠が弟子に買い与える事が多い。


「まいどあり」


 魔道具を二つ買っても資金はまだまだある。宿代を心配する必要はない。

 ドローは店を後にしてから自身を隠蔽すると、買ったもの少しだけ試してから"どうぐ"に入れた。

 しっかりと鑑定してあるので動作確認をしなくても問題は無いが、それでもこういうものは一度使ってみたくなるものだ。


 そして、道中のレストランを食べ比べしたくなる誘惑に耐えながら、なんとか迷宮に辿り着いた。


 入り口で兵士にギルドカードを見せてから中に入り、一応の武装を展開して人波に流される事しばらく。

 その時に暇だったドローは思った。


(今の所、資金稼ぎはスケルトンが一番良いとして、この迷宮の最奥層は何がでるんだろう?)


 考えてしまうと気になるのが人の性だ。やがて第五層に辿り着く。

 第五層のスケルトンと戦う前に、第六層の敵の顔を拝む事にしたドローは、そのまま次の層に向かった。


(周りの装備はスケルトンの時と比べて若干上がってるか。倍々ゲームは終わりかな?)


 などと予想しながらも、この迷宮の最奥層に到着した事でグループ毎に散っていく冒険者を、ドローは鑑定しながら吟味をする。

 この中から、偵察しても問題がなさそうな力量を持つパーティを探し出す必要があるからだ。

 とはいえ、それは鑑定ができれば、そんなに時間は掛からない。


(んー……あのパーティなら大丈夫そうだ)


 モンスターの動きがわかる程度に強くて、モンスターと戦っても瓦解せず、素材の収集をしっかりできるパーティ。

 ドローが探していたのは、そんな冒険者達だ。


 彼らの能力値は三十台。戦士が三名と弓などの後衛が二名。最後の一人が魔法使いだ。

 冒険者の中でも十分、一人前とされる力を持った、メンバー構成が堅実なパーティだ。


 ただし、その男女比はドローが嫉妬に狂うので黙秘しておく。全員、顔も悪くない。

 ドローは不細工と感じるような人物を、この世界ではまだ見たことが無い。

 もっとも、この世界では怪我や病気でもなければ不細工は存在せず、美人は一般的には美形だけであり、可愛いのは普通顔の範疇だ。


 頭をクールに心を嫉妬のヒートで燃やしながら、彼らの後を隠蔽を維持したままドローはストーキングをする。


 しばらくすると、パーティは羽音が響くモンスターと遭遇した。


(げっ、デケェ蜂だな)


 ドローが早速鑑定すると、それはビッグホーネットというモンスターだった。

 大きさはスケルトンよりは小さいが、それでも成人ほどはある。外見は蜂そのものだ。


 全ての足が槍のように尖っていて、能力値は二十五。

 今までと違ってスケルトンの倍ではないが、毒持ちだ。それが、群れになって飛んでいる。


(狙われていないからいいけど、こっちに来たら素材回収できなくなると分かっていてもメタルシャワーで反撃したくなるな)


 などとドローが思っている間に戦端は開かれた。


「オーラ・スパーク!」


 イケメンリーダーが"闘気:一"を使って一番最初に突撃する。

 闘気は一時的に能力値の力と体力を増加させる、武器を使ったりする近距離型冒険者の花形スキルだ。


 ついでに剣術や盾術も持っていて、一撃でビッグホーネットを倒している。


 だが、ビッグホーネットは一体ではない。

 そんなリーダーに他のビッグホーネットが群がろうとするが、それも他の戦士二名と後衛から飛んでくる矢や魔法のおかげで有効打は与えられていない。


 リーダーが攻撃をして、他のメンバーは妨害に注力しているようだ。これも一つの戦い方である。

 私情を度外視すれば、安全マージンを重視するドロー好みなパーティだ。


(一撃が重いのか、それとも毒を警戒しているのか)


 それでも無傷で戦闘が終わるほど彼らに実力があるわけではない。

 リーダーの鎧にビッグホーネットの一撃が叩き込まれる。


「ぐっ……!」


 しかし、直撃を避けた良い防御だった。

 だが、攻撃は確実に効いていて体勢が崩れている。追撃チャンスだ。


(そこだ! いけ!)


 ビッグホーネット側を応援しながらも、鑑定ができるドローには、それが致命打ではない事は分かっていた。

 だからこそ追撃を望んでいたわけなのだが、そんな願いは他のメンバーの援護によって儚く散った。


 二人の戦士が盾を構えて防御重視でリーダーのフォローに入り、後衛はビッグホーネットの進路妨害に注力する。

 ほんのわずかな時間稼ぎであったが、リーダーが復帰するにはそれで十分だった。

 数と連携を駆使した、実に人類らしい戦い方である。


(冷静に対処されたなー。そりゃあ、冒険者にリスク管理はつきものだけどさ……)


 やがて戦闘は終わり、リーダーは生き残って回復ポーションで傷を癒す。

 ビッグホーネットの死体の数は八体。それを弓持ちの一人が調理スキルで解体し始めた。


 その作業を、ドローは近づいて観察する事にした。

 "隠蔽:三"のおかげで発見されていない事は、他の警戒をしている冒険者の横を通っても気が付かれていない事で理解できる。

 "感知:三"にも反応は無いが、すぐ側に近寄らない程度の警戒は忘れない。


(魔石は胸にあるのか。槍のような手足も回収して……え?)


 解体者はビッグホーネットの下半身の部分にも刃を入れて、流れてくる琥珀色の液体を瓶に詰めていく。

 これは個体を見極めて一突きしないと内部で毒と混ざってしまう。

 混ざり物には価値が無くなるので、ビッグホーネットの中でも一番気を使う場所だ。


(……蜂蜜)


 迷宮に花は無い。

 これは魔蜜といってビッグホーネットの魔力が、とある部位で蜂蜜のようになっているのだ。


 蜜という名がある通り、魔蜜は蜂蜜のように甘くて魔力回復効果がある。

 食材としても薬の材料としても引っ張り蛸な一品だ。

 もっとも、調理スキルがないと回収する事はできない。


 全ての作業を終え、次のモンスターを探すパーティと別れたドローは、前の層に続く場所に戻っていた。


(貫通されるような防御を展開するつもりはないし、回復もできるとはいえ、毒は怖いな。それに、調理スキルが無いから目玉素材が回収できないのが痛い)


 回収の難しい素材ほど高く取引される。

 確かに調理スキルがあれば、ビッグホーネットならばスケルトンよりも稼げるし、その増加量は別として経験値も上だ。

 だが、今のドローのスキルだと、ビッグホーネットよりもスケルトンの方が金になるのは事実である。


(それでも非効率だから、後一つは上げないと安定しないんだよな)


 脱出に向けた安定した資金の獲得と、万が一、負傷した時の安全性の向上。

 次のレベルアップで回復スキルを上げるのは、まさに一石二鳥なのだった。




 回復魔法でスケルトン達を昇天させ、魔力が自然と回復するまでドローは、いつも通りに隠蔽からの攻撃を繰り返した。


 そして、二十グループほどスケルトンを倒した時にレベルアップとなった。


(よしよし。それにしても、段々こなさないといけない数が増えてきたな)


 能力値は四千と九十六。四体の強靭でカッコイイ古代竜ほどだ。

 発生したスキルポイントは回復魔法へ振り、三つの魔法が解禁された。

 単体中回復と複数回復。それから、中解毒だ。


 ドローは詳細を理解するべく、早速"つよさ"からヘルプ機能を使った。


(ヒーリング、マルチ・ヒールにリフレッシュか)


 ヒーリングは千切れた部位を、対象に違和感無く再接続できるほどの効果がある。

 マルチ・ヒールは、両手ほどの数の対象を同時に回復させる事が出来る魔法だ。

 最後のリフレッシュは一般的な様々な毒を解毒できる。ただし、強力な毒は解毒できない。


 そして、地味ながら大事な事が一つ。回復魔法の魔力効率が上がった。


 これでドローは、いちいちスケルトンにヒールを掛けなくても、マルチ・ヒールで消費を抑える事ができるようになったのだ。


(脳内マルチ・ロックオンができないのって、意外とストレスが溜まるんだよな)


 単体にしか効果が無ければ、休む事無く連続で魔法を行使する必要がある。

 なぜなら、無理に魔法を発動させようとすると狙いが外れたり、不発に終わるからだ。運が悪ければ自滅する。


 今までドローは、その理を渋々受け入れてガトリングガンのように魔法を放っていたのだ。

 これは、数をこなす必要が出てきて、始めて表面化した問題であった。


(まあ、これでやり易くなったし。魔力も増えたし。狩りの回転も上がるでしょ……でも、今日はもう帰る。ヒャッハーするのは明日でいいや)


 レベルアップに満足しながら、素材の完品は"どうぐ"に入れ、他は金属の箱から溢れるほど回収したドローは、迷宮から出る事にした。





「ありがとうございました。またのお越しをお待ちしております」


「どうも」


 冒険者ギルドでドローが一人でありふれた大量の素材を換金しても、それを特別な事として認識する職員は居ない。

 なぜなら、冒険者が誰と組んでモンスターを討伐しようと、ギルド側としても把握する気は無いし、責任は持てないからだ。

 ただ、素行の悪い冒険者はすぐに噂として広まるし、警戒しない方が悪い。繰り返すが、冒険者は自己責任なのだ。


 だからこそ、ドローが一人で換金に訪れても、別の所でパーティメンバーが休んでいるだけだと思われている。


(今日はもう市場は閉まっているし、食料とか水を買うのは明日からでいいか)


 外に出るには足はもちろんの事、食料や水も必要であり、余裕を持った計画を立てるのが重要だ。

 土地勘の無いドローとしても、しっかりとそこまで導いてくれる馬車か何かで外に出る事が望ましい。


("どうぐ"がどこまで使えるのか試す必要もあるし。情報も欲しいけど良く考えたら、あいつら金払ったらなんでも話しそうで口が軽そうなのが嫌なんだよな)


 情報屋はそれが仕事とはいえ、そこで情報を買えば確実に足がつき、どこに行くのか推測する事ができる。

 もしもどうしても聞くとしても、どうとでも取れる言い方をしなければならない。

 ドローは宿に行く道すがら、そんな事を考えていた。


(それと、いくらあっても困らないけど、部屋の質が下がるのと食事が不味くなるのだけは我慢できないな)


 金が必要なら宿の個室の質を下げて金を貯めればいい。それはドローも理解している。

 しかし、分かっていても止められない快適な空間と料理は、彼にとっての最後のオアシスだった。

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