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04

 最低ランクより広い個室。寝返りができる程度に寛げるベッド。二脚の椅子と食事が出来そうなテーブル。

 風呂には小さな石鹸と、使い捨てのコップや歯ブラシまで付いてくる。


 それが下から二番目の個室だった。ここでなら食事を部屋まで運んで貰え、一人でゆっくりと楽しむ事が出来る。

 ちなみに、値段はランク下と比べると百五十パーセントだ。


 昨日の夜と今朝、そこでゆっくりと過したドローは、椅子に座って自らの心と対面していた。


(今は素材よりも経験値。素材よりも経験値……よし)


 勿体無い精神が発動しないように、自分に言い聞かせたドローは椅子から立ち上がる。

 今日も明日を過ごすには金が足りない。向かうは迷宮だ。


 そして、迷宮に入り、次の層へ向かう主流から外れれば、そこから先は広大な空間が冒険者を待ち受けている。

 しっかりと命の安全マージンを確保しておかないと、留まる事無くモンスターと連戦を強いられて、普通の人の命など儚く散ってしまう。


 ただ、慎重にオーバーキル状態のドローには関係の無い話ではあった。


(見ていた限りだと楽勝だけど、慢心は死亡フラグだよな)


 土魔法の魔力ごり押し強化全身鎧化はそのままに、いつでも魔力を通して形状変化できる武器を持ち、"感知:三"でモンスターを探る。

 最後に、使えなくもない"隠蔽:一"で対象の背後から出来る限り素早く忍び寄れば、ビッグバードはドローに気付かずに、頭部に強い衝撃を受けて一撃で絶命した。


(……少し、警戒しすぎたか?)


 まさか気付かれずに倒れるとは思わずに、ドローはビッグバードを鑑定で生死判定しながら唖然となった。

 能力値を比べれば無理も無い現状ではあるが、ドローはここ数日の急激なレベルアップで、いまいち理解できていなかった。


(今度は真正面から行ってみるか)


 隠蔽に頼ってばかりでは、不意の遭遇戦に弱くなる。

 そう考えたドローはビッグバードから魔石を取り出し終わると、次の獲物を探す事にした。


 そして、今度のドローは隠れずにビッグバードに接近したものの、戦闘はあっさりと終わってしまう。


 最初に堂々と近づくドローに気が付いたビッグバードは、距離が開いていたので空を飛んだ。

 ビッグバードは陸よりも空の方が得意だ。木の葉のように身体を揺らしながら、ビッグバードはトップスピードでドローに迫る。


 やがて、ドローに体当たりをしようとするビッグバードだったが、ドローには見てから迎撃が余裕な能力差があったおかげで、ビッグバードはドローの太くて長い棍棒のような何かのカウンタースイングによって倒された。


「……」


 何も変わりがない。それだけが収穫だった。


(本当に……? いや、でも、倒れてるし。動かないし。鑑定でも……)


 ドローは無言でいつもの確認をしつつ、少々疑心暗鬼になりながらも、ビッグバードから魔石を取り出した。




 そして戦う事しばし。ビッグバード十五体目で、ドローのレベルが上がった。

 能力値は二百五十六に上がり、スキルポイントは不安が残る隠蔽に振って二とした。

 これでドローは、居るはずなのに目に映らないという、カメレオンのように摩訶不思議状態になれる。


 能力値の方は、もはや世界で数えるほどとなった。英雄クラスである。

 それでも、英雄なんてレベルアップしてからも見た事が無いドローはいつも通りに動く。


(今日は、もう帰るか。でも次の層のモンスターは……んー……一応、見ておこう)


 なんとなく続いている習慣。ドローは次の層へ流れる人波に乗った。

 "隠蔽:二"でドローが気付かれる事はないが、暇潰しに鑑定すると人々の装備はビッグバードと戦っている冒険者と明らかに格が違う。


(まあ、今までの上がり幅からすると、また倍かな……となると、納得できる)


 ドローの考える仮想敵の能力値が十六だと、これはもはや優秀な大人の数値を超えている。

 大人といっても、それは訓練を受けていない村人レベルではあるが、村人クラスからすれば優秀である事に変わりは無い。


 もっとも、スキルと違って能力値はスキルと比べれば上がり易い。

 ただし、それはドローほどではない。レベルアップの理は、この世界ではそれほど規格外なのだ。


(そろそろか)


 人の流れは速い。

 次層への道はモンスターが出にくい場所を選び抜かれているので、三十分も掛からないのだ。

 やがて第五層に到着すると、人の流れはいつものように二つに分かれていく。

 その層で戦う者と、次の層へ向かう者だ。


 ドローは流れから外れ、モンスターと戦っている冒険者が観察できる場所を、隠蔽を維持しながら慎重に探していく。

 しばらくすると、ドローは一つのパーティを発見できた。


(おっ、あれか)


 この層のモンスター。それは人の形をしていた。だが、骨はあっても他が無い。背丈は二メートルを超える。

 ドローは鑑定をする。スケルトン。それがこのモンスターの名前だった。能力値は十六。ドローの想像通りである。

 しかし、その数は前の層と同じように一体ではない。複数だ。


(群れで来るのか)


 しかもその武装は剣と盾といったオーソドックスなものから、槍や斧、弓といったものまである。

 今まで中途半端にソロをやっていた、天狗の鼻を折るには十分な能力値と物量だ。

 だが、それはドローには当てはまらない。もっとも、天狗になれるほどドローは楽観的ではなかった。


 やがて慣れた手順で四体のスケルトンを倒した手練のパーティは、調理持ちが解体を始める。

 スケルトンを料理するというのも、なかなか妙なイメージである。


(なんかちょっと土木系に見えなくもないけど、気のせいだな)


 骨を折る破壊音が響く。

 ドローが見ている限りだと、魔石は心臓か脳があるはずの部位に隠されているようだった。


 他にも冒険者パーティは、スケルトンが装備していた武器や防具も回収されていく。

 ドローは彼らが手にするものを一つ一つ丁寧に鑑定する。


(……なるほど。少し汚れているだけで、呪われているわけではないのか)


 武器のグリップなどは交換する必要があるが、肝心の攻撃する部位はそんなに痛んではいない。

 硬い物で防御しなければドローでも回収できそうな素材だ。スケルトンが装備していた防具も似たような感じである。


(鉄製品。鋳潰せば様々な用途に使えるか)


 しかしドローには、まだ生産系スキルに手を伸ばすほどの余裕は無い。

 もしドローが手を出すとしても、一番最初に上げるのは素材の回収に必要で、なおかつ普通に使える調理スキルとなる。


 もっとも、この層の素材で出来るのはスケルトンが落とす武器や防具と一緒にスケルトンの骨も混ぜ込んで作る、スケルトンシリーズだ。

 なぜなら、スケルトンは人の骨の形をしていても、その材質は人と同じではないからだ。


(隠蔽を三か四にして、次は回復魔法か、土を上げるか。水でも良いな)


 そんなわけで見終わったドローは、帰り道に戻る。

 迷宮を出たドローは冒険者ギルドでビッグバードの魔石を換金して、いつもの宿に行く。


 泊まるランクは下から三番目。とはいえ、この宿の個室としては最高だ。

 元々が、新人の冒険者を対象としているから、これは仕方が無い。


 部屋の広さはこの宿の中では個室としては一番大きく、大男も安心して眠れる大きさのベッドが目立つ。

 それから、大きな椅子に大きいテーブル、三人ぐらいなら座れるソファーまである。

 ついでに勝手に飲める何種類かの飲み物も既に置いてあり、ベルを鳴らせば食事の注文も部屋でできる。


 これが、この世界での冒険者向けとしては一般的な個室の質だ。

 もっとも、食事は宿で取るよりレストランのような場所で外食するのが普通だ。


 しかし、ドローは宿の食事を取る。今更動くのも面倒で、ゆっくりしたかったからだ。

 残念ながら食事の質に変わりは無い。しっかりとした具沢山スープと白いパン。

 ただし、果物などのデザートを注文すれば少しはマシになる。ドローは久しぶりの甘味に舌鼓を打った。




 次の日。ドローは宿賃を稼ぐ為に今日も迷宮へ行く。

 街の外で自由行動してもいいのだが、敵が固定されている迷宮の方がイレギュラーは少ない。

 安全に数をこなす事を重視しているドローにとって、迷宮は経験値稼ぎの場として最適なのだ。


 ストーンアーマーをしてから、流れるようにスケルトンが出る第五層にやってきたドローは、今回もソロでモンスターを探していく。


 流れから外れて、他の冒険者が居ない所でスケルトンの群れを見つけたドローは"隠蔽:二"をしたまま接近していく。

 相手は剣、槍、弓がそれぞれ二体の合計六体だ。普通の冒険者であれば、数も多くて手強いので近寄らない構成である。


 安全を重視している割には無謀にも思えるが、ドローは攻撃する前に気付かれたら逃げるつもりである。

 しかし、スケルトンはドローが攻撃するまで気付くことは無かった。

 その上、攻撃後に再び"隠蔽:二"で隠れたドローを見失ってしまう。


(やばいな、これ。クセになりそう)


 攻撃された事でスケルトンは敵であるドローを探すものの、発見できない。

 オロオロするスケルトンであるが、他のスケルトンが倒れる時は武器を振ったり矢が飛んだりするものの、ドローは既にそこにはいない。


(うへへ)


 上機嫌になりながらも、ドローは物陰から残りのスケルトンを観察する。

 残っているのは槍と弓の四体だ。そして、土魔法で反対側に小石を落とせば面白いように引っ掛かった。

 あまり知性は無い事を理解しながら、ドローは背中合わせに固まっていた槍二体を近寄って一閃する。


 その時、試しにわざとドローは飛んできた矢の内の一本を、盾を厚くして受け流した。

 ドローには盾スキルは無いが、能力値が違いすぎるのだ。

 それに、当たった場所も馬鹿魔力のおかげで傷一つない。これなら薄い所に運悪く当たっても問題は無い。


(よし)


 ドローがちらりと"つよさ"を見れば、スケルトン一体辺りの経験値はビッグバードの倍である十六だった。

 連携して通常攻撃以外にする事がない、ある意味優しいスケルトンを倒し終わったドローだが、普通はこんなに簡単にはいかない。

 そもそも、この第五層は兵士の訓練場所でもあり、スケルトンが落とす武器防具は新人兵士達の支給品にもなる。


 ドローは嵩張る武器防具を拾いながら、"どうぐ"の擬装用に土魔法で作った石の箱に入れていく。

 そんな時にドローが考えた事は装備品ではなく、日用品の事だった。


(そろそろ、代えの服とか買っておくか)


 売却額が一日の宿代や食費で消費する分を大幅に超える事を、既にスケルトンの素材を鑑定したドローは予想できた。

 つまり、旅に必要な道具や食料を買い、路銀を貯蓄して他の都市に行く事を視野に入れる時が来たのだ。


(このごり押し状態から抜け出せれば、きっと街の外でも死ぬ事は無いはず……)


 大体のモンスターから全力で逃げる事ができるドローは、もうそんな状態などとっくの昔であるわけなのだが、イレギュラーの怖さを父親によって実感させられたドローは慎重だった。

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