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02


 次の日。

 宿の屑肉のスープとパンという朝食で腹を満たした事で、元気になったドローは迷宮に居た。

 スライムを探しては武器を振り下ろし、他の冒険者を避けてまたスライムを狩る。

 ドローの仕事ぶりはそんな感じだ。


 そして、二十体目で切り上げようとしたドローだったが、次のレベルアップにイチ足りなかったのでもう一体追加討伐した。


(よし。やっぱり、ここは鑑定に極振りだな)


 鑑定はレベルが低いと成功率が低い上に表現もふわっとしていて大して使い道が無いが、レベルを上げるとそれもしっかりしてくる。

 そんな三に上げた鑑定スキルで、人やモンスターを鑑定したドローは、ある事に気が付いた。


(あれ……? 熟練度……? 経験値とか見当たらないし。俺以外はスキル制なのか……?)


 ドロー以外はレベルを上げるのではなく、熟練度を上げる。その理で生きている事に気が付いたのだ。

 それでも能力値やスキルといった似たものもあったが、成長の仕方が違う。


 普通は能力値やスキルに必要な行動を繰り返して、徐々に腕を上げていく。

 ドローはモンスターを倒してレベルを上げ、欲しいスキルを獲得する。

 能力値はレベルを上げれば勝手に上がるのだ。


(これはひどい)


 そうは理解しながらも、ドローは自らの有利を嘆いたり捨てようとは欠片も思わなかった。

 折角当たった宝くじを捨てる馬鹿は居ない。

 そもそも自分以外に頼れる相手がいないドローは、細かい事は気にせずにレベルを上げるしかないのだ。


(しかし、ここまで劇的にレベルアップで上がると次の層の相手も、なんとかなりそうだな)


 第一層に存在するスライムは能力値がオールいち。

 レベルが上がる前の、一番最初のドローと同じだ。

 それでもスライムの生命力は、人の子供と比べても低い。まさに最弱モンスターの王者。


 そんな色々とロマン溢れるモンスターだが、今のドローにそんなスライムを飼う暇もスキルも無い。

 ドローは泣く泣くテイマーへの道を一時的に諦めた。まずは自分。趣味はその次だ。


(これは、横においておこう。えーと、そう。次のモンスターだったな……まずは一目、鑑定してからだな。うん)


 迷宮は一層が広い。それでも一直線に次層へ向かえば長時間は掛からない。

 ドローは最後に第二層の敵を偵察して、それから戻って換金し、宿屋に行く事にした。


 迷宮は横にも縦にも広い。

 しばらくして、明らかにスライム狩りではない人の流れを見つけたドローは、その後ろに着いた。

 やがて、ドローは次の層に辿り着く。この層で戦う場合は残り、他はまた次に向かってゾロゾロと人波として流れていく。


 次の層へ向かう人々を横目で見ながら、ドローは次のモンスターを探す事にした。

 やがて、運良く戦っている冒険者を発見した。


(……あれか)


 ドローと同じ、子供ほどの背丈に緑色の外見。醜悪な顔と粗末な武器。見れば分かる有名なモンスター、ゴブリンだ。

 能力値はスライムの倍のオール二。

 第一層を無視して第二層から始めるなどという、無謀な挑戦をドローがしていれば泥仕合になっていた事は間違いない。


 しかし、能力値が三十二に上がっている今のドローにとっては敵ではない。

 人型と戦う事に対する心の障害もない。それでもドローは、考えていた通りに踵を返した。

 まだまだ時間はある。スライムを倒せるドローの心に焦りはなかった。




 次の日。

 宿の朝食を食べ終えたドローは、人波に乗って迷宮の第二層に居た。ゴブリンとの初戦闘である。

 とはいえ、ドローは微塵も緊張していなかった。第二層では他の冒険者の中に、見るからに子供といった存在の姿は無い。

 第一層のスライムゾーンが子供部屋と呼ばれるゆえんである。ただし、小人族は除く。


 子供らしい何かが無いというドローの雰囲気は、この小人族と似ていた。

 そうとは知らないドローは、今日もストーンアーマーで全身鎧化と武装をしている。


 周囲への警戒も怠らず、無駄口を叩かないし、浮ついた様子も無い。

 その子供らしく無い感じが、ドローが周囲に小人族ではないかと思われる原因でもあった。


 ドローの能力値は今ではオール三十二。レベル六の貫禄は伊達ではない。

 オール二のゴブリンでは逆立ちしても勝てない相手だ。


 ゴブリンはドローを見つけると、奇声を上げながら棍棒を振り上げて駆け寄ってくる。

 しかし、ドローは慌てない。土魔法で出来ている武装を変形させるのに魔力を流すと、武器をより太く長くする。

 そして、ゴブリンはドローの振り下ろした武器の一撃で沈黙した。まさに鎧袖一触である。


 ゴブリンはドローに力でも速さでも負け、気配に至っては感知スキルで察知される。

 近づけば鑑定で丸裸にされ、溢れんばかりの魔力で発動された土魔法で屠られる。

 例え単体でなくとも攻撃はストーンアーマーで弾かれるので、ゴブリンも今のドローにとっては無双できる相手だった。


(……お?)


 他にも何か違いはないかと"つよさ"を見ていたドローが、獲得経験値に違いを見つけた。

 ゴブリンはスライムの倍の二。これでレベルアップが楽になる。

 ドローはゴブリンから魔石を取り出すと、喜んで"感知:二"による次のゴブリン探しに精を出した。




 あれからドローがゴブリンをしばく事、少々。それは、合計十六体になった。

 他の冒険者もいるので、フリーなゴブリンを探すのになかなかに時間が掛かる。

 ドローは、これでようやくレベルが七に上がった。


(……おっ)


 ドローは迷宮での独り言は極力しない。現在地が敵地であると理解しているからだ。

 他の冒険者に対しても最低限の警戒を忘れていない。

 単独の子供なんて、見る奴が見ればカモに見えるからだ。出来る限りボロは出さない事に越した事はない。


 それはそうと、ドローはレベルが上がった事で"つよさ"を見れば、また能力値が倍になっていた。

 六十四。村人として優秀な大人が十なので、軽くその六倍はある。もっとも、優秀な冒険者と比べるとそれほどでもない。

 ただ、四つの能力値に欠けが無い事は大きな有利ではある。


 そして、ドローは与えられたスキルポイントを感知に振って三に上げた。

 "鑑定:三"を使っていて、ドローのゲーム脳が満足に使えるとする基準がそこになったのだ。

 とはいえ、ドローはイチのままの土魔法に不満があるわけではない。そこは魔力でなんとかカバーできているからだ。


(それは上級魔法ではない。下級魔法だ……か)


 "つよさ"を見たりニヤニヤしていても、ドローのゴブリンから魔石を抉り出す作業が止まる事は無い。

 やがて作業が終わるとドローは帰る事にした。あまり長居しても、緊張感が欠けて注意力が落ちる。


(ゴブリンの魔石はスライムの倍。やっぱりこういうスキルは三だな)


 鑑定が三になってから、しっかりと利用法や売値が判明してきたのだ。

 そんな妙な確信を得ながら、ドローは迷宮から抜け出した。


 そして、今日もいつもの安宿だ。ただし、今回は食事の質を上げる。ちょっとした日常へのサプライズである。

 その日の晩飯は、スープにしっかりとした肉と野菜が浮かんでいた。塩以外の味もして、量も多い。

 パンも白くて柔らかかった。スープに浸さなくても噛み切れる。ドローは満足だ。


「ウマウマ」


 そして、ドローは今日も宵越しの金を持たない、実に良い食べっぷりだった。




 次の日。

 ストーンアーマーで全身武装化状態のドローが迷宮でゴブリンと戦うも、やはり一撃で沈んでしまう。


(うーん……身長の低い小人族もいるとはいえ、先に進んで問題は無い……のか?)


 小人族はこの迷宮でもたまに見かける。そして、実力だけで見ればドローは次へ進むべきだ。

 それでも二の足を踏んでしまうのは、なにもそこまで危険を冒す必要があるのだろうかという思いがあるのだ。


 現状でも続けていけばしっかりとレベルもあがるし、安宿とはいえ雨風を凌げている。

 食事だってドローは昨日ので十分美味しかった。柔らかい白パンは最高である。


(かといって、ゴブリンの後にスライムを乱獲したら悪目立ちしそうで面倒だし、さっさと切り上げてしまえば朝に行って朝に終わる事になる)


 つまり、暇なのだ。こればっかりは、どうしようもない。ドローの年齢が年齢なので、色や酒で遊べないのだ。

 もし、小人族だと嘘をついても、立たぬ股ぐらを遊女に探られたら一発でバレてしまう。


 それというのも、昨日上げた感知が気配まで把握できるようになってしまったから、ドローは索敵に掛ける時間が大幅に短縮されてしまったのだ。


(……仕方ないか。一度、様子を見に行ってみよう)


 次の層へ進む人の、波のように流れていく気配は途切れる事が無いから、微かな音を頼りにドローが見つけるのは容易だ。

 それでなくても、ドローは一日駆けずり回った事で、この層の大体の地図を脳内に描いていた。


(記憶力が上がったからってどうするんだと思ったけど、こういうのにも使えるんだな)


 流れ行く数人のグループの中に、たまに交じるドローのような一人身。

 嫌でも周囲の好奇な視線を浴びるのをドローは頑なに無視して、やがて第三層へ足を踏み入れた。

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