3(プリン、寄越しな)
そしてやっぱり映画はハズレ。次いでばったり級友と遭遇する。しかもびっくり男連れ。
男どもを残し、ミチ子は亜希子の腕を抱えて引きずっていく。ショップとショップの間仕切りの前、人波の切れ間で耳元に囁かれる。「やっぱ、やっぱなんだ」
「日本語になってない」やっぱやっぱ、この子はおかしい。「あんたも同じでしょ」
するとミチ子は、「お兄ちゃんだよ?」
は? と思う。「兄妹かよっ」
ミチ子が笑う。「何だと思った? ねぇ、何だと思ったの?」
なんとウザイことか。むすっとして見せたところでミチ子はニヤニヤするばかり。視線をチラチラ、残された男どもに向ける。「黙っててあげるから、今度給食でプリン出たらちょうだい?」
ほとほとびっくり、アホの子だ。「騒いでいいからプリン、寄越しな」
「脅迫された!?」
そんなこんなで「お邪魔虫は消えるね」笑いながらミチ子とその兄(妹と違って大人しそうな雰囲気)が雑踏の中に消える。
モールの中は天井も高く、吹き抜けもあって開放的なはずなのに、この息苦しさはなんとしたことか。館内に流れる音楽もかき消される程にやかましい。ぐぅ、とお腹が鳴った。
「なに喰う?」尋臣が訊く。この喧しい中でまったくもう、耳ざとい。通りかかったフードコートは大混雑で、子供連れが多く、落ち着きない。
「静かなところがいい」
亜希子がこぼすと、尋臣は薄く笑う。「下の階かな」
「あんまし高いのはダメ」念のため釘を刺す。
気にするな、と尋臣は云う。「先週からの飯代の繰り越しがある」
「奢ってくれるの?」そりゃ嬉しいけど。「悪いよ」
「ハズレ映画のお詫び」
ならいっか。亜希子は素直にお言葉に甘える。
「希望はそっちに任せる」と尋臣。
「いいの?」と意地悪く亜希子。「満漢全席」
「まぁ、大丈夫だろ」
「ジョーダン」
幾つかの飲食店を廻って、ゆっくりできそうで、それほど待たされそうもない小洒落たオムライスの専門店を選んだ。今日のランチはシェフの気まぐれセット。白いクリームソースの海に、ぽっかり浮いた黄色い島。スープとサラダがついてオススメです。
食事しながら、ハズレ映画も二人でさんざんコケにしたら案外いい所もあったように思えたりした。すっかりお腹がくちくなって、お店を出て、「ごちそうさま」
「どういたしまして」会計を終えた尋臣が財布を尻ポケットに戻す。
「このあと、どうする?」
「本屋に寄るかな」
フロアを上がり、人波を避けながら再びふたりしてモールの中を歩いていると、ふと尋臣が立ち止まって、亜希子はまたと思う。
「帰る?」
尋臣はジッとアクセサリショップのウィンドウを見つめ、暫くの後、「なんだって?」振り返る。