end-2人の思い出の味
付き合ってちょうど半年位。あの初デートからは、5カ月ほど経ったのか……。距離が離れたり、くっついたり。青春をヤマアラシのジレンマとは先人はうまく例えたものだ。
楓「どうかしたの?」
今までの事を思い返していた楓は僕に声をかける。
僕「なんでもない」
楓「本当に?」
楓は、顔を覗き込む。意地悪そうな顔と共に。
楓「今日バレンタインデーなのに? チョコ1個も貰えてない君が? 本当に言いたい事ないの?」
そういえば、今日は男女でチョコが交わされる日だった。色々な思惑が交わる日でもある。
僕「チョコ下さい」
楓は、僕の一言を待っていた。僕は楓に渡しやすい様に道を架けてあげる。
楓「トリュフチョコだよ。9個入り。味わって食べてね」
包装も凝ってあった。丸いトリュフチョコが食べて欲しそうに綺麗に並んでいる。一つを口の中に放り込む。甘い香りと味が口の中に広がる。しかし、様子がおかしい。中にとても硬い物が含まれていた。
楓「当たり。それは、生ニンジン入りだね」
楓の性格を考えてはずれが混ざっていると思ってたが、まさか一発目で当たるとは……。もう一つ、口の中に放り込む。口の中にはチョコとは全く違う味が広がった。
楓「当たり。それは、生レバー入りだね」
まさか、2つもハズレだとは……。ハズレを引きまくっている僕に、楓の顔は嬉しそうで仕方が無かった。……。余りにも嬉しそうな楓の顔。もしや……。
僕「ハズレ、楓の言うところの当たりはもう入ってないよね」
確認を取る僕。
楓「入ってるはず無いじゃん!」
今までの経験と楓の笑顔から推測する。これは、何かしらが混ざっている。しかも、9個全部に。
僕「それなら、後7個全部楓が食べれるよね?」
楓「えっ」
この言葉は楓が追い詰められた時に発する鳴き声だ。僕は1つ適当に選び楓の口へ運ぶ。
僕「はい。あーん」
僕は、逃げられないようにしっかりと楓の右手を掴んでいた。楓はしょうがなく口を開く。
楓「当たり……。わさび味」
楓が食べたチョコ。それは、初デートの時の思い出の味だった。