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黒い木立ち

作者: 田中アネモネ

 その頃、私は幸せの絶頂にいた。


 そのひとは私を幸せにすると言ってくれた。

 私はそのひとに身を捧げようと決めていた。

 月は夜空に浮かぶチーズ玉で、美味しそうな色を纏ってニコニコと、二人を見守ってふわふわ笑っていた。


 ある冬の日、私は絶望という名の穴に落ちた。


 丸い穴から見上げる月は、幻想を脱ぎ捨てて、真の姿を私に曝していた。乾いた色の満月が、髑髏のように、表情もなく私を見下ろしていた。


 私は逃げようとした。幸い、穴の中にはいくらでも逃げ道が広がっていた。それはモノクロームの林だった。


 裸の黒い木が立ち並ぶ中を、私は白い空間を伝って逃げた。しかしどこまで逃げても月は白けた空にあった。


 乾いた足音と、荒い吐息──それが世界にある音のすべてだった。私は胸に心臓が脈動しているのを感じながら、ただそれが止まらないことを祈った。それだけが希望と信じるように。


 だんだんと、白い空間が少なくなりはじめた。


 黒い木立ちが、私を取り囲んで、回りはじめた。


 無数の細い腕を広げて、集団で狭まってくる。

 

 蜘蛛のように、獲物を狩る化け物のように、私の存在を締めつけてくる。


 冷たい風が吹き抜けるのはそのままに、音もなく、まるで古い写真のように、風景は落ちた。


 私の目は水に浸されて滲み、遂に世界は真っ黒に閉ざされた。





 私は自分の魂をポケットから取り出すと、紙屑のように、黒い地面にぽいっと捨てた。


 すべてはどうでもよくなった。


 だから今、私はここにある。


 あの時、魂は私のものだと信じ続けていたら──


 私は今でも、あの黒い木立ちの中にいたのだろうか。






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― 新着の感想 ―
 ホラーというよりも文学的な詩を思わせますね。  ウェットだった感情が森を抜けてドライになる。これが枯れるということなのか……。  ですがすぐ情熱の火は点きそうです。まあ、それが新しい恋愛とは限りませ…
雰囲気がモノクロメルヘンな感じなのかなあ? 頭に浮かんだのが切り絵(影絵?)、白と黒、それだけで作られたような紙芝居。 まあ、最後にクシャッとされたけど。
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