9【レドモンド・ウォーカー】
国王でもあり私の兄でもあるランドンは、伴侶のベンジャミンに話がある時は無遠慮に部屋へと入って来ては相談をしていく。
「聖女を娘にしようと思う」
バタンッと扉を開けながら高揚感を隠し切れないような態度で馬鹿げた事を言いに来た。
「なにを仰っているか分かりかねます」
その言葉で聖女召喚が成功したのだという事は分かったが、娘に…という言葉は理解が出来ない。
昔からそうだった。
兄と私の容姿は正反対だ、そしてその違いを引き合いに出し私を貶す言葉を初めて耳に入れてから兄は国を変え、全てを平等に…という指針を胸に抱き奮闘し、時に暴走している。
今回もその暴走グセが出たのだろうと分かった、そしてベンジャミンに伝える前に相談をしたいとやって来たのだと矢継ぎ早に言う言葉で理解した。
「危ないぞ、あの娘は危険すぎる!危機感がなさすぎるんだ!」
「…………はぁ」
「レドも会ったら分かる、危険だ」
「お会いする機会などありませんよ」
ぐっと言葉を詰まらせる兄には流石に慣れてもらいたいと思うが、いつも私の醜い姿形を話すと不機嫌になる。
「娘になったら一目くらい会う機会があるだろう」
「そんな事して逃げられても知りませんよ」
より一層眉間のシワが深くなりながらも召喚について詳しく話し出す兄に、今度は私が言葉を詰まらせた。
兄が美醜について何かを言う事を聞いた事がない、こんな風に騒いで美しさを熱心に説く姿も初めてで驚いたが、それ以上に兄から聞く聖女様との会話や、美しさを理解していなさそうな態度に驚き…というよりは困惑する。
美しい者特有の傲慢さなど見られず、話を聞いた限りだと我が王の傍に居たいとも、他に見目の良い者を侍らかしたいなどという事も言ってこないという。
兄は渋っていたが、見目の良い者達を集めた召喚の場でも、兄と話している時でさえ興味すらなさそうな態度だったと。
無口というよりは、口数の少ない聖女様は召喚に混乱しているのかもしれないな。
現状を理解すれば願いや、帰れない不遇に嘆くだろう。
「あんなに無防備でいたらあっという間に攫われてしまう。人員を確保したら護衛の人数は当初の倍にしようと思う」
本気で言っている兄の言葉は疑いよりも信憑性が高い。美しさなどで態度が変わるなど馬鹿らしいと一蹴していた兄だ。
「増員は賛成しますが、聞いた限りでは嫌がるのでは?」
「うっ…だが、攫われてからでは遅い!」
「……それもそうですね」
「!!!そうかっ!ベンジーには呆れられたがレドが賛成してると言えば分かってくれるはずだっ」
「なっ!それは…!」
「また来る!」
相談ではなく仲間が欲しかったんだと気付いた時には既に兄は居なく…
「はぁ…」
私のため息だけが残る。
神様からの啓示を受け、浄化をする為だけに見知らぬ世界へと召喚されてしまった聖女様は困惑されていないだろうか。
嘆き悲しんでしまう事も…
聖女召喚を信じてはいた、だが心の底から信じてはいなかったのだと気付いた。
1人の人間を、美しい少女だという人間を召喚してしまったのだと…
申し訳なさもありながら、国に蔓延る淀みを浄化して下さる事実もまた有り難いと思ってしまう。
「どうか…せめて心穏やかに…」
私のような者の声は届かないかもしれない。
だがせめて祈ろう。
会う事もないだろう聖女様の安泰と幸福を祈り願おう。今の私にはそれしか出来ないのだから。
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軽快なノック音は聖女様付きになったクーパーが扉を叩く音だ。
優秀な人材をこちらでも出して欲しいとあの後連絡がきたので、クーパーを推薦したのですが…問題でもあったのでしょうか?
「クーパーです」
「入りなさい」
入室して来たクーパーの顔色はやはり悪く、何かあった事が伺える。
「聖女様に付いているはずだろう?聖女様になにかあったのか?」
「いえ、そうですね…聖女様はとても麗しく私などがお側に仕えるなど…汚してしまわないか不安なところもありますし、精霊様のような泡沫さも感じられ、一瞬でも見逃したら消えてしまうような儚さ、寝起き姿は愛らしく庇護欲を唆り、そこがまた心を鷲掴みにするほどの愛らしさ!あまつさえ、私手ずから食」
兄でさ傾倒している聖女様はクーパーまでもトリコにしてしまったようだ。止めなければいつまでも続いてしまうだろう言葉を遮るように話し出す。
「なにかあったのではないか?」
「はっ…!失礼致しました。………聖女様が聖主様にご挨拶をと申しております。」
顔色がまた青くなりながら伝えられた言葉はよくある事だ。
あの兄の弟という事で期待され、一目見たいと言われる事も少なくない。
そして落胆するのだ。
「私の姿形についてお伝えしましたか?」
「い、いいえ」
「我が王の弟だと知って見てみたいとでも?」
「いえ、聖主様という存在すら分からないようでした」
「では、美しいと勘違いされているのでしょう。手紙にて私の姿形についての説明をしますから先に戻っていなさい」
「……申し訳ございません、お願い致します。」
なにも知らずに会われ取り乱された方が、兄に申し訳が立たないな。
聖女様はこの国を背負っている。
彼女の機嫌を取らねば浄化が叶わないと誰も彼もが思う事だろう。
「はぁ…」
手紙を取り出し、慣れた文章を書き出していく。
断り文句だと神殿にわざわざいらっしゃるご令嬢も居たが、私の顔を見ると愕然とし、走り去って行った事もある。
聖女様が強引な方ではないといいのだが…
トントン…
「クーパーです」
「?入りなさい」
もしや強引に訪ねて来た…?それとも神殿には居たくないと仰っているのかも…
「どうされました?」
「それが…」
クーパーが私の目をしっかりと見ながら言葉を吐き出す。
こんな風に見られた事などなかった。
一体何が起こって…
「聖女様が聖主様に挨拶されたいと」
先程と変わらぬ内容を伝えてくるクーパーに困惑した。
「話を聞いてくれなかったのですか?」
「いえ、それが、その、聖主様のお顔について、その、説明しようとしたのですが…」
「構いません、続けて」
「“美醜の基準など人それぞれ、私が思う価値を決めつけないで下さい”と」
「はい?」
「その、醜いなどと口に出すなとお叱りを受けました…」
「は?」
「困惑はごもっともですが、挨拶をしたいと聖女様からのお願いなのです」
願い?
何故わざわざ私に会いたいなどと…
クーパーの言っている内容も、聖女様がそこまで会いたいと言っている事も理解が出来ない。
だが願いならば…
叶えなくてはならないだろう。
聖女様のお考えは分からないが、1度会えば理解して頂ける。
「我が王に1度連絡します。浄化をしたくないなどと言われても困りますから」
「はい。ただ、問題ないかと」
兄とベンジャミン以外に目を見ながら話されたのはいつぶりだろうか…
去って行ったクーパーの変化にしばらくは困惑していたが…そうだ、兄に説明をしなければ…
挨拶の件を兄に伝れば「分かった」その一言だけだった。
昨日出会ったばかりの聖女様にどれほどの信用を預けているのかが伺える。
だが、信用と美醜についてはまた別。
ああ、嫌だ。わざわざ蔑まれに行くなど…
憂鬱な気分にはなるが、早く聖女様にお会いしなければ不満を言われてしまうかも…
そんな心のまま挨拶をした私に聖女様は仰った?
「一目惚れしました。」
???
ああ、いけない。私のような者があまりに美しい方と相対しているという現実に妄想まで加えて私のいいように解釈して…
???
横に………
???
手を握っ…!?にぎっ…!にっ!にっ!にっ!
???
頭を冷やす必要があるな。




